とある天才のお話
君達が前世と呼ぶ世界は成熟しきっていた。
成熟しきった世界では天才は生まれづらい。
成長期に大抵の発見も発明も終わってしまいちょっとやそっとの賢い人では天才になり得なかったからだ。
事実、天才はここ100年以上生まれていなかった。
だが、物事に絶対はない。
神の気まぐれかあるいは単に間違えたか。
それはなんの前触れもなくある日生まれた。
それは赤子の時から特別だった。
成長が普通に比べて早く、肉体的にも精神的にも成人レベルにあっというまに達した。
1を聞いて100を知る。
100を知って1000を作る。
そんな子だったので神も期待する。
天才は神の期待に応えるべく世界の礎となる為に成長していく。
天才は大人になった。
政治家になり世界の在り方をかえるか?
医師になり新しい治療法を開発するか?
研究者になり新しい発見で人類に貢献するか?
神は天才の選択に注目した。
しかし、天才はいずれの選択もしなかった。
天才はこの世界を捨てた。
つまり、自殺してしまった。
なんのことはない、天才にとって成熟しきった世界は退屈にすぎず、そこは居場所になり得なかった…
と、神は結論ずけた。
「だけど、実際は違ったんだなぁ。」
悪戯っ子の笑みを浮かべて言葉を続ける。
天才は確かに退屈していたが、別に世界を捨てる程ではなかった。
退屈ならば埋める楽しい何かがあればいい。
幸い、退屈しのぎの遊び物はこの世界…特に天才が生まれた日本には溢れていた。
漫画、アニメ、ネット、そしてゲーム。
特にゲームは退屈しのぎにもってこいだった。
しかし、簡単すぎる。
ロールプレイングゲームもパズルゲームも、ミステリーゲームもシューティングゲームもある程度数をこなせば慣れてしまい新しいソフトでもクリアまでさして時間がかからなくなっていく。
そうなってくると、今度は自分で作る事にする。
天才たる自分でも苦労する最難関ゲームの開発に退屈しのぎで携わる。
出来上がると誰かにプレイして欲しくなるので会社を作り売り出した。
果たして天才の会社から出るゲームは全て難しく上級者向けとして認識されていった。
そこまでくると天才は飽きてしまう。
天才は飽きっぽいのだ。
再び退屈になってしまった天才。
次の遊びはなんにしよう。
早く決めないと退屈で死んでしまう。
そう、切羽詰まった状況で見つけたものは、以外にも一人の女性だった。
出会ったのではない。
見つけた…もっといえば見ただけだった。
交差点で互いにすれ違っだけである。
しかし、天才の目にとまったのは美人だから…ではない。
その女性の行動があまりに不審だったからだ。
結論から言えば彼女は一人の男性をストーキングしている最中だったのだ。
ストーキングされているのは一人の男性。
極々普通の男性を極々普通の女性がストーキングしている様は天才の興味を引いた。
そしてあっさり次の暇潰しはその女性となる。
ストーキングで彼女の住まいその他の個人情報を入手した結果、どうやらゲーム会社に勤めている事が判明する。
ストーキングしている相手は同僚らしい。
自分にはストーキング相手の男性の良さがわからなかった。
理解できないを理解する事こそ最大の退屈しのぎ。
天才は理解につとめた。
しかし、どれだけ時間をかけても女性が男性に抱く恋愛感情がどこからくるのかわからなかった。
心理学、精神論、果ては恋愛小説などに手を出してもわからなかった。
そんな中、会社から新しいゲームジャンルに参入の話がくる。
所謂、乙女ゲームである。
天才はこれもやってみた。
でもやはりわからなかった。
乙女ゲームへの参入はする事にし、ゲームの開発を行う。
そのうち、女性が何故自分を見ないのかが理解できなくなる。
理解不能な事が増えた。
そのうち、女性に抱く自分の気持ちの変化に気づく。
この感情はなんなのか?
満たすためにはどうすればよいのか?
毎日彼女を見ながら考える日々。
感情の名前も満たす方法もすぐにわかったが、彼女は別の男を見ている。
故に天才を見る事はなく、満たされる事はない。
そう理解すると天才はこの世界を捨てる事にした。
満たされない世界に留まり続ける理由がないから。
ただ、ここで想定外の事が起きる。
神のなり損ないによる介入だ。