ワンダーランドイベント前編
本日は晴天なり。オリエンテーション日和なり。
「私、ワンダーランドなんて初めて!」
キラキラした笑顔でヒロインが言う。
「え?まじ?」
「ありえない!」
「お家余裕ないの??ねえ、北帝さん?」
匠に寄ってきた3人組がヒロイン全否定する。
「ごめん、私も初めてだ。」
『…』
お家に余裕があっても一緒に行ってくれる人がいなかったんです。低スペック悪役令嬢あるあるです。
「北帝さん….」
潤んだ瞳で私を見つめるヒロイン。君を庇ったんじゃない。ただ事実を述べただけだ。
「よし、今日は楽しもー!」
ポジティブに言うヒロイン。可愛いなあ。
入口で園内見取り図をもらいどこ行くか相談をしようとしたら、
「ねえ、私達は結構ランド行き慣れてて効率よくまわりたいんだ」
匠に纏わりつきつつ言う女子。
「私達はナイアガラスライダーに並ぶから、坂上さんと北帝さんはロケットマウンテンとビックバンダイナマイトマウンテンの優先チケットを取ってきて貰えない?」
「優先チケット?」
「ランドはとにかく並ぶんだけど人気アトラクションは優先チケットを配布していてそれがあると通常より早く乗れるんだ。」
「へ〜」
私は素直に頷く。
「坂上さん、行こうか。」
「え?いいの?」
「並ぶのめんどい。お使いのほうがいい。」
「そう?なら了解!」
「あ、ちょっと待て…!」
「長谷川君行こう!」
匠が何か言っていたが女子3人に纏わりつかれて半ば引きずられるように退場していく。私とヒロインは顔を見合わせ同時に匠に合掌した。
「で、二箇所お使いに行くわけだけど、どうする、二手に別れる?」
「迷う!無理!」
きっぱり言うヒロイン。うん、そんな気がする。
「じゃあ、二人で行動するか」
私達は連れ立って歩き出す。見取り図で確認するとビックバンダイナマイトマウンテンが近いようなのでそこへ向かう。
「で、匠君とはどうなの?」
ニヤニヤしながらヒロインが聞いてくる。
「どうとは?」
「今日なんて仲良く登校してたじゃない!」
本来ならあなたがやるべき事なんですよ?
「いや、あれは家に奴が押しかけてきたんだよ」
「マジ?」
「マジ」
「いや、匠君ってば意外と情熱的ね!」
「情熱的….か?」
何か、違う気がする。
「と、いうかさ、坂上さんは匠君の事好きだったんじゃないの?」
「うーん?確かに一緒にはいたし、一年の時は好きだったんだけど、春休み中にちょっとね。」
春休み中に二人の関係が変わったのか?
「何があったの?」
「うーん、思っていたのと違ったとお互い思ったと言うか…」
歯切れが悪いが、もしかしたらヒロインは匠の秘密に気づいたのかも。そしてタイミングよく新しい恋に落ちて匠ルート脱出したのだろう。だが、ヒロインと匠を取り合った日々を思い出す。あんなに激しく張り合って、虐めて、傷つき、傷つけたその先に成立したカップルが一月待たずに自然崩壊してるってなんなんだよ。やさぐれてもいいかな?
「まあ、そういう事もあるよね。」
とりあえずフォローする。
「だから、北帝さんには匠君と仲良くしてもらいたいのよ!」
「そう言われても終了式の日にがっつり振られて私の中では終わった話なんだよね。今更むし返されても困るよ。」
「え?匠君は寧ろやる気だよ?」
何をやる気なんだ?
「北帝さんの情熱に心動いちゃったみたいだよ?」
「ええええ!あれに!?」
私はかつてのストーカーの日々を思い出す。そこは止めてあげて、ヒロイン!!
「北帝さん、最近急に可愛くなったよね?それって匠君の為じゃないの?」
「いいえ、新しい恋を探す為です。」
「じゃあ、まだ他にいい人いる訳じゃないんだね?」
「うん、まだいないなぁ」
私は肯定する。
「じゃあ、匠君を改めて候補にいれてあげてよ。」
そこまで言ってると目の前に目当てのアトラクションが見えてきた。