ヒロインとハイスペック悪役令嬢
「…と、言う訳で、パーティーに来る?」
正直、ヒロインに伝えるのも憚れるアホな話だが、あの馬鹿令嬢は一度言い出したら人の話を聞きゃしない。とりあえず、ヒロインに話を通すべきだろう。
「成る程、腕がなるわね」
「はい?」
私は思わす聞きかえす。言ってる意味もわからないが、彼女の目にはかつて匠を取り合っていた時に見せた戦闘モードな色を灯している。
「…で、この話をするのは私だけでいいと思うんだけど、どうして、変態がいるの?」
ちらっと私の横にいる男…変態ストーカー事長谷川匠に視線をうつす。私はため息をついた。
「…私と同世代の子が主催で開くとはいえ、一応は社交パーティー。この手のパーティーにはエスコート役が必要なのよ。」
「…エスコート…」
「私は社交界なんて普段行かないし、どうしても出る場合はお父様にエスコートして貰っていたけど、今回はお父様はお仕事でパーティーには行けないから…」
「よりにもよってこの変態にエスコートを依頼すると?」
「その通りです。」
石竜子は使用人だからエスコート役には不適格。堂本はヒロインのエスコート役を務める事を考えると、頼めるのは匠しかいないのだ。エスコート役がいない事を理由に断るのは社交界では恥とされる。背に腹はかえられない。匠は私の手をとる。本当、凄いイケメンだ。なんで変態になってしまったのだろう。
「喜んでエスコート役をやらせて貰うよ。」
そしてパーティー当日。私に英里佳様からドレスが送られてきたりもしたが、迷わず破棄して石竜子に選んで貰ったドレスを私は着た。ブルーのシンプルで露出のない物を着ている。さすが石竜子、私の趣味と希望を外さないものだ。一方ヒロイン。さすが、ヒロイン美の女神と言った感じだ。白のマーメイドドレスに金の刺繍が施されていてとても綺麗だ。堂本からのプレゼントだそうな。さすが堂本、いい仕事している。堂本と匠はスーツだ。二人のスーツは私から贈った。迷惑料代わりだ。二人ともイケメンなので安定の似合いっぷりだ。堂本と匠は初対面だが、当たり障りのない挨拶を交わしていた。
そして、パーティー会場に入る。豪華絢爛な会場にヒロインと匠は腰が引けている。私はまぁ、慣れているし、堂本もまあ、経験があるのだろう、堂々としている。因みに石竜子は使用人の為、パーティー会場には入れず控えの間にいる。今回のエスコート役を匠に頼んだ事を言った所、石竜子にしては珍しく我を忘れて取り乱し、今日まで毎日、匠を掴まえてはエスコート役のマナーを叩き込んでいた。その甲斐あって中々様になるエスコートぶりである。私達4人を見て周りがざわめく。エスコートを務める男性は二人とも芸能人も真っ青なイケメンであり、女性の一人は女神の如く美しい。顔面偏差値が一人極端に低い私は社交界で知らぬ者無しの北帝だ。目立たない訳がない。
「で、どうすんだ?」
「とりあえず、今日の主役に挨拶しましょう。」
私達は奥に陣取る本日の主役の元へと向かう。
「良美!」
本日の主役英里佳様は赤いプリンセスドレスを着ていた。さながら一輪の薔薇のようだ。
「私が贈ったドレスは!?」
「速攻捨てたわ。」
私に贈られてきたドレスは彼女が今着ているものと全く同じ品だ。着れるか!!
「ひどい!」
ひどくないから。私はため息をつく。
「英里佳、紹介するわ。」
言って三人を彼女の前に立たせる。
「こちら、私の友人坂上香織嬢とその恋人の堂本要氏、で、彼が私のエスコート役であり、友人の長谷川匠氏よ。」
言われて英里佳様はにっこりと微笑む。
「はじめまして、佐倉英里佳です。本日は私のワガママで来て頂きありがとうございました。」
優雅に一礼され、慌てて三人も礼をする。その様に英里佳様はくすりと笑う。
「まあ、坂上様はこの場に慣れていないようですわね。折角美しいのに挨拶の仕方が…ねぇ?」
後ろに控える彼女の取り巻きに話を振る。取り巻きは確かにと頷き小馬鹿にしたように笑う。実に不愉快だ。
「英里佳、あまり失礼するのなら私達は帰るわよ。」
「やだ、冗談よ」
楽しそうに英里佳様は悪役ぶる。対してヒロインは…
「ええ、全くこの場には慣れていなくて。でも、良美が最初から最後まで一緒にいてくれるから安心です。」
ふふふっと笑いながらヒロインが言い、その言い方にピクリと英里佳が反応する。
「あら、良美は私と一緒にいる予定なんだけど。」
「いえいえ、私とよ?」
花火が散ってる…だと?
何故かこの場にいてはいけないと思い、 お嬢様スキル気配消しを行いその場を去る。後ろで、ヒロインと英里佳の場をわきまえない罵りあいの声が聞こえた。怖い!ぶるりと震え、私はグラスをウェイターから受け取り飲み干す。勿論お酒ではありません。ふと、周りの声が聞こえてきた。
「あれが、北帝?」
「一緒にいた友人達とは随分趣きの違う雰囲気なのね。」
「あら、私は以前別のパーティーでお会いした事があるけれど、随分顔色がよくなっていて、驚きましたのよ。」
どうやら、周りを心底驚かせる程には私の外見偏差値は高くないようだ。ま、わかっていたよ。私は外の空気を吸う為、そっとガーデンにでる。そのまま裏手に周り隅っこに座った。このまま静かにパーティーが終わるのを待っていたい。せめてヒロインと英里佳様の罵り合いが沈静化するまではいたい。
「…おや?人が?」
人等いるはずないこの場所で声が聞こえた。