神の領域
「そんな事があったのか…」
俺は言葉をなんとか紡ぐ。
「よく、事件にならなかったね。」
雪平が言葉を吐き出した。
「私も不思議に思っておりますの…」
佐倉が震えながら言う。
「うん?北帝がもみ消したんでしょ?」
坂上が言うが、佐倉は首を横に降る。
「多分、違うと思いますわ。」
「え?」
こんな大事件、もみ消した訳でない?
「なら石竜子は罪を償った?」
「いいえ。」
佐倉はきっぱりと言う。
「じゃあ、佐倉家が動いた?」
「いいえ。」
再び佐倉はきっぱりと言う
じゃあなんだってんだ?
「これは私もわからないのです。
ただ、私にとってこの事件は忘れる事のできないものです。
今でも夢に見ますし、男性は…特に大人や石竜子に似た雰囲気の人は怖くて仕方ありません。
しかし…私の周りではこの事件文字通りなかった事になってます。」
「はい?」
意味がわからない。
「私の周りはこの事件を覚えていないのです。」
いや、まて、意味がわからない。
事故として北帝が処理したのではなくて?
「私は確かに樹海にいて一時行方不明でした。
見つかってからも数日は入院してました。
なのに、私の周りの人間は例外なくその不在時にも私がそこにいたと認識しているのです。
そしてその事自体も私が口を出すまで思いださないのです。」
は?
なんだそれ?
こんな大事件が普段は記憶から消えてしまってる?
なにそれ怖い。
石竜子が何かした?
いや、これが事実なら、もう人間技じゃないだろう。
神の領域だ。
「皆さんもこの話、明日には忘れているかもしれませんよ。」
佐倉が言う。
まさか、な。
首を横にふるう。
「まあ、とにかく、アランの無実を証明する手立てを考えよう。」
もうこの話は横に置いておこう。
石竜子の異常性は嫌という程伝わった。
「普通に考えて、そのワンピースは石竜子が運び込んだと考えるのが妥当だな。」
堂本が言う。
「ここはホテルだ。
監視カメラに何か写ってるかもしれないな。」
長谷川が言う。
「あの石竜子がそんな凡ミスするとは思えないけど、確認するのは悪くないな。」
堂本は頷き俺たちはホテルの監視カメラの内容を確認させてもらうべく動いた。
なお、俺は翌日、冗談半分で彼らに昨日佐倉がしていた話を覚えているか聞いたところ、見事に忘れていた。
なんのホラーかと思い、思わず佐倉を見た。
佐倉の顔色が真っ青になっていた。
というか、なんで俺は覚えているんだろう