匠君不審者と言われる。
「不審者がおります」
さあ、登校しようとした矢先に我が執事が言う。何気に一大事だと思うが、そう告げる彼の声に焦りの色はない。
「不審者って追い払ってよ」
「お嬢様にお会いしたいとの事でしたので念の為お伝えしました。では、追い払います」
「まて、それって私の知り合い?」
踵を返し部屋から出ようとする石竜子を呼び止め聞いてみる。
「残念ながらお嬢様のクラスメイトでございます」
それ、不審者ちゃう!
「今、どこにいるの!?」
「応接間に案内してあります」
言われて私は応接間に向かう。
一体誰だ?
トントン
ノックをしてから応接間に入り、中の人を見て驚く。
何故いる、長谷川匠!
一方、匠の方も驚いていた。
なんでやねん?
「なんで、いるの?」
「…電話…」
「はい?」
ドアの前で問う私にソファに浅く腰掛けた彼は小声で呟くように言う。
「電話番号が変わってた」
「昨日変えたからね。」
「なんで変えたの?」
責めるように言う匠。
「なんでってあんたの電話がうざいからだよ。」
正直にざっくり言う。過去一年間散々付き纏い嫌われているのだ。今更取り繕っても仕方ない。
「今まで毎朝話していたのに急になんでそんな事言うの?」
確かに一年間モーニングコールを頼まれもせずしてましたが。
「いや、振られたし。もう終わりだよね?」
私、何か間違ってる?ストーカーは恋が散ると同時に消滅するものだ。
「ああ、それ取消で。」
『はい?』
後ろに控えている石竜子と私ははからずも同時に声を出す。えっ?そういうのって取消とかって出来るもんなの??いや、取り消さないで下さい。あなたに関わるとモブれないんで迷惑です。
大体、取消とはどういう意味でしょう?
そう、聞こうとして気づく。
「登校のお時間です」
仕方ないので匠と二人車で登校した。そして二人で教室に入って気づく。
これ、匠ルートにあるラブラブ登校イベントだ。
教室に着くと既にヒロインが席についていた。なんだかぼんやりしているように見える。
「おはよう」
一応、声をかける。
「おはよう…って!」
ヒロインが目を見開いて私を見つめる。
な、なんだ?
「か、か、髪!!」
「!」
「すごくいい!めっちゃ似合ってる!」
「本当!?嬉しい!」
「昨日切ったの?」
「そう!知り合いがこの方が似合うってアドバイスくれて!」
「めっちゃいい仕事したね、その知り合い!」
キラキラ笑顔を私に向ける
「匠君も驚いたんじゃない?」
ちらりと匠の方を見るヒロイン。ああ、完全にルート脱出してしまったヒロインは匠を見ても色恋の情をその目には映さない。ただのお友達だ。私は匠を見る。匠は私と目が合うと逸らしてしまう。ああ、そういえば今日会った時妙に驚いていたがこれが原因か。
「いーなー。私も綺麗になりたい。彼氏欲しい」
なんだと!?
今のセリフ、美少女代表のヒロインが言うような事じゃない。ついでに言えば愛よりお金派の彼女が彼氏が欲しいときたもんだ。色々衝撃だ。
「充分綺麗じゃない。何が不満なの?」
「実はね、一昨日夜、繁華街にいたらさ、超しつこいナンパにあったのよ」
ああ、ヒロインあるあるですね。
「で、困ってるところを助けてくれた人がいたの!」
「おー!」
なんか、ラブロマンスを感じさせる!
「あっという間にナンパを蹴散らしてくれた人が、もー、かっこよくてかっこよくて!!」
両手で頬を覆い顔を赤らめいやんいやんしながら話す。ヒロインってこういうキャラだったっけ?
「で、お礼に食事でもって思ったのに断られてしまってそれっきり。もう一度会いたくて昨日は意味なく繁華街を徘徊してた。」
「名前とか聞かなかったの?」
「聞く間もなかった。私がもっと美人なら食事くらい行ってくれたと思うんだよね。」
ふぅとため息をつきながら言う。その男がどこのどいつかは知らないが、ヒロインが食事でもと言えばゲーム上では必ず成功していた。現実は違うということか?
「坂上さんは充分綺麗だよ。その男の見る目がなかったんだよ」
「でもぅ。」
さらに言おうとした所、先生が入ってきて朝礼が始まった。
ホームルームでクラス委員会で指示されたワンダーランドで行動する班わけをする。
『長谷川君!』
ヒロイン程ではないが可愛い女の子が3人匠の前に群がる。
『一緒の班になろう!』
おー、もててるなぁ。完全に他人事で私は誰と班を組もうかとクラスを見渡す。
「良美!」
「!?」
呼び捨て!?
思わず振り返る。
「同じ班な?」
「私も同じ班になるぅ!」
何故かヒロインもやってきて割り込んでくる。
「6人班って事?」
「問題ないだろ」
「楽しみだね!」
ニコニコのヒロイン。なんで来たのか?匠ルートには戻れないのに?まあ、なんでもいいか。
私は匠とヒロインと同じ班でオリエンテーションを乗り切る事になったのだった。