イベント回避は権力で。
結果がシロなのは驚いた。絶対クロだと思っていたからね。ゲームでは大会終了後に事前提出した検体で陽性反応がでていた。だからちょっと早く検査しても陽性反応がでると思ったのだが、これが噂のシナリオ補正ってやつだろうか?どっちにせよ、現状打つ手なし。大会まで何もできない。
そして大会当日。私は会場でヒロインとバッタリ出くわしていた。
「あれ?良美?」
「えっ!?なんでいるの?」
「だって堂本さんとこの道場の人がでるんだもの。応援にきたんだよ。」
そらそうか。寧ろ私がなんでいるんだって感じだよね。ヒロイン、堂本が唯のジムトレーナーではないって教えて貰ったのかね?うん、関係が深まってるようだ。
「香織!」
堂本の声が聞こえる。てか、香織って呼びましたよ。敢えて聞いてないけど、今度二人の仲を根掘り葉掘り聞こうかな。
「うお、あんたもなんでいるんだ。」
私と後ろに控える石竜子を見て堂本は驚く。
「あれ、堂本さんが誘ったんじゃないんですか?」
「なんで香織以外を誘うんだ?」
心底不思議そうに問われヒロインは顔を朱色に染める。
「あれ?じゃあ、なんで良美がいるの?」
「私はたまたまだよ」
私の嘘に堂本と石竜子は顔を顰める。
「席はどこなの?」
問われて私は
「VIP」
「さすがお嬢様。」
「ヒロインは?」
「関係者席」
「さすが彼女」
そこ、二人で赤くならないで。ほら、石竜子も俯いて笑わない。
「そろそろ始まるみたいだし、席に行こう」
その声をきっかけに私達は別れた。
間も無く試合が始まった。ここらへんゲームでは軽くナレーションが入って流されて終わったが、そのナレーション通り堂本道場の面々は好成績を収めた。試合そのものには興味もなく欠伸を噛み殺しながら見ていたが、石竜子はそんなこともなく真面目にみていた。表彰式も終わりやがて閉会式へとうつっていく。
「石竜子、行くよ」
「どちらへ?」
「堂本のところ」
「何故?」
「おめでとうをいいに。」
まさか、そろそろイベントが始まるから間近に行くとは言えない。石竜子はそれ以上は何も言わず黙って付いてくる。
私達が関係者以外立ち入り禁止の控室に着いた時には既に雑然としていた。
「そんな訳ないだろう!」
「ですが、実際陽性反応が出ておりまして」
「だから…」
ゲームでこのやりとり見たわ。そう思いつつ私は真っ青になってるヒロインに近づく。
「良美!」
「どうなった?」
あ、セリフのチョイス間違えた。ただしくはどうしたの、だ。まあ、誰も気にしてないみたいだけども。
「なんか、ドーピング検査に引っ掛かったって。」
「全員?」
「そう。でも、選手も堂本さんも否定していて…」
そう、全員が陽性反応を出し、そして全員で否定するのだ。考えてみたら結構異常だよね。ゲームでは堂本の悪人顔でスルーしてたけど、冷静に考えたら大会出場選手全員が陽性反応って変だ。一人二人なら理解できるけども。
「兎に角、今回、陽性反応が出ましたので、成績は全員取消です。」
「そんな!」
「なお、今回の事態を重くみて、連盟は堂本さんの道場に対してなんらかのペナルティも考えております。」
「なんだって!?」
「石竜子、この間の検査結果のペーパーある?」
「は、こちらに」
私は石竜子からこの間の検査結果を受け取る。
「すみません。」
「はい?今は取込み中」
私は堂本と話し込んでいた連盟の人に声をかける。そして、検査結果のペーパーを渡す。
「これは…」
「実は偶然先日ここの選手は皆、連盟主導のもとドーピング検査を受けておりまして、これがその結果です。」
「…確かに…ですが、結果は新しいものが優先されます。こちらは意味がないかと。」
「これが最新です。」
きっぱり言い切った私の言葉を正しく理解出来たのはおそらく付き合いの長い石竜子だけだろう。石竜子はスマホで取るべき場所に連絡をとる。
「貴方が今お持ちの結果はなかったのです。」
「は?いや?すみません、意味が?」
「石竜子!」
「はっ」
まるで悪役の側近のような反応と共にスマホを渡してくる。
「もしもし、会長?私よ、良美。この間やった堂本道場のドーピング検査だけど、最新の物は手違いで正しく測れなかったようだから、先日やった分を最新分として提出するから、いいわよね。…そう、部下には貴方から話通して頂戴。」
言って私は電話を渡す。渡された連盟の人は戸惑いながらもでて…
「えっ、はっ、会長!?ほ、本人ですか!?本当に!?ディスプレイの電話番号…うわ、本当に本部の番号だ!はいっ!え、いやでも…え、クビはちょっと…すみません…はい、はい、わかりました」
電話がかえってきた。
「礼を言うわ。今回の件は父にも伝えておくわね。」
電話を切った。そしてにっこり笑う。
「と、いう訳だから、これが最新よ。よって彼らの成績の剥奪もなし。」