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罠に喰われる

前世の夢を見た。

私には好きな人がいた。

私なりにアプローチをかけていたのだが、振られてしまい、その帰り道に事故にあった。

たったそれだけの夢だが、そのせいで思い出してしまった。

…私、事故当時背中に痛みを感じたんだと。



目を覚ました。

私は自室のベッドの上にいた。

長い間ねむっていたのか、窓から光がさしこんでこない。

夜なのかもしれない。

ベッドの脇に椅子を持ち込んで座りこくりこくりと眠っているのは石竜子だ。

看病してくれていたのだろう。

起こしてよいのかな?

暫し逡巡していると、自分から石竜子は起きた。

私と目が合い、刹那、強く抱きしめられた。

「お嬢様!よかった、目が覚めて!!」

「私は…?」

「あの時倒れられたんです。」

「今、何時?」

石竜子は腕時計を見る

「今、午前2時です。」

随分長く寝ていたらしい。

「石竜子、アランが持ってきた服って…」

「アランに突き返して家から追い出しました!」

石竜子は語気を強める。

「私の部屋にクリーニング済みの服があったよね。」

「はい、確かに。」

言って石竜子は例のワンピースを出す。

アランが持ってきたワンピースと全く同じだった。

「おそらくこれは偽物でしょう。」

「偽物?」

「同じブランドの服を用意する事など容易いですからね。」

確かにその通り。

このワンピースは別に一点ものじゃない。

「アランが持ってきたワンピースが元々お嬢様が着ていたものかと思われます。」

「なんでそう思う?」

「背中部分に汚れが。」

「それって足跡?」

こくりと石竜子は頷いた。

階段から突き落とされ病院で目が覚めた当時を思い出す。

目が覚めた当時着ていたのは病院着で、退院時に着た服がまさにこの服だった。

病院についた時に着替えさせられたんだろう。

脱がされたワンピースはそのままクリーニングにだされた…はず。

ところが、手元から離れて戻ってきたらそれら偽物のワンピースにすり替わっていた。

本物はアランが持っていた。

「なんでアランが持っていた?」

「そんなの決まっているでしょう?」

「どういうこと?」

聞いておいてなんだが、石竜子が何を言おうとしているか察しはついていた。

「お嬢様が思っている通りです。」

つまり、私を階段から突き落とした犯人はアランだというのか。

「まさかの外部犯。」

私は天を仰ぐ。

それは考えてなかった。

「でも、アランが犯人なら目立つから目撃者がいてもおかしくないような?」

「アランが雇った人が手を下したかもしれません。

また、見目麗しい事を利用して口外禁止にしたのかも。」

いずれもアランらしくない。

「なんで、ワンピースを持ってきたのかな?」

このままいけば迷宮入り確実だったろうに。

「脅しですよ。」

「脅し?」

「私を選べ、と。」

「まさか!」

そんなのアランらしくない。

「アランという人間を我々はよく知らない。

そういう人間なのかもしれません。」

「まさか!」

「お嬢様、アランがお嬢様に一番最初に何をしたか覚えておりませんか?」

言われて思い出す。

アランは最初私を誘拐した。

「誘拐という犯罪を犯す事に躊躇いがない人間です。

階段から突き落とすのも同じ事かと。」

不意に背中が痛んだ気がした。

あるいは心の痛みか?

脳裏に突き落とされた瞬間が鮮やかに蘇る。

アランが実は極悪人と仮定した場合。

階段から突き落とすという行為自体はやろうと思えばできてしまう。

ワンピースの入れ替えなども病院側を抱き込めば簡単に可能だ。

ただ、どうしても。

今までのアランを思えばそんな事をするようには思えない。

彼はまさに優しい理想の王子様そのものなのだから。

「お嬢様…」

不意に背中を撫でられびくっとしてしまう。

石竜子は気にせず撫で続ける。

「あ、あの、石竜子…?」

「私もそこまであの男の性根が腐っているとは思いたくありません。

しかし、歴然たる事実として確かにアランはお嬢様のワンピースを持っていました。

笑顔でお嬢様にお渡ししたのです。」

そう、笑顔だった。

いつもの笑顔。

「さぞ、痛かったでしょう?

さぞ、怖かったでしょう?

大丈夫です。この石竜子が一生お嬢様をお守りいたします。」

背中は確かに痛かった。

前世と同じ痛みだった。

私は前世でも何者かに背中を押されて事故に遭いそして死んだ。

何故かずっと忘れていたのに思い出してしまった。

そして今世でも同じ痛みを背中に抱えている。

違いは生きてるか死んでるかだけだ。

ああ、痛いさ。

ああ、怖かったさ。

誰とも知らぬ者にいきなり押されるのは。

もう懲り懲りだ。

石竜子は変わらず私の背中を撫で続ける。

それは私の痛みを癒すように見せかけて…実は痛みを広げていく行為に他ならなかった。


それでも、今、私の側にいてくれるのは石竜子しかいなかった。


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