イベントの結果
「はあ…」
ここは病院。
私は石竜子の寝る病室で何度目かのため息をついた。
「何やってんのよ…」
私は無意識に言葉に出す。
アランから事のあらましを聞いたのだ。
それを聞く限り石竜子の現状は自業自得というやつだ。
アランは前日の雨で滝を形作る崖部分の地盤が緩くなっていたのだろうと言っていた。
なんでもあの泉は滝も含めて人工的なものらしい。
まあ、あんなゲーム的な景色自然と出来る訳はないな。
兎に角、人工的な作り故、元々地盤が弱く今回の土砂降りの雨でさらに緩くなり遂に崩れたのではないかと思われる。
なお、作ったのは先代子爵との事。
アランが作った訳ではないが現持ち主であるアランは責任を感じて謝罪してきたのだ。
アランが責任を感じるのもわかる。
でも、それを差し引いても石竜子が悪い。
目が覚めたら警察に突き出していいと言ったのだが、しないとの事。
それをすると、今回の事故にも警察が絡んできて下手するとなんらかの処分が下されるからだ。
法律上今回の事故の責任はアランにあるとされてしまうらしい。この国では。
だから内々で収める事にした。
子爵家の力で病院から警察に連絡が行くこともない。
平たく言えばもみ消しだ。
とりあえず、もみ消しには成功したし、病院の見立てでは石竜子は命に別上もない。
事態の割に軽傷なのは悪運強しというべきか、仮にも攻略対象だから補正が働いたか。
石竜子の怪我より、私の手の方が重傷なのが納得いかない。
いや、いいけどさ。
トントン
ノックと共に入って来たのはアランだった。
「石竜子は?」
「ご覧との通り寝てるよ。」
「そうか…」
アランが呟く。
そして、天井を仰ぎ…意を決したかのようにこちらを見る。
「良美」
「?」
私はアランを見る。
「…!」
私は思わず目を見張った。
アランが私の前で片膝をつき、一輪の花…麗月花…萎れてしまってはいる…を差し出して来たからだ。
「良美、幼い頃貴方に会った日からずっと愛しておりました。誰より強く、前を向き、堂々としている貴方は昔から私の光でした。
私は貴方と共にこれからもずっと在りたい。
どうか、貴方の永遠の伴侶となる事を許して貰えないだろうか…?」
真っ直ぐに、疑う事なく私を彼は見つめる。
嗚呼…
ずっと悩んでいた。
何故悩んでいたのだろうか。
今、私は悩む必要性等なかった事に気づいてしまった。
気づいてしまったからには応えなければならない。
アラン、
「…ごめんなさい…」
私は頭を下げた。
アランは目を見張る。
そして、今にも泣きそうな笑顔を見せる。
「…理由を聞いても?」
「アラン、今言った私は私ではない。」
アランは知らない。
醜かった私がいかに弱く、後ろ向きで卑屈に生きていたかを。
そして今も私は会社で菓子一つ配られないというだけで落ち込む程に打たれ弱い。
いつも、自分に自信がなく、水着になるだけで下を向いてしまう。
堂々としている時はいつだって北帝を嵩にきている時で単体で堂々と振る舞った事など前世含めて一度もない。
アランが恋した私は幼い美少女の良美であって今の私ではない。
理想の良美はもうこの世にいない。
だから、理想から脱皮した不完全な私ではアランの隣には相応しくない。
そして…
「昔の私ばかりみて今の私を見ていないアランを愛する事はどうしても出来なかった。」
「…!」
そんな事ない…と言いたい顔をしているが言わないのは自覚していたからだろうか?
それとも今、気づいたか?
「…では、石竜子を愛せるので?」
石竜子を愛しているのかと聞かない所がアランらしい。
私は眠る石竜子を見る。
石竜子は私の身も心も歪めた張本人。
今回のアランへの狼藉も加えて愛せる可能性は限りなく低い。
私は複雑な顔で曖昧に笑うしか出来なかった。
私はアランを選ばなかった。
故に私が彼を愛せる愛せないは関係なく、
私は石竜子と結婚しなくてはいけなくなったのだ。