お弁当盗難編
「お弁当を作れ。」
ヒロインに堂本ルートに入って貰おうと決意はしたが、私のルート脱出方法が不明な以上とりあえずヒロインに堂本の好感度をあげて貰いたく、彼女に言ってみた。
「デザートはお菓子。もち、手作り。甘いやつを少量。」
「何を急に?」
ヒロインは訝しげだ。
「今のままじゃ進展しないからアドバイスしてんのよ。」
「なんでまた、お弁当とお菓子なのよ」
「得意でしょ?」
言われて勿論と胸を張るヒロイン。家庭の事情で料理は得意なのだ。
「得意だけど、受け取ってくれるかな?」
「甘いお菓子を少量添えて渡せば100%受け取って貰える。」
自信満々に言い切る。前世の知識で奴は甘党とわかっている。特に手作りのお菓子に目がないが仕事柄太る訳にはいかないのでたくさんは食べないというのも知っている。このポイントをきちんと押さえたお菓子とお弁当で好感度を上げるのだ。
「…と、いう訳で作ってみたよ。」
仕事の早いヒロインは翌日に早速お弁当とお菓子を持ってきていた。ちらりと見せて貰ったが色どり鮮やかで、でも男性好みのがっつり感もでている。そしてデザートでカップケーキが1つ。やばい、普通に美味しそう!もう、これで堂本はメロメロになるに違いない。
「もし、受け取って貰えるのなら、これも習慣付けたい。」
3人でお茶に続き、お弁当も習慣になれば私としても嬉しい。
今日はドキドキしながらジムを目指す。私が渡す訳ではないがドキドキしてしまう。ヒロインの恋心がうつったのかもしれない。荷物はロッカーに入れて鍵をかける。いつものようにロッカールームで別れる。私は堂本と運動コースへ、ヒロインは体質改善コースへと向かう。4時間後に落ち合う予定だ。特にいつもと変わり映えなく、石竜子見学の元、堂本の罵声を聞き流しつつ、軍隊並みに厳しいトレーニングを積み、4時間後開放される。私は4時間みっちり運動しているが、ヒロインは2時間で終わっている為既にカフェにいるはず。シャワーをさっさと浴びてロッカールームに行った。予想に反してロッカールームにはヒロインがいた。なんだか、泣いているようだ。
「ど、どうしたの!?」
私は慌てヒロインに聞く。
「お、お弁当が…ないの!」
なんだってーーー!?
「ちゃんと探したの!?」
「探したよ!」
即答するヒロイン。探す場所なんて限られているのだから、余り意味のない質問だったと反省する。お弁当を忘れてきたはない。ヒロインがカバンにしまう所をちゃんとみていた。だが、鍵がかかる上に人の出入りがそれなりにあるこのロッカーで盗難等ありえるのだろうか?
「鍵はちゃんとかけたよね?」
「勿論だよう。」
今、ロッカーの鍵穴にはキーホルダーがついた鍵が刺さっている。ここのジムは個人専用のロッカーを渡されジムを退会しない限りずっと使う。もし、このロッカールームで盗難が発生したとしたら、それは個人を狙った悪質な物の可能性があるのだ。
「とりあえず、盗難の届けを受付で出して、今日はお弁当渡すの諦めよう。」
「そうだね…」
ヒロインは力なく言った。
今日はたまたま運がなかったのだ。そう自分に言い聞かせたのだろう。だが、それはすぐに否定される。
翌日もお弁当は盗まれたのだ。