長谷川匠
誕生日パーティーと名のつくものに最後に出席したのは小学生だ。みんなそんなものだよな。だから良美の幼馴染の誕生日パーティーにこないかと言われて驚いた。高校生にもなって誕生日パーティーってガキだなって。
だってまかさ、洋館貸切で礼装出席なんておもわないじゃん。
スーツなんて持ってないから良美が用意してくれて助かった。紳士、淑女、お嬢様、そういうハイソサエティな人間が当たり前のように完璧なマナーで一介の高校生に頭下げてるって庶民には理解し難いものがある。と、いうか、マナーをクソ執事に習っておいてよかった。生まれて初めて感謝したわ。おかげで恥をかかずにすむ。坂上の彼氏には今日初めて会ったけど、こういう場に慣れているらしく、スマートに坂上をエスコートしていた。あのレベルには達していないからまだまだなんだけど。俺は俺なりに頑張る事にする。今日の為に着飾った俺の女王様は美しい。ああ、あの足で俺の事を踏んでほしい。ドレスの裾にキスしたい。出来たらどれだけ幸せだろう。異常な妄想が頭を巡る。
パーティー会場で女王様の幼馴染に出会った。なんか、華奢な人形みたいな女で、赤いドレスが似合ってない。寧ろ、このドレスは女王様たる良美が似合っていただろう。だが、女王様は似合わないと思っているらしい。自分を知らないって不幸な話だ。そして、人形が俺達に挨拶する。けど、ちょっと失礼な奴だ。そう感じたのは俺だけでなかった。なんと、坂上が喧嘩を買う形で言い返したのだ。ああ、そうだ、坂上はかなり気が強い女だった。並の女では太刀打ち出来ない。ところが、さすが女王様の幼馴染と言ったところか言い返す。でも、待て。なんで、女王様の一番は私的な言い争いなんだ?おい、坂上、お前の彼氏も若干引いてんぞ。思わず顔を見合わせ苦笑する。そうこうしているうちに話がどんどんヒートアップしていく。そろそろ止めた方がいいのでは?と思い、女王様がいる方に視線を持っていき…いない。
「あれ?良美は?」
思わず声を出せば、坂上達も気づく。
「さては、逃げましたわね!」
「一体いつの間に!?」
「良美はよく気づくといないのよ!」
「しょっちゅう避けられているのね!」
また、言い争いが始まり出して、うんざりしてくる。坂上と人形女、混ぜるな危険だ。俺と坂上の彼氏は顔を見合わせて、頷きあうと、
「香織、向こうに良美を探しに行こう。」
坂上の彼氏が坂上を引きずるようにして退場させた。
「えーっと、佐倉さんでしたっけ?あちらに良美を探しに行きましょう。」
「え、いや、あの、それは…」
なぜか、先程までの勢いはどこへやら、ワタワタし始める。うん、小動物的でちょっと可愛い。
「あ、俺は長谷川匠といいます。今日は良美のエスコートできました。」
だから怪しくないですよ〜と言う意図で良美の名前を出す。途端に小動物的な可愛いさは消え失せ敵視始める。ねぇ、君どれだけ良美ラブなの?
「良美のエスコート役?なんで、あんたみたいな男が??何、長谷川の名前で良美を騙したの?」
言われて、俺は天を仰いだ。まさか、学校を離れてまで言われるとは思わなかった言葉を聞いたから。
「騙してるつもりはないですよ。」
これは本当。ただ、機会を逸しただけ。
「学校では、坂上の次くらいに良美の側にいるし、ある意味坂上より良美に詳しい。」
「な、なんですって!?」
明らかに動揺する人形女。そこに余裕はない。
「ま、ま、ま、まさか…か、か、か、か…」
「か?」
「彼氏!?」
真っ青な顔で彼女は叫ぶ。今にも倒れそうだけど大丈夫?
「いや、違う」
でも、ここはきちんと否定する。
「俺は女王様の下僕」
「…」
「…」
あれ?なんで黙る?
いや、女王様だよ?恋人なんて恐れ多くて望む事すら許されないだろう。だったら、下僕。それが俺の立ち位置だ。
「貴方…」
震える声が人形女の口から紡がれる。
「わかっているじゃない!」
続いてキラキラお目目で身を乗り出してくる。
「そう、良美は女王様なのよ、男はみんな下僕で恋人なんて汚らわしいもの必要ないのよ!」
「もっと言えば、俺以外の下僕はいらない。特に執事とかまじいらない。」
思わず本音で頷く。
「それって石竜子のこと!?」
「そう、あいつ邪魔。」
「わかるわ!私、あいつに連絡の9割は握り潰されているもの。」
「そうなのか?」
「そうよ、毎日、手紙を書いているのに返事がないもの。」
言われて俺も心あたりがあった。
「そういえば俺も毎日電話をしているが繋いでもらった事がない…」
「貴方も!?」
「ああ、今言われて気づいた。あの男は本当に邪魔だ。」
「私はもう、10年嫌がらせに耐えてますわ。」
「10年も!?」
言われて彼女は頷く。
「初めて会った時からいけ好かない奴でしたの。当時追い出したくて、色々やったけど全て倍返しされてますの…」
10年前というとまだ小学生だよね。小学生相手に倍返しって容赦ねぇな、クソ執事。彼女は当時を思い出したか、プルプル震える。
「まあまあ、これやるから。」
俺はスマホを取り出し写メを見せる
「こ、これは!」
「先週の授業中、居眠りしていたから撮った。」
「いやぁぁぁ!可愛いぃ!」
「だろう?最近の一押しだ。これ、送るよ。」
「本当!?」
問われて頷く。
「じゃあ、私も…」
彼女もスマホを取り出し写メを見せてくる
「これなんてオススメ。」
「うわ!やべぇ!」
体が興奮し打ち震える。良美5歳くらいで超笑顔!やばい、レアだ。レアすぎる!
「ぜ、是非…!」
俺達は連絡先を交換して写メを送り合う。折角だし、今度、ライン送ってみようかな。
「そろそろ良美を探しに行くか。」
どうやら、坂上達はまだ女王様を見つけていないらしい。
「多分、庭に出たと思うわ。行きましょう」
言われて俺は半ば条件反射で手を差し出しエスコートする。人形女は一瞬ためらうがその手をとる。
「昔っから良美は人気のいないところでパーティーが終わるのを待つ癖があるのよ。」
二人で庭に出て大声を出せば、すぐに女王様が出てきた。心なしか顔が赤い気がしたが、暗いから絶対とは言い切れなかった。