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振り返ればイベントだったなと。

石竜子は基本感情を表に出さない。だから、美容院から出た時目の前の男の表情を目にして逃げ出したくなった。悲しみと恐怖と安堵が入り混じったその顔は私の心をひどく揺さぶった。

「あ、石竜子…」

全て言い終わるより早く石竜子は私を強く抱きしめた。

「よかった無事で」

「いや、いくら堂本でも犯罪はしないから」

「なんでそういいきれるんです!?軽犯罪くらいは余裕でやりますって!」

「なんでそんな信用ない人に阿保な挑発するかな?」

言われて石竜子は顔を歪める。

「確かに軽率でした。」

石竜子は私を離し、堂本を見つめる。

「まさか勤めて10年の使用人とは思わなかった。今後もちょくちょく大事なお嬢様をお借りするが構わないよな?」

にやにやと笑いながら石竜子を見る。石竜子は鋭く堂本を睨みつける

「申し訳ございませんが、堂本様は少々軽率な方のようですし、お嬢様との外出の許可は出しかねるのですが。」

「でも、大事なお嬢様は俺と出かけたいと思うぞ。」

ちらっと私を堂本は見る。

「お嬢様?」

石竜子が私を見る。

「石竜子、私は大丈夫だし、堂本とまた出かけたい。」

「お嬢様!!?」

この世の終わりのような悲鳴を石竜子はだす。こんな声も彼は出せるのか。

「いや、だってみてよこの髪!」

そう、私の髪は劇的に生まれ変わっていた。あの長いだけのパサパサな髪が肩のあたりで切り揃えられ、茶色に染められ、ヘアパックでツヤと潤いを与えられキラキラと輝いているのだ!

「痛みが酷いから暫くは週1で来た方がいいんだって!」

「いや、私が連れて行きますから。」

「私は堂本と行きたい。」

「!?」

「これ、決定事項だから?よろしくね、石竜子君?」

楽しげに堂本は言いながら私に紙袋を手渡す。美容院の前に寄った病院で処方された薬だ。北帝医療センターで処方された薬とは別物だ。効くといいな。



夜中に自宅に到着した。石竜子の機嫌はマックス悪くここまで無言だ。私も思う事があって無言を貫く。そして自室に備え付けられてるお風呂に入る。そして湯船の中で考える。…うん、考えたくないけど、間違いない。今日の堂本との行動は堂本ルートの初期イベント、ドライブデートだ。


これ、ヒロインがやるイベントなんだけど。ドライブデートするに至る経緯や行き先に若干の差異はあるものの全体的には同じだった。かつてこのデートイベントをゲーム上でやってみて思ったんだ。これ、プリティウーマンじゃんって。ちょっと強引な堂本はいつも同じ服を着ているヒロインに服をプレゼントするべくドライブに連れ出す。そして最高級ブランドの服、靴、アクセサリーを買い与え着飾り高級レストランで食事をするのだ。私の場合行き先が美容院と病院に変更されているが、レストランで食事はしたし、毛色の違うプリティウーマンデートと取れなくもない。私は湯船から出てシャワーを浴びる。….私は一体いつ堂本ルートに入ったのだろうか?全く記憶にない。というか、出会いからしてゲームとは違ったし、ルート開放条件もヒロインと良美では違うのかもしれない。シャワーを止めて風呂から出る。タオルで体と髪を拭きパジャマに着替える。まあ、堂本ルートに入ったのはよい。今回のプリティウーマンデートのお陰で私は欲しかったものが手に入りそうなのだから。ルートはまだ突入したばかりだし、ヒロイン同様私だってその気になればルート脱出が可能なはず。時期をみて脱出すればよい。それよりも…。私はぼんやり考えごとをしながらパウダールームのドアを開け自室に入り…

「!」

ベッドの横に直立不動で立つ石竜子に驚く。

石竜子は勝手に自室には入らない。少なくとも過去10年でこれが初めてだ。

「石竜子。私、呼んだかしら?」

責めるように言う。実際責め立てたい事があるのだ。でも、責めない。責めて認められたら私は私でなくなるような気がするから。

「いえ、ですが、本日の出来事が余りに衝撃が大きく不安な為どうしてもお顔を拝見したく…」

「なら、もういいわよね?」

冷たく突き放すように言う。まだ心の整理がついていないのだ。明日から普通通りにするので今日だけは許してほしい。

「髪を乾かしましょう。」

結構ですと断る隙を与えず私を鏡台前に座らせドライヤーで乾かしていく。

「お嬢様の長く黒い髪が…」

何か言っているようだがドライヤーの温風の音にかき消され聞こえない。やがて乾いたのかドライヤーのスイッチを消す。暫し鏡越しに目を合わせる。石竜子の長く綺麗な指が私の髪を梳く。驚いて鏡から視線を外し後ろを振り向く。すぐ肩越しに彼の顔があった。何故そんな近くに顔がある!?と思うが早いか石竜子は私の髪を掬いそっと唇を落す。

「!!?」

顔が火照り体中から汗がぶわっと吹溢れたような感覚を覚える。そんな私をちらりと見て、笑顔を向ける。今までも石竜子の笑顔は見た事あったが今の笑顔はそのどれとも違う、色気のようなものを感じた。

「お休みなさいませ、お嬢様」

恭しく一礼をして石竜子は部屋を出て行き、残された私はベッドにダイブするしかなかったのだ。


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