ワンダーランドイベント後編
『あ、ごめーん、後少しでナイアガラに乗れるからそこらで待っててくれる?』
ヒロインがスマホで匠に電話をしたら途中で同行している女子の一人に変わり言われた言葉がこれ。さすがにいらっときた。
「性格悪くね?」
ヒロインが私に同意を求める。私は勿論同意する。
「一年の時はこんな子じゃなかったんだけどな。」
「それは、この間の北帝さんの土下座がきいたんじゃない?」
「どういうこと?」
「北帝さんがご執心の男の子に手だしたら下手したらお家が没落すると思ってたんだよ、きっと。」
言われてぽんと手を打つ。
「それ、あなたにやればよかったわ。」
「残念、私は既に没落している。」
にやりと笑うヒロイン。まあ、没落云々は置いておくとして、あの土下座パフォーマンスで匠は私のお気に入りから外れたと思った、今まで指咥えて匠を見ていた女子達がなりふり構わず動き出したって事か。さすが、学校一のイケメン、モテモテだ。
「あ、北帝さん、よかったら連絡先交換しない?」
「うん?いいよ。」
私とヒロインは出会って始めて連絡先の交換をした。
「とりあえず、ベンチに座って待とう。」
私達はベンチに座る。しばし、雑談しているとすごく元気な女子にがっつりホールドされた匠がやってきた。匠、顔色悪い!
「だ、大丈夫?」
匠にヒロインは話しかける。答える前に
「やーん、優先チケットありがとう!」
私達から優先チケットをもぎ取る。
「じゃあ、私達はビックバンに行ってくるね」
「待って、私達も行くから!」
慌てて待ったをかける。
「え!?でも、他にも優先チケット取ってきてほしいんだけど。」
「交代制でしょ。」
「ええええ?でもぉう」
匠をちらちらしてこちらをちらちらして、察してオーラ出しまくる。悪いけど、察しませんよ。別に遊園地で遊びたいわけじゃない。ただ、私達はあなたの小間使いじゃないんだよ。
「なんか、匠君具合が悪そうだし、次の優先チケット係は彼ともう一人の二人で行くのはどう?」
私の言葉に先程まで仲間として固まっていた彼女達の視線に火花が散った!
「私達はさっきやったから免除で、三人の中から選びなよ。」
三人はじゃんけんをはじめた。その間、ヒロインが匠に話しかける。勝負は一瞬でつき私達はビックバンに、匠とじゃんけんに勝ち越した女子がお化け屋敷の優先チケットを取りに向かう。ビックバンはすごく並んでいた。普通に並んだら2時間待ちだそうだ。しかし、私達は優先チケットがある。不機嫌な女子二人を宥めて私達はビックバンの中に進む。優先チケットの効果は素晴らしく、あっという間に乗車する。人生初めてのジェットコースターだったが…うん、ちょっと苦手だ。降りた後、ヒロインが声かけてきた。
「北帝さん、トイレ一緒にいかない?」
「行く!」
残り二人をちらりと見ると
「私達は先に行ってるわ」
と、こたえも待たずに行ってしまった。私達は肩をすくめてトイレに向かう。トイレの前にワイシャツにスラックスを着てワンダーランドのメインキャラクターの帽子を被った男が立っていた。女性ならキャラクター帽子を被るってよくやるけど、男性で、しかも見たところ一人でやってるってどんだけワンダーランド好きなんだろう?
「クフフフ」
隣で天下の美少女も笑っているよ。
「ヤッホーー!」
「!?」
知り合い!?
なんと、ヒロインはワンダーランド好きの男に声をかける。男は帽子を少しずらしてこちらを見る…って
「匠君!?」
なんと、ワンダーランド好き男は匠君だった。
あれ?なんでここにいるの?
「よく巻けたね」
「制服の詰襟脱いで帽子被ったらわからないみたいだ。」
と、いうより声かけづらいんだと思う。
「え、巻いたって?」
「このままじゃ、彼女達のペースだもの」
しれっと言うヒロイン。まぁ、間違ってないな。
「じゃあ、二人で遊んでおいで。私は戻る。」
「え、戻るの?」
「戻らないと煩いし、フォローが必要でしょ?」
パチンとウインクひとつ。やばい、超可愛い。いや、そうじゃなくて、
「助かった!」
私が口を動かすより早く匠がヒロインに礼をして私の手を取り三人組がいる方向とは真逆の方向へ向かって小走りする。
「え、あ、ちょっと!?」
ヒロインは凄くいい笑顔で手を振っていた。
「ところでその帽子は…」
「変装。」
やっぱり。でも逆にめだっているような?それに
「手!もう、離して!」
「ダメ。」
「ダメって…」
「何乗る?」
匠が聞いてくる。
手をつなぎ並んで歩く様はデートのように見えなくもない。
「ワンダーランド来たことないから何がいいのかわからないし、戻ろうよ。」
「嫌。…じゃあ、あのアトラクションは?」
はあ。私はため息をついた。
「あれ乗ったら戻るよ。いい?」
「…」
唇を尖らし不満顔だ。だが、負けない。
「…じゃあ、あのアトラクションに変更する」
行って指指した先には観覧車があった。
私達は観覧車に並ぶ。今もまだ手を繋いだままだ。離せと言っても、逃げないと言ってもダメだった。もう、諦めた。観覧車に乗ると決めてから今までずっと無言だ。これ楽しいか?ヒロインと優先チケット取りに行ってた時の方が楽しかったぞ。そうこうしているうちに観覧車に乗り込む。繋がれた手は離され向かい合って座る。ガシャンと音をたててドアがしまり上昇していく。1分程窓から景色を見ていたが早くも飽き、私は正面に座る匠を見る。匠と目が合う。しまった、逃げ場がない。えーっと何か会話をしよう。
「髪、似合ってる。」
「あ、ありがとう。」
なんだか恥ずかしく俯向く。
「…」
「…」
しばし無言。私達が乗ったボックスは近くのアトラクションより高くなる。
「なんで、観覧車に乗ることにしたの?」
私の問いに帽子を脱いで隣に移動してきた。
「!?」
間近で私の目を睨みつけてくる。
「あんたからの連絡がないと心配。」
「はい?」
多分強制モーニングコールの事を言っているんだよな。ないと心配って毒されてるよ。
「常に見えるところにいないとイラつく」
1年の時、凄いまとわりついてたもんね。癖になったか?
「あんたの物ならなんでも欲しくなる」
それは、私のコレクション癖がうつったのでは?
いや、なんというか、匠はもしやストーカーに馴染みすぎてないと物足りなく感じる変な性癖にめざめてしまったのでは?嫌な予感がする。ヒロインはなんていっていたか?お互い思っていたのと違うと…。まさかまさか
「前と同じ関係に戻れないだろうか?」
ヤッパリーーーー!!
「すみません、無理です!」
こんなに全力で相手の希望を拒否した事がかつてあっただろうか?私の言葉に彼はふっと笑う。
「やっぱり、俺おかしいよな。」
「うん、やばい。」
全力で肯定しておく。これは否定しちゃダメだ。真っ当な道に彼を導くべきだ。
「あんたがやっていたのはストーカー行為だ。頭ではわかってる」
よかった、そこはわかってるんだね。
「されてみて、そして失ってわかった。俺は執着されて初めて相手の愛情を感じる人間だと。それも非常識なレベルでないと感じない。」
やたら饒舌に自らの性癖の異常性を語る。
「今のところ、あんたの執着が理想なんだ!あの快感が欲しい!」
「黙れ!変態!!」
「…罵倒もいい…」
やばい、新しい扉を開きかけてる!
「ダメならいいと言うまで口説くだけだ。」
「口説くって…」
「やり方はあんたに教えて貰った。」
にやりと笑う。うわっ!モーニングコールはその一環か。観覧車が終わりを迎える。ドアを係員が開ける。匠は帽子を被り私の手を取りボックスから出たのだった。