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夕焼けは僅かな時間しか見る事が出来ないからこそ美しい

イベントまであと2日。

今日も昨日同様晴天だった。

なので、海に行く。

行くというか、目の前なんだけどね。

コバルトブルーの海の透明度は世界でも5本指に入るとの事。

ダイビングができるなら、珊瑚礁に集う熱帯魚と戯れる事ができる。

残念ながら、私達にダイビングができる人がいないのだけどね。

私は海を見つめてただ立っていた。

仁王立と言えなくもない。

ただ、内心はガクブル状態だ。

私は今ロングパーカーの下に水着を着ている状態だ。

このパーカーを脱げば海で遊べる。

それはわかっているのだが…

「おーい、何やってんだ?」

「うわっ!」

後ろから不意にノエルに声をかけられ不覚にもビビる。

「何ビビってんだ?

ほら、泳ぐんだろう?」

「いや、まぁ、そうなんだけどね…」

「どうした?」

「…いや…その…」

パーカーの端を握って俯く。

察して。

頼むから。

「ほら、アランが待ってる!

あ、パーカー濡れるから預かるわ」

ばっ!

「あっ!」

ノエルに察するという高度な技術を願った私が馬鹿だった。

私のパーカーはノエルによって強制的に剥ぎ取られる。

海に既にいて若干距離のある石竜子とアラン、そしてすぐ目の前にいたノエル、全員の視線が私に集中した。

見られている、と自覚した瞬間恥ずかしくて顔が赤くなる。

目の前のノエルは顔を背けた。

「…いや、悪かった。」

ノエルは私にそっとパーカーを返してくれた。

やっぱり、見苦しいよね…

もしかしたら水着を着ても違和感ない体になったかな、なんて思った私が馬鹿だった…

私はパーカーを抱えてコテージに戻る事にした。

「ちょっと待て、何処に行く!?」

「いや、恥ずかしくて仕方ないので服を着ようかな、と。」

「は?何勿体無い!」

「…?」

何言ってんの?

勿体無いって何が?

「凄く、綺麗なのに勿体無い。」

「…はい?」

綺麗?

何が?

あ、水着が?

まあ、新品みたいなもんだしね。

「言っとくけど、水着じゃなくて、お前の体が、だからな?」

バシッ

「!」

いつの間に近づいていたのか、アランがノエルの頭をひっぱたく。

「人の婚約者の体をジロジロ見た挙句、勝手に褒めない。」

「いや、悪気は…」

「死にますか?」

遅れて石竜子がノエルに言う。

「俺、悪くないよね!?」

私に涙目で言ってくるけど、どうだろう?

「凄く、綺麗ですよ?

想像以上によくて、心が落ち着きません。」

「想像以上?お嬢様の体を勝手に妄想して何をしていたのでしょうかね?

まあ、毎日の努力が実を結んだ…と言ってよいでしょうね。」

「…えと…見苦しくない?」

『いいえ?』

三人は同時に首を振った。

本当に大丈夫なんだろうか?

「良美、ここには僕達しかいないんだよ?

僕達の前でくらい堂々としてもよいのでは?」

アランが言う。

そうなのかな?

いいのかな?

許されるのかな?

ふわっ

頭の上に石竜子が手を置いた。

いや、撫でているのだろう。

「とても似合ってますよ。

私はお嬢様と海で遊ぶのを楽しみにしておりました。どうか、我々と海で遊びませんか?」

ああ、石竜子がお願いなんて滅多にしない。

しないからこそ、叶えたい。

頭を撫でられているからか、なんだか落ち着いてきた。

それに、石竜子は嘘をつかない。

似合ってるという言葉に嘘はないのだろう。

少なくても本当に似合ってると思っている人が一人はいるなら私は大丈夫だ。

私は軽く深呼吸する。

そして俯いていた顔を前に向ける。

…三人ともいい体してんな…

そうじゃなくて。

私はこんな時なのに変な考えが頭をよぎった事に思わす笑ってしまう。

「…そだね。遊ぼうか?」

『!!!』

3人の顔が見事に真っ赤に染まった。

…どうしたんだろう?



たくさん海で遊んでクタクタになった。

そろそろ日が沈むし、気温も下がってきたのでコテージに入る事にした。

シャワーを浴びて服を着替えて自分の部屋に戻る道すがら。

途中、石竜子の部屋を通る。

その瞬間、彼の部屋のドアが開いた…と思ったら腕を引っ張られて、部屋に引きずり込まれた。

「!!?」

石竜子に抱きとめられて、ドアが閉まる。

「な、何!?」

私は上目遣いで石竜子を見る。

「すみません、ちょっときてもらえますか?」

「?」

言われて私はそのまま手を引かれて石竜子の後についていく。

行き先はバルコニーだった。

「…!」

バルコニーからは綺麗な夕焼けが見えた。

「綺麗…」

私は思わず、呟く。

「すみません、どうしてもお嬢様とこの景色を見たかったのです。」

「そうだったの!」

「夕焼けは僅かな時間しか見る事が出来ないからこそより美しいとおもいませんか?」

「…確かに」

私は肯定する。

朝日より神秘的かもしれない。

暫し、無言で夕焼けを見る。

心地よい風が吹く。

ふと、聞いてみようかと思った。

「ねえ、石竜子。」

「はい、なんでしょう。」

「車のダッシュボードみたんだけど」

内心ドキドキだが、勤めて平静を装い言う。

何気なく何気なく。

「…見たのですか…」

「あれって、仮面だよね?」

「ええ、仮面です。」

「…石竜子、貴方がドラゴン?」

「そうですよ。」

「…」

えっと、そんなさらりと言われるとどう返せばよいのやら。

「いいの?」

結局でた言葉はあまりに単純。

「何がです。」

なのに、石竜子は理解しない。

「いや、私の婚約者って罰ゲームじゃない?」

「…本気で言ってます?」

石竜子の纏う雰囲気が変わった。

「…石竜子?」

「お嬢様、私はこの10年お嬢様だけを見ておりました。最初から今の今まで一人の女性としてお慕い申し上げております。」

お、お慕いって…!

石竜子が不意に私の唇に親指で触れる。

「!?」

「お嬢様に口づけした日を覚えてますか?」

まさか、忘れたと思われてた?

考えたくないから考えてなかっただけで忘れた訳じゃない。

「正直、あの日から私とお嬢様の関係は変わると思っておりましたが…何も変わらず、かなりショックだったのを貴方は知らないでしょう。」

知らない。

関係を変えるってどう変えたかった?

石竜子は私の執事じゃないか。

「明後日、お嬢様の為にあの花をアランより早くお持ちします。その時こそ、私の求婚を受けて頂きたい。」

「!」

「私は貴方を名前で呼びたい」


一体いつ自分の部屋に帰ったのか記憶にない。

ただ、次目を覚ましたのは雨音が聞こえたからだった。

イベントは明日に迫っていた

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