フラグは折らずにイベント回避!
お弁当盗難事件は解決した。後日確認した所、後藤はそれなりの金を支払ってジムの受付嬢を買収しお弁当を盗んでいたらしい。成る程、それならロッカールームに入るのも鍵も関係ない。でも、そんな面倒な手順を踏まなくても学校でパクればいいのにと言えば、流石に学校で問題は起こしたくなかったらしい。まあ、チクるけどね。理事長と話し合った結果後藤は不問とする代わりにヒロインの学費全額免除で手を打つ事となった。今、後藤はヒロインを見ると内股になりながら逃げていく。後、新聞部には二人の破局記事を書かせた。正確には誤報だったのだが、それは書けないと頑なに拒否されたのでこうなった。腑に落ちないがヒロインは全く気にしていないので、まあいいだろう。そして、肝心のヒロインと堂本だが、事件以来順調に関係を深めているらしい。毎日毎日顔を合わせれば堂本の話ばかりするのでちょっとうんざりだ。気づけば運動後のカフェも私はハブられている。まあ、いいけどね。もうヒロインは堂本ルートに完全に入ったと言ってよいだろう。と、いう事は間もなくやってくる強制イベントがある。
堂本没落イベントだ。
堂本はそもそも夏に行われる空手の世界大会に道場のオーナーとして帰国していたのだ。その大会で堂本道場の選手が軒並みドーピングで引っかかるのだ。これを機に堂本道場は薬で強くすると悪評がたち道場の経営が一気に成り立たなくなるのだ。
放って置けばそういう未来だが、私は放っておきたくない。ヒロインは私の親友であり、堂本はその恋人なのだから。彼らには幸せになって貰いたい。折角これから起こる出来事がわかっているのだから止めに入っても許されると思うのだ。
私はゲームに転生して初めて転生者らしくイベント回避に動く事になったのだ。
「やあ、堂本君、元気かい?」
私は笑顔で堂本に手を振る。
「な、なんであんたが!?えっ?てか?え」
堂本は驚き固まっていた。そりゃそうだ。今私がいるのは堂本の道場。彼も普段と違い道着を着ている。彼は私が彼の本職を知らないと思っていたのだ。なのに普通にやってきた。しかもかつてない大人数で。
「なんでって大会近いから手助けにきたのよ」
「なんで大会の事知ってんだ!?それに手助けって?」
私の後ろに控える大人数をちらちら見ながら問いかける。
「堂本君は自分が意外と有名人だって事知るべきだよ」
おどけて私は言う。少なくても私の中では彼は有名人なのだからまあ、間違ってはいない。
「いや、そんなはずは…てか後ろの人達は?」
「ああ、ドーピング検査をしてもらう為にその筋の方に今日は来てもらいました。」
「ああ!?」
流石に不機嫌な声を出す堂本。周りのお弟子さん…と言うか選手かな?も不満顔だ。当たり前だよね、突然やってきてドーピングを疑っているんだから。だか、無視する!
「では、皆さんお願いいたします」
私の声と共に検査キットが配られていくが
「は!こんなの誰がやるか!」
次々拒否されていく。それも計算のうち。
「でしたら、大会出場は取消という事で。」
『はあ!?』
道場関係者の声が見事にはもった。
「この検査は国際空手連盟の許可を得て行う検査であり、拒否すれば大会出場権利剥奪との事です。」
私の言葉に周りはざわつく。
「堂本。嘘だと思うなら自分で確認してみな」
堂本は大きく息を吐き、スマホを手に席を立つ。
「いきなりやってきて…なんなんだよ」
「もしかしたら堂本さんに振られた女なんじゃ?」
「ああ….」
ちらちら私を見ながら言う。段々ドーピング検査への不満から私の容姿への侮蔑へと声が変わっていく。これでも前よりよくなったんだよ。ヒロインに化粧を教えて貰い今はファンデーションだけそっと塗っている。このおかげでニキビ跡がだいぶ目立たなくなった。髪もふんわりツヤツヤをキープしている。お弁当事件以降、美容院には石竜子と行っているが特に問題はおこっていない。だが、体つきがたるんでいる為まだまだ可愛いという言葉からは程遠い所に私はいる。ダイエット開始時からマイナス8キロ。4ヶ月でこの落ち幅なら個人的には順調だと思っている。まあ、まだ芋虫みたいだけど。そうこうしているうちに堂本が戻ってきた。疲れ切った顔をしている。
「お前ら、検査行け…」
この一言で私の告げた言葉に嘘はないと知り、舌打ち混じりに検査を受けに行く。動き出した人達を尻目に堂本が隣にきた。
「なんで、こんな事したんだ?」
声には特に怒りはない。純粋に疑問なのだろう。連盟を動かしてまでこんな事普通やらない、と、いうか出来ない。
私は肩をすくめて曖昧な笑顔を見せてその場をやり過ごすしかできなかった。
検査キットを回収し、検査局へ移動していく。検査結果は明日との事なので、結果が出次第私に教えるよう言い含め、他言無用と伝える。そして翌日。
検査結果は全員白とでた。
そんな馬鹿な!