お弁当盗難事件解決編
「犯人は誰なの!?」
ヒロインが言い募る。
「貴女の自称彼氏だよ。」
「ノォォオ!」
頭を抱えてうずくまる。
「自称彼氏?」
堂本が聞いてくる。
「最近、ヒロインに変な男がひっついてんの。」
そうとしか表現出来ずに私は肩をすくめる。
「ここはそいつの家ってか?」
「そう。住所聞いて間違いないって思った。」
ごめんなさい、嘘です。前世のゲーム背景でこのマンションがありました。さすがに部屋番号まではわからないけど、石竜子がさくっと調べてくれました。
「まあ、とりあえず行くか?」
堂本がヒロインに聞く
「行きます!」
目には炎がほのかに灯っていた。
私達は部屋に向かう。その途中で私は考える。これを利用して堂本とヒロインくっつかないかなーって。ヒロインの片思いだが、わざわざ、こんなアホらしい事に手を貸す程度には気にして貰っているのだから、好感度0という事はないだろう。そこに当て馬がやらかした訳だ。当て馬がどれだけ悪役ぶれるかでこの二人くっつくんじゃね?若干悪役の人選に問題ありな気もするがそこは諦めよう。そう、話の持っていき方次第では私と堂本の関係も清算できるのではないだろうか?どさくさに紛れて別れ話とも取れるセリフを言って了承させてしまえばいい。無論、タイミングや私と堂本の関係でも不自然でないセリフの選択など課題はあるが…狙えなくはない…はず。
ピンポン
幸いオートロックではなかったので直接部屋に向かいピンポンする。
『はい』
インターホンから漏れる男の声
「お弁当返してください!」
ガタガタ!
インターホン越しで慌てる音がする。
「オラオラ、開けろや!」
ドアをガンガン蹴る堂本。あれ?どっちが悪役?私はドン引きだが、ヒロインは素敵って目で見てる。恋は盲目なんだな。
「開けないと、理事長にチクるよ」
この一言で男はインターホンを切った。
ガチャ
鍵があくと同時に堂本はドアを押し開け問答無用で押し入る。借金取みたい。ヒロインは素敵っみたいな目でみてる。恋は盲目なんだな。あっと言う間に男に蹴りを入れる、入れる、入れる、入れ…って
「ちょっ、もういいでしょ」
「そうか?」
ちょっと、動かないよ。生きてる?どっちが悪役よ??ヒロインがペットボトルの水をドボドボかける。うわ、こいつらそっくりだ!案外似合いのカップルかも。ぶるりと震える。
「う、うー?」
ヒロインの自称彼氏こと、後藤が目を覚ます。
「お弁当返してください!」
「イヤだっ!」
この状況で断るとは、怖いもの知らずだな!
案の定堂本に胸ぐらつかまれガクガク揺さぶられてる。
「ちょっ…貴方…誰…?」
「あ?俺か?」
ちらりと私を見る。
「俺は良美の…」
「私のトレーナーであり、坂上さんの彼氏です!」
『えっ!?』
私のかぶせ気味のセリフに全員がハモって驚く。
「そうでしょ!?」
「いや、俺は良美の事が」
今だっ!
「私には石竜子がいるから!」
あれ?いや、我ながらベストなタイミングだった。堂本と私の微妙な関係でもおかしくなく、それでいて言外に別れ話が含まれるようにも聞こえるセリフのチョイスだった。でも、なんでそこで石竜子が出てくる?私にとって身近だからか?内心の動揺をよそに堂本は私の目をみて茫然としている。その隙をついて後藤が逃走をはかり、リビングに行く。しかし、堂本は逃さない。あっと言う間に追いつき、後藤を組み伏せる。その際お弁当が置いてあったテーブルにぶつかりひっくり返って落ちてしまう。
「…あ…」
ヒロインが声を出し俯向く。
「あ、いや、これはわざとじゃなくて」
堂本が慌てて言い訳をする。
「ふざけんなーーー!」
『!?』
ヒロインの絶叫が響いた。
「ねえ、先生?一体どうやってお弁当盗んだんですか?なんで盗んだんですか?超迷惑です!」
「そのお弁当は僕が食べるべきで」
「はあ?あんたが食べるべき?どこからそんな考えがでてくるんですか?あんたの為に作ったんじゃねーよ。これは堂本さんの為に作ったの!」
「えっ!?俺!?」
予想外だったのか普通に驚いている。
「なのに、なのに、なのにぃぃ!」
ふぇぇぇんと泣き出してしまったヒロイン。
さすがに悪かったと思ったのか、
「す、すまなかった」
組み伏せられたまま後藤は謝罪する。
「許すかボケ」
さっきまで泣いていたとは思えないドスの効いた声を出すヒロイン。
「一発殴りたい。堂本さん、こいつ立たせて」
「あ、はい」
素直に頷くと堂本は後藤を立たせて羽交締めにする。意外とおとなしくしている後藤。その様子を尻目にヒロインはダイニングチェアを両手で持って…って、待て!
「ダメ!さすがにそれで殴ったら死んじゃう!」
「良美、私達親友よね?」
「え?う、うん、勿論。」
何故にここでそんな事聞いてくる?
「もみ消しよろしく!」
「うわー!ダメ!さすがに殺人は揉み消せない!」
「チッ」
舌打ちしてイスから手を離す。ほっとする私。ヒロインはじっと後藤を睨み
チーーーン
そんな音が聞こえるような一撃を加えた。後藤は泡を吹いて意識を失い、堂本は内股になった。私は心の中で合掌した。しばらく、部屋の中にヒロインの荒い息が占める。
「畜生、畜生…!」
悔し泣きをするヒロイン。
「せっかく、堂本さんの為に作ったのに…!」
その言葉を聞いた堂本は落ちたお弁当を拾って
「!」
食べた!
「うん、美味い!」
「ちょ、堂本さん、それ落ちた奴!」
「うん?3秒ルールだよ」
「3秒以上経ってますって!」
「問題ないよ、美味いもん」
ひょいひょいと拾って食べていく堂本。
「でもでも!」
「で、明日は?」
「へ?」
「明日は作ってこないの?」
「作ってきます!」
「おぅ、楽しみにしてる」
爽やかに笑う堂本。悪役顔しかできないと思っていたらそういう顔もできるのね。
「でも、いいんですか?」
「何が?」
「私、勘違いしますよ?」
おっと、ヒロイン攻めてきた!
「俺は良美が好きなんだよね。」
「知ってます」
どんな顔すればよいのか、声を出せばよいのかわからない私と違ってはっきり言うヒロイン。
「だから、頑張るんです。」
真っ直ぐ堂本の目を見て言う。
「好きなんです。はじめてお会いした時から。堂本さんが良美の事が好きなのはすぐに気づきました。でも、諦めません!まずは一緒にお弁当食べる所からはじめませんか!?」
言われて堂本は私を見る。
しばし、見つめ合い…先に目を逸らしたのは堂本だった。
「こいつにはいけ好かない犬がいるからな。」
言ってヒロインを見る。犬って石竜子の事?
「犬が勝手に尾っぽふって懐いてるだけかと思ったらちゃんと飼い主の自覚もあるみたいだしね。」
自重気味に笑いながら言う。
「まだ、色々整理がついてないけど、それでもいいか?」
言われてヒロインぽかんとして…
「いいに決まってます!やっぱり良美がいいって言ってストーカーにジョブチェンジしてもはなしませんからね!」
堂本に抱きつく。結構勢いあったのにふらつく事もなく受け止める堂本。…あ、これスチルであった!床に後藤が倒れこんでなければ完璧だ!
堂本は笑いながら
「そんな奴いるわけねぇだろ」
と、彼女の髪を撫でながら言い、私は誰とは言わないかの人の顔を思いうかべるのだった。