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Where Or When  作者: 春隣 豆吉
チョコレート色の誘惑
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待ちわびた日

この話の主役は第2側室様です。側室の役目を終えた彼女のその後になります。


「アンジェリーナ・サントノーレ伯爵令嬢。正妃が第1側室グロリア様に決定しましたので、あなたの第2側室としての生活は終わります」

「……そうですか。分かりました。どれほどの猶予をいただけるのでしょう?」

「できましたら1ヶ月以内にはご決断を」

「分かりました、1ヶ月ですね。その間に私の今後は決めておきますわ」

 私は重々しい雰囲気でそれを伝える国王からの使いの方の言葉に扇で口元を隠しつつ私は相手の雰囲気に合わせて応対した。

 私の後ろでは実家から一緒に来てくれたメイドのメルバが同じく下を向いていた。ちょっと肩をふるわせているのを見た使いの方はものすごく同情をこめた目で私たちを見た。

「後ほど陛下もこちらを訪れるとのことです。直接いたわりの言葉をのべたいとおっしゃっていました」

「まあ、ありがたいこと。陛下には感謝しかありませんのに」

「それでは失礼いたします」

 そういうと使者の方がドアに近づくと、メルバがさりげなくドアを開け見送った。

「……メルバ、もう使者の方はここから離れたかしら」

「……ええ、もう大丈夫かと」

 そのまま耳をドアに近づけていたメルバがうなずいた。

「ふふっ…ふふふふっ……このときをまっていたわ…これで両親も“国王様の元側室”である私のすることを止められない。でもメルバ、あなたを巻き込んでしまってごめんなさいね」

「何を言ってるのです、アンジー様。私たちは小さい頃から一緒だったじゃないですか。私は自分の意思でアンジー様のそばにいるんです」

 メルバはお母様付きの世話係の娘で、同じ年齢の私とは姉妹のように育った。私の夢を姉以外で知っているのは彼女だけだ。それをかなえるために側室になると決めたとき“私はアンジー様のそばにいると決めております”と言い切り王宮についてきてくれたのである。

 使者の方は私が落ち込んでいると思っているだろうが、ああやって扇で顔をかくしてないとにやついてるのがばれてしまうためだった。ちなみにメルバが下を向いて震えていたのはやっぱり笑いたくなるのをこらえていたからである。


「さあ、お祝いにとっておきのお菓子を食べましょうよ。今朝作ったいちごのタルトはいい感じに冷えているんじゃなくて?」

「ええ。さっそくお茶の用意をしますね。それにしてもアンジー様、この部屋とも1ヶ月くらいでお別れなんですねえ。5年も過ごしていますと少々愛着がわいてきますよね」

「そうねえ…陛下が私の夢を理解してくださって、特別に台所を作ってくれたのよね。おかげで後宮の台所で料理長に遠慮しながら作らなくてすんだもの」

 陛下が台所を作ってくれた理由は、特技のお菓子作りを活かして自立するという私の夢のためだ。

私の夢は菓子店を開くこと。こじんまりとした店舗にして種類は少なめ、味と素材を吟味した菓子を売る。それを食べた人が幸せな気分になってくれればもう最高だ。この5年間は菓子店を開くための勉強期間に最適だった。時折顔を出す陛下に私の事業計画を相談し、側室だけが集まるお茶会でお菓子の批評をしてもらったり。

 でも、まだまだ勉強不足だから実家に戻ったら菓子職人養成所に通うのもいいわね。もしくはこれはと思う方に弟子入りという選択もありかも。

「アンジー様、顔がにやつきすぎです。とても王妃に選ばれなかった側室の顔には見えませんよ」

 つやつやとした赤色が美しいイチゴタルトを出してきたメルバに指摘されてしまう。

「あらやだ。ついこれからの生活を想像してたら楽しくなってきちゃって。でも私の側室生活は悪くなかったわ。他の側室様とも仲良くなれたしね」

「ですがベルナデット様だけは残念な結果になってしまいましたね」

 ベルナデット様は3番目の側室として王宮にいらしゃったのだけれど、もう王宮にいない。

「ベルナデット様は誇り高くて情熱的な方だったわね」

「あの方の場合は世間知らずで向こう見ずというんです。ヴィンシェンツ様が溺愛していると評判のキワさんに因縁をつけてご実家に軟禁ですんだのが驚きです」

 確かにヴィンシェンツ様の怒りをかって軟禁ですんだのは軽い処分かもしれない。だってキワさんを召喚した元魔法使いはお家取り潰しで国を追放ですもの。


 メルバとともにタルトとお茶を楽しんでいると、ドアをノックする音がした。メルバが扉をあけると国王陛下が立っていた。私も急いで立ち上がってお辞儀をする。

「やあアンジー。お楽しみのところ悪かったね」

「まあ陛下。ご一緒にいかがですか?」

「そうしたいのはやまやまなんだけど……すまない、アンジー」

 なぜか陛下に謝罪されてしまう。え?私、陛下になにか嫌なことされたかしら。

「あの陛下?どうして私に謝るんですか。頭を上げてくださいませ」

「……私はあなたの夢を素晴らしいと思いその実現に手を貸すべく側室にしたのに…すまない。実はあなたの下賜を希望してきた者がいる」

 下賜…………誰でしょう、そんな物好きは。

「ええっと、それって私は断れないんでしょうか」

「そうだよな。断りたいよな。でもたぶん、きみは断らない」

「私が断らない?」

「うん。きみの下賜を希望してきたのは、シャテニエ伯爵なんだ」

「シャテニエ伯爵様、ですか…あらまあ、それは…」

 シェンテニエ伯爵領はさまざまな果実の名産地として有名で、そこでとれる果実はその美味しさで高級品として有名。

 ……あらやだ。私ったら“よし!菓子の材料確保”って思ってしまった。

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