約束
途中からノエル視点。
夏休みが終わり二学期になった。
「良美、去年の約束覚えてる?」
「?」
ヒロインがあくどい顔で聞いてくる。
はて?
何か約束したかしら?
「ミスコン。」
「!」
そうだった!
去年色々やらかしてその代償でミスコンでヒロインと勝負する事になってたんだ!
よく覚えてたな、ヒロイン!
有耶無耶にしてしまいたかったのに!
「すでに申込みは済んでいるからね。
逃げないように!」
「いやぁ、でも、ヒロインも忙しいでしょ?」
「ミスコンに出て良美と勝負するくらいは出来るよ?」
「勝負にならないよ!」
この世界のメインヒロインと悪役令嬢あがりの隠れヒロインでは格が違う。
しかも低スペック。
私なりに努力したけど、誰かと競えるようなレベルじゃないよ!
「逃げんなよ?」
ヒロインが念を押してくる。
「今年は水着審査があるけど逃げるなよ?」
「イヤァァァァ!」
私は絶叫する。
何故そんなものを導入したんだ!
「後藤先生が女装を断固拒否してね。
それを上回る娯楽要因としてゴリ押ししたんだ。」
「ヒロイン詳しいね。」
「後藤先生が小躍りしているところを偶然みてね。話を聞いたのよ」
なんつぅもん見てんだ、ヒロイン。
「去年の水着姿を私は拝んでないからね?
見せて貰うよ?」
「イヤァァァァ!」
私は半泣きでその場を逃走した。
さてここで私の外見スペック以外の問題が出てくる。
そう、王子役の不在だ。
まず、頭をよぎるのは匠だ。
しかし、彼はミスコン終了後ミスターコンに出場する予定だ。
時間的に難しいと思われる。
今年は男装女装のくくりはなくまた、去年私が図らずも外部から呼ぶという前例を作ってしまったが故に呼べる心当たりは二人いる。
うち一人は気まずくて呼ばない。
ので、仕方なく…
「私のエスコートをしなさい。」
「かしこまりました。」
恭しく礼をするのは我が執事…改めなくてはダメか?一応婚約者の位置づけにいる石竜子だ。
石竜子は私の右手をそっと持ち上げ甲に口付けを落とす。
「婚約者として初めてのエスコート、精一杯努めさせて頂きます。」
「なあ、良美。」
その夜、ノエルが部屋に訪れ私に声をかけてきた。
「何?」
「石竜子が怖い。」
「いつもの事でしょ?」
「確かにいつもあの人は怖いがそういう意味じゃなくて」
何がいいたいんだ?
私は首をかしげる。
「機嫌がよすぎる」
「…?いつも通りの仏頂面でしょ?」
「…誰もいない空間でにやっと笑うんだよ!」
「それは怖いな!」
私は身震いした。
「しかも何かブツブツ言っているんだ。」
「何言ってるんだろう?」
「気配を消して耳を澄ましてみたところ、完璧にエスコートをしてみせるとかなんとか…」
「…」
そんなに気合いれるようなものじゃないぞ?
「なんか夜会なり舞踏会なりがあるのか?」
「いや、学校の、文化祭でミスコンに出る事になったんだけどそのエスコート役を石竜子に依頼したんだよ。」
「…は?」
いや、私もは?って思うよ。
たかが文化祭のエスコートでニヤつかれるとは…
ノエルは何事か考えているようだ。
「それってイベントだよな?」
「文化祭イベントはヒロインが匠ルートを辿った時のみ強制だけどここは現実世界だからね。
学生のうちは当たり前だけど参加するよ?」
「でもイベントなのは変わりないし、アランをエスコート役に…」
「さすがに勘弁だわ。」
がっつり振った男にエスコートをお願いするってどうよ?
「そうか…」
ノエルは頷いて部屋を出て行った。
***
翌日、俺はアランの部屋を訪れた。
一応文化祭の話をしてあわよくばエスコート役をアランにさせてみればまだアランルートに入れるのではと思ったからだ。
結果、アランはその話を断った。
結構粘ったがダメだった。
アランはまだ良美を諦めたわけではないようだが、今はまだ動く心の余裕がないようだ。
仕方ないので俺は諦めて部屋を出る事にする。
そういえばもう夏が終わるな。
良美の家では秋口の準備が始まっていたので、アランには衣替えくらい自分でするよう指示だけしておいた。
その帰りの途中、良美の学校へ寄る。
良美を会社へ送る為だ。
校門前で、車を降りて良美が来るのを待つ。
その途中。
凄く可愛い女の子が歩いているのを見かける。
ショートカットのすらりとした少女だが、なぜか既視感を覚える。
はて?
どこかであったかな?
考えているうちに自分の横を通り抜けて彼女は行ってしまった。
その数分後、良美がやってきた。
いつものルーチンワークが始まる。
夜。
石竜子と顔を合わせて業務報告をしている時に不意に気がつく。
あ、今日みたあの子、なんか石竜子に似てるんだ。