罠
ノエルは後悔の多い人だ。
前世でも自身のストーカーに対してもっとああすればよかった、こうすればよかった、あの時あんな事しなければよかったと未だに思う。
現世でも然り。
そして今日前世含めて最大の後悔をする事になる。
何故、あの時、アランの手荷物の中身を聞かなかったのかと。
「終わった!」
ミスコンも終わり私は肩の荷がおりた。
ミスターコンもぶっちぎりで匠の優勝で幕を閉じた。
さあ、帰ろう!
「おーい!」
聞き覚えのある声がして振り向けばそこにはアランとノエルがいた。
アランとはあの時以来ぶりだ。
ちょっと気まずい…と、思っているとアランはふんわりとした笑みを浮かべる。
「良美、久しぶり。」
「あ、うん、久しぶり。」
俯いてさらりと落ちてきた髪を意味なく耳にかけつつ言う。
「コンテスト惜しかったね」
「見てたの!?」
「勿論!僕的には良美が優勝なんだけどね。」
「あ、ありがとう。」
私の顔が熱くなる。
「はい、それ以上近づかない、話さない、関わらない。」
石竜子は私を抱え込んでアランから引き剥がす。
「ちょっ!と、石竜子!」
「婚約者を無視して元婚約者候補などと関わってはいけませんよ。」
「婚約者より僕の方がいいから僕に構ってくれるんだよ。」
「振られたってわかってます?」
「…」
「…」
石竜子とアランは睨み合う。
「あ、あの!私達そろそろ帰るんだけど、うちでお茶でも飲んでく?」
「あ、いいね!
良美に渡したいものがあるんだ。」
アランが笑顔で言った。
と、いう事で私達は車に向かっていた。
駐車場には車が二台ある。
全く同じ車種、色だが両方ともうちの車だ。
一台は私が朝乗ってきた車。
もう一台はアラン達が乗ってきた車だ。
二台の車で連れだって自宅へ向かう。
大した時間も掛からず自宅に着いた。
車から降りて自宅に入る時、アランは大きな荷物を持っていた。
はて?なんだろう??
私はアランを応接間に通し、向かい合ってソファに座る。
アランは笑みを浮かべながら荷物を差し出してきた。
「これ、良美のでしょ?」
「ん?何か忘れたのかな?」
中身を出して…硬直する。
トントン
ノックの音が聞こえるが体が動かない。
何も言ってないがドアが開く。
多分、石竜子だろう。
硬直した体は未だに動かないので確認できてないけど。
「お嬢様、お茶をお持ちしました。」
やっぱり。
「…どうしました?」
紅茶をテーブルに乗せながら石竜子が聞いてくる。
声が出ない。
「お嬢様?顔色が優れないようですが?
…ん?これは!?」
石竜子も驚く。
ああ、私の見間違いじゃないんだね。
「ああ、これを見た瞬間良美の様子が…」
「帰ってください。」
石竜子が今まで聞いた事のないような低い声でアランに言う。
「え?なんで…?」
「いいから帰りなさい!!!」
最早、恫喝。
石竜子は言うが早いかアランの腕を引き上げ無理矢理立たせまるで引きずるかのようにアランを部屋から出してしまう。
多分、このまま家から出されるんだろう。
何か言い争う声が聞こえた気がした。
そのまま景色が暗転した。
アランが持ってるはずのないもの。
テーブルには階段から落とされた時に着ていたワンピースが置いてあった。
ある訳ない。
だって、クリーニングされたものが私の部屋のクローゼットに掛かってるはずなのだから。