愛の逃避行
なーんだ。シナリオ崩壊とかどうでもいい!私は今日からモブだ。モブはストーリーの流れなんて気にしない!私は私のストーリーを刻む!私はヒロインの呪縛から解き放たれたのだ!私はるんるんで授業を受けてあっという間に放課後となった。早速放課後にクラス委員会があるんだったな。
「匠君、行こう!」
ああ、スキップしたい!しないけど!!
匠は何か気味の悪いものを見るような目で私をみていた。
我が学年はA組からE組までありそれぞれクラス委員を男女ペアで出す。つまり、このクラス委員会出席の為10名の生徒が会議室に集まっていた。そこで来週ワンダーランドへオリエーテーションで行く事が決まる。ワンダーランドは都内にある遊園地でデートの定番だ。オリエーテーションまでに班わけしとけと指示される。匠ルートに入っていれば班のメンバーとはぐれてしまったヒロインを匠が見つけ二人でランドを回るというイベントが発生するが匠ルートから外れた今、そのイベントは起こらない。プレイヤー時代匠ルートから外れたらこのイベントは見れなかったが今はここが現実の世界。ゲームでは省略されていただけで現実ではオリエーテーションは起こっていたという事なのだろう。何れにしても気楽に遊園地を楽しめるなんて最高だ。ニヤニヤしながら私は委員会を終え校門へ向かった。
「まずはスマホを新しくしましょう。本日最優先事項です。」
車内で石竜子がきっぱりと言い切り店舗に向かう為ハンドルを切る。
「ですよねー。あ、今日、なんで電話するのか聞いてみたんだ。」
「なんとおっしゃっていたのですか?」
「生存確認だってさ。」
「意味がわかりません」
私だって意味がわかりませんよ。
「まあ、とりあえず本日番号を変えてしまえば縁は切れますね。」
「あ、同じクラス委員になったから縁切りは無理かな。」
「はい!?」
ちょっ、前、前見てよ運転手さん!!
「どういう事です」
「うん?クラス委員に推薦された。相方が匠だった。以上。」
「一年やるんですか。」
「そう。」
「だから今日機嫌がいいんですね。」
「うん?何か言った?」
ぽつりと何かつぶやいたようだったが聞き取れず聞き返す。
「いいえなんでも。」
なんだか棘があるような言い方だったので気になったが店に着いたので話は打ち切られた。
「…なんでこの男がいるんだ?」
堂本が私に聞いてくる。
「いや、なんか私がサボらないよう見張るんだって。」
「…ほう。」
堂本の顔が引きつる。対して議題にあがったこの男事石竜子は涼しい顔で姿勢良く椅子に座っている。堂本は昨日ものすごく機嫌が悪かったが、今日は幾分ましになっていた。だが石竜子に対しては射るような視線を送る。
「私の事はお気になさらず。」
「チッ。おら、さっさと始めるぞ!」
私は指示に従って筋トレを始めた。
いつもより怒号が響きスパルタモード全開である。石竜子も顔が引きつっている。運動している最中を見るのはこれが始めての石竜子は完全に腰が引けていた。
「よし、4時間経ったな。今日はここまで。」
「ありがとうございました。」
「明日もこの時間で?」
「はい、お願いします」
明日の予定を入れて、地下の大浴場へと向かった。
大浴場は広い。当たり前だが。疲労に凝り固まった筋肉をほぐし、汗を流す。ああ、気持ち良い。大きく伸びをして私はお風呂から出た。髪を乾かし着替えて大浴場を出たすぐ目の前に堂本がいた。ここ女風呂の真ん前なんだけど。
流石に驚いているとがっと私の手をとり足早に引きずって行く。おいおい!!
「な、なんだ!?どこに行くの!?」
「従業員通用門から出る。」
「な、なんで!?」
「あの男が知らない所から出ないと捕まるだろ」
「へ?は?なんで、出るの?」
「出掛けるからだよ」
「ど、どこに!?」
「さあ?」
何がおこってるんだ!?
そうこうしているうちに通用門から出る。出た先は従業員用の駐車場が広がっていた。堂本は空いた手でズボンのポケットから車の鍵と思しきものを取り出す。え、車でどっか行くの?どこに行くかはしらないけど、お家に帰してもらえるんだよね?私達は赤い車の前に着いた。堂本は先程の鍵を使いドアを開け私を助手席に乗せる。ドアを閉めすぐに回り込み運転席に堂本は移動する。そしてまじで車を出しやがった!
「ちょっと!本当にどこに行くのよ!」
私は怒り気味に半ば叫ぶようにいう。
隣の男は私の顔をみてニヤリと笑って確かにこう言った。
「愛の逃避行?」