イベント〜アランvs石竜子〜2
コテージと泉の距離を考えれば遅くても一時間後位には二人共戻ってくるだろう。
私はノエルが淹れてくれた紅茶を飲みつつ帰りを待つ。
アランが花を持ち帰ってきてプロポーズを受けたらアランルート。
石竜子ならドラゴンルート。
アランのプロポーズを受けなくてもドラゴンルート。
私の決断の時は刻一刻と迫ってきていた。
横でノエルが心配そうに見ている。
「なあ、俺はアランに幸せになってほしいんだ。」
「なにを今更?」
「でも、お前にも幸せになって欲しいんだ。」
「そうなの?」
私は驚く。
ノエルはアラン至上主義だと思っていたからだ。
「ああ。だからな、悔いのない選択をして欲しい。誰かの為でなく、自分の為に。」
私は飲み頃の温度になった紅茶を見つめる。
後悔しない選択。
それはとても難しいと思う。
人間はその時ベストな選択をしたとしても必ずいつかどこかで後悔する生き物だから。
後悔したくないから選択をしないという選択はない。
もう、逃げられない。
私はため息をついた。
暫くして外から音が聞こえた。
最初は風の音かと思ったが、すぐに否定される。
規則正しいこの音は馬の蹄が道をかける音だ。
私とノエルは玄関に走る。
ドアを開けた先には…
アランがいた。
『アラン!』
私とノエルは同時に名を呼ぶ。
石竜子の姿がどこにも見当たらない。
「おい!アラン!どうした!?」
アランが転がるように馬から降りて、ノエルにしがみつく。
アランの顔色がすこぶる悪い。
酷く嫌な予感がした。
「と、と、と…」
「おい!落ち着け!どうした!?」
アランはノエルに背中をさすられて呼吸を整える。
「石竜子が…土砂崩れに巻き込まれた。」
瞬間、頭が真っ白になった。
なのに、体は動いた。
まるで操られているように、その動作は自然であり、また不自然であった。
私はアランが乗ってきた馬に跨り、そのまま泉まで走らせた。
「良美!」
後ろでノエルの声が聞こえたような気がした。
馬は私の意志を汲み取ったかのように、鞭がなくても走ってくれた。
あっという間に泉に到着した。
先日来た時と様変わりしていた。
泉の半分が土砂に埋もれていた。
土砂は滝を象っていた部分のようだ。
花が咲いていたあの盛り土部分は最早なく、濁った泉は暗く寒々しかった。
私は馬から飛び降りる。
そのまま濁った泉に進入する。
目指したのは土砂部分。
石竜子石竜子石竜子石竜子石竜子石竜子石竜子石竜子石竜子石竜子石竜子石竜子石竜子石竜子石竜子石竜子石竜子石竜子石竜子石竜子石竜子石竜子石竜子!
私は素手で土砂を掘り起こして石竜子を探す。
「石竜子!」
やっと声が出た。
素手で掘り起こしているから手が痛い。
泉は冷たい。
でもこの下に石竜子がいるなら早く助けなければ!!
無我夢中で土砂を掘り起こす。
視界が霞むのは何故?
「おい!良美!」
後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえたのはどれくらい時間が経ってからだろう?
振り返ればノエルとアランがスコップ片手に馬で駆けつけてくれていた。
二人は私の元へ走り寄る。
「おい!大丈夫か!?」
「私?私よりも石竜子を!」
何故私に大丈夫なんて聞くのだ?
石竜子だろう、早く早く!!
私はノエルからスコップを受け取り三人で土砂を掘り起こす。
素手とスコップの違いかすぐに石竜子の服の端を発見する。
「石竜子!」
私は土砂をスコップで払い避ける。
すぐに石竜子の顔が見えた。
「石竜子!」
アランとノエルも駆け寄る。
「石竜子石竜子石竜子!!!」
私は石竜子を揺さぶり起こしたい感情を押し留める。
頭を打ってる可能性がある人を無理に動かしてはいけないってどこかで聞いた事があるからだ。
「ドクターヘリがこっちに向かってる」
ノエルが横でおしえてくれる。
それまで大人しくしてなくては!
ああ、今すぐ石竜子を揺さぶり起こしたい!
「…お、じょ…さ…ま…?」
『!』
私達は思わず顔を見合わせる。
石竜子の意識が戻ったのだ。
「石竜子!」
「おい!大丈夫なのか!?」
ノエルが声をかける。
「…う…」
石竜子がもぞりと動く。
「おい!動いて大丈夫なのか!?
もう少しでドクターヘリがつく。
大人しくしてろ。」
「石竜子!」
私と石竜子の目があう。
こんなに焦点のあわない目をした石竜子は初めてだ。
「お嬢様…」
石竜子は上半身を自力で起こした。
どうやら状況の割に怪我は少ないようだ。
でも、元気がない。
「石竜子、大丈夫?」
「お嬢様…申し訳ありません…」
「石竜子?」
「…花を…お持ちできませんでした…」
真っ先に言うセリフがそれか!?
「そんなんどうでもいい!」
「しかし…」
ここで石竜子の視線が私の目から下へと移動する。
「…お嬢様…?その手は…?」
「…手?」
私は自分の手を見る。
爪が何本も割れていた。
ああ、痛いと思っていたらこれが原因か。
素手で土砂を掘り起こしたらこうなるのも当たり前か。
「大した事じゃない。それよりも、石竜子、あんただよ。」
「私は…大丈夫です…」
体中土砂で汚れていた。
眼鏡がどこかにいってしまったのか素顔である。
石竜子は痛むのか頭を押さえる。
「大丈夫!?」
「…は、はい…大丈夫です…」
「一体、なにがあったの?」
その問いに一瞬石竜子が言い淀む仕草を見せる。
アランに聞いた方がいいかな?
私はアランに視線を送ったその時。
空から音がした。
私達は空を見上げる
それはヘリコプターだった。
ノエルが呼んだと言っていたやつだろう。
私達は石竜子をヘリに乗せ、全員で病院に向かったのだった。




