フィナーレ
最初石竜子視点
「接戦だったな。」
不意に声をかけられ振り向けば杖をついた男がいた。
私は形ばかりの礼をする。
「ええ。」
私は素直に頷いた。
「いらっしゃったんですね。
お忙しいでしょうに。」
「娘の晴れ舞台だぞ?行くに決まっている。」
なんで知っているのか、などの質問は愚問以下なのでしない。
文字通り知っていたから来たのだから。
「ですが、予定通りの結果でした。」
「こっちはな。」
言外にもう一方は?と聞かれた。
「追い払いきれなかったので、念の為の計画が動いてます。」
「…やはりな。」
「はい?」
「いや、なんでもない。」
男は頭をふる。
よく聞こえなかったから聞き返したのだが、答えてくれないのなら仕方ない。
私は諦め話を続ける。
「早ければ、今日にも動くでしょう。」
「そうか。」
男は頷き踵を返した。
「もう行かれるので?」
「ああ。」
「見て行かれれば?」
「いや、無意味だ。」
…無意味?
不要ではなく無意味?
その真意を聞こうとした時には既に男の姿はなかった。
***
「優勝者は…エントリーナンバー4!坂上香織だぁ!」
うぉぉぉ!
会場が沸いた。
やはりこの世界のメイン主人公。
私なんかじゃ太刀打ちできませんでした。
「なお、エントリーナンバー5とのデッドヒートは過去最高!!
なんと得票差僅か1票!」
嘘でしょ!?
私は司会の言葉に目をむいた。
ヒロインも空いた口がふさがっていない。
私達は顔を見合わせた。
そして…笑う。
「優勝したけど、優勝した感じがしないわ。」
「私も負けた気がしない。」
「言うじゃない。」
ヒロインに肘で突かれて確かにと思う。
もしかしたら、少しくらい私は自分に自信をもってもいいのかもしれない。
低スペックは過去の話と思っても罰はあたらないのかもしれない。
「私はまだまだ磨く箇所があるからこれからもっと綺麗になるよ?」
「私だって!
…次はミス日本でも狙う?」
言われて私は笑う。
「そして最後はミスユニバース?」
「そう!楽しそうじゃない?」
「いいね!」
さすがに冗談とわかってるので軽口がつるりと出てくる。
来年からヒロインは堂本について行く。
私は結婚して北帝を継ぐ。
これが最後の決戦で、これからは進む道が分かれるけれど。
全然寂しくも残念でも悔しくもないから不思議だ。
私達は一度舞台から降りる。
水着からドレスへと衣装チェンジ。
「お嬢様!」
「石竜子!」
声をかけられ振り向く。
「ごめん、負けたからエスコート不要になっちゃった。」
「いえ。周りの見る目の無さが原因ですので、お嬢様が謝る必要はありません。」
思わず笑みがこぼれる。
「すごい楽しみにしてたんでしょ?」
私に言われて石竜子は頬を朱色に染める。
「いいんです。
婚約者としての初仕事は婚約発表会までとっておきます。」
婚約発表会は一月。
ゲーム終了時だ。
あと少しでゲームが終わる。
なんだか実感がない。
「ドレス似合ってますよ」
褒められて今度は私が頬を朱色に染める。
パープルの生地に黒レースをあしらったマーメイドラインのドレスを着ている。
「ちょっと大人っぽい気がする…」
「いいえ、とても似合ってますよ。
用意した かいがありました。」
このドレス石竜子から贈られたものである。
「婚約者として最初の贈り物です。」
なんか恥ずかしくて前が向けないんですけど!
そうこうしているうちに再度舞台に上がる時間になった。
まずは優勝を逃した私達4人が舞台にあがり、最後にエスコートを伴ったヒロインが登場である。
コンテストのフィナーレだ。
私達は司会に促され、舞台に上がる。
舞台の端による。
「それでは、今年のミスコンのクイーン!
エントリーナンバー5!
坂上香織さん、王子と共に舞台へどうぞ!」
会場から割れんばかりの拍手に迎えられヒロインが赤いプリンセスラインのドレスを纏い、去年に引き続き王子様ルックの堂本を伴い登場する。
舞台の真ん中に来て…。
あとは、去年通り。
二人は甘いキスをしたのだった。