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とある天才のお話2

「まあ、そのなり損ないって僕の事なんだけどね」

くるくる回りながら言う。

最早、覇王というキャラクターのイメージは無い。

でも、おっさんの姿でくるくる回っても可愛くないぞ。

「なり損ないって何?」

「んー。神様になるべくして生まれたにも関わらず不適合だった存在…。

神様は別に不老不死って訳じゃない。

ちゃんと寿命があるし、怪我や病気だってする。

神は自分に似せて人間を作ったんだから当然だよね。」

似せて作ったってどこかで聞いた話だけど、見た目の話だと思ってたわ。

「で、当然、神は自分が死ぬ前に新しい神を産まなくてはならない。

でも毎回完全無欠の存在が生まれるとは限らない。

僕のように失敗作も生まれるんだ。」

「失敗作?」

「僕は神を名乗れるほどの力も知恵もない。

神から受け継ぐべきものを受け継げずに生まれたなり損ないなんだな。」

ハハハと笑う。

「そんな失敗作はすぐに消されちゃう。

不要だからね。

でも、せっかく生まれたんだもの。

なんとかしなくちゃって悪足掻きをしたんだ。」


神のなり損ないは、天才に語りかける。

ねえ、この世界を捨てるなら、いっそ新しい世界でその気に入った人間と一緒に暮らしたらどうか、と。

天才にとってそれは神のなり損ないによる語りかけというより悪魔の囁きそのものだった。

しかし、神のなり損ないは新しい世界を作る事も出来なかったし、天才の気に入った人間を連れてくる事も新しい命を作る事も出来なかった。

なり損ないに出来る事は唯ひとつ。

転生のみ。

それ以外の問題点をクリアしたのは天才だった。

天才は悪魔の囁きに乗ったのだ。

そして作られた自分と彼女の為の世界、規格外乙女ゲーム『ラブ&マネー』

その登場人物に転生する事で一緒に暮らす事にしたのだ。

どのキャラクターに転生するかは天才が決めた。

自分は石竜子に、彼女は良美に。

それぞれ転生を。

そして、良美が石竜子を攻略してハッピーエンディングを迎えれば後はその世界で生を終えるまで共にいられるというわけだ。

もっと言えば生を終えたらゲームを再スタートさせて再度攻略してもらい…

半ば永遠にそばに居られると計算した。


だから、坂上香織で石竜子は事実上攻略不能。

彼は良美以外に攻略されるつもりがなかったから。

だから良美は悪役令嬢。

他の攻略対象に好かれるなんてあってはならないから。

だから良美は隠しの主人公。

誰にも見せずにおきたい天才の独占欲。

でも、どうしてもゲームの特性上アランという石竜子にとってライバルキャラクターを作らなくてはならなかった。

ならばせめて彼女が選びにくい人物にしようと作られたアラン。

その逆の考えで彼女が選びやすい人物にしようと作られた石竜子。

日本人離れした外見を持つアランと前世ストーキングしていた男の外見を参考にして作られた石竜子。

絶対に選んで貰える自信があったし、ダメな箇所があるなら神のなり損ないに頼み設定画面で直してしまえばいい。


そして、転生するには当然命を終わらせなければならない。

本来、もっと長く生きるはずだった彼女は天才に偶々見つかり偶々気に入られたが為に、神が定めた寿命を全うする事なく、天才の手にかかり殺された。

殺し方は最も簡単。

車道に蹴り込む。

唯それだけ。

背中に真っ直ぐな蹴り跡が妙に心に残ったのは今世でも同じことをする事になるからか。

その後、自身も自殺…すればよかったのに。

ふと、天才は思いつき予定外の行動に出る。

彼女がストーキングしていた男も同じ目に合わせたのだ。

彼女の葬儀の終わったすぐ後に。

こうして彼もまた神が定めた寿命を全うする事なく死んでしまった。

彼の死を見届けた後は予定通り自殺。

あっさり世界を捨て、自身が作った乙女ゲームの世界へ転生したのだ。

そして数年後、良美となった彼女と出会いゲームが地味に始まる。

婚約者として最初からそばにいる事はゲーム補正がかかり出来なかった。

ゲーム通り執事として側に居ることになる。

隠しておきたい大事な人。

自分から隠れるようにと醜く歪ませる。

歪める事が出来るよう最初から醜いキャラクター設定にしておいた。

隠し主人公が解放されればその醜さは解消されるが難易度上級設定の為そう簡単には自分から離れないはずと計算する。

しかし、彼女は不屈の精神でその難関作業をクリアした。

寧ろ天才が想定していた以上の美を手に入れた。

美以外にもたくさんのかけがえのないものを手に入れた。

それが天才には耐え難い。

自分と彼女の世界に何故他人が割り込むのか?

理解が追いつかない。

独占欲が暴走し始める。

このあたりで良美がアランと接触する。

アランとの出会いは思い出話をしてもアランを思い出さないのは石竜子の良美に対する好感度の以上な高さが関係してくる。

石竜子の好感度が一定以上なら思い出さないし、以下なら思い出す。

事実上絶対に良美はアランとの思い出を思い出す事はない。

そして始まる婚約者選定イベント。

ここで石竜子は予想外の妨害を受ける。

ノエルだ。

まるでここから現れる事を知っていたかのような登場で石竜子をイベント会場に近づけさせない。

ここで石竜子は気づく。

こいつ、あの時殺した男だ、と。

この瞬間、石竜子はノエルを嫌うことになる。

そして、なんとかアランと自分が婚約者候補として名前を残しイベントは終わる。

やがて始まるルート選択を想定して万が一良美がアランを選んだ時に発動する罠を仕掛ける。

それが階段落下事件。

それは予想通りに発動し、予想通りアランを遠ざけ、予想通り自分だけが彼女のそばにいられた。


だけど。

どこで狂ったのか。

最初から狂っていたのか。


良美は石竜子を選ばないという選択をしてしまった。



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