自覚して落ちる
宣言したとおり俺はキワにこの国のことを教えることになった。ついでに自分についても知ってほしいので勉強以外の話も彼女とたくさんした。
そこで分かったのはキワの趣味が料理ということ。そこで、王宮のキッチンで試しに作ってもらったところ、彼女が作った鶏肉をスパイスとヨーグルトで漬け込んだあとに焼いたものは俺に衝撃を与えたのだった。他にもいろいろ作ってもらったけど、どれも美味い。
さらに魔法部にある俺の部屋で勉強したとき、魔法でほこりはないけどごちゃごちゃな部屋を見かねたキワが掃除を申し出てくれた。
「ヴィンシェンツさん、今まで掃除はどうしてたんですか?」
「魔法部付のメイドに頼めばやってくれるんだけど、俺、自分のものを勝手にさわられるの嫌いでさ」
「だったら自分で掃除するしかないですね。お掃除の魔法とかないんですか」
「あるよ。でもそういうのってメイドの仕事を奪うことになるじゃないか」
「……掃除、嫌いなんですね」
俺が笑ってごまかすとキワはちょっと呆れたようだった。
そんなことがあって1ヶ月たった頃。キワのこれからを考えるようになった。国王のあいつが5番目の側室として王宮で保護をすると言うけど、俺はそれに待ったをかけた。
「俺はキワを家政婦として雇いたい。王宮の外で暮らしたほうが彼女はいいんじゃないかと思う」
「ヴィン、キワを家政婦として雇うのはどれくらい?私なら側室として保護したあと、彼女の自立する手段をいくらでも考えてあげられるんだよ。彼女は未婚の若い女性で、これから誰かと結婚するにしても、その相手だって私が選べば間違いない」
キワが側室…嫌だな。でも俺の知らない誰かと結婚はもっと嫌だ…あ、そうか。俺キワのこと好きなんだ。きっと、あの泣いている姿をみて彼女と接するようになってから。でも彼女は俺のこと単に掃除嫌いな国一番の魔法使いとしか思ってないのは分かってる。やっぱり、ここは俺のことちゃんと知ってほしいし口説く時間がほしい。
「じゃあ、キワに選んでもらおうぜ。側室がいいか家政婦がいいか」
「それでいいけど、やけにキワを気にかけてるよね。どうして?」
俺は国王からの質問に答えなかったけど、なぜかにやにやされてしまった。こいつ、察しがいいんだよな…。
1年たった現在、キワは家政婦として俺の家で暮らしている。最近なぜか国王がキワをお茶に招待したいとうるさい。
「ヴィンばっかりキワの話を聴くのはずるいよ。私だって異世界のことを知りたいのに」
「お前はそんな時間ないだろ。だいたいキワは俺の家政婦なの!!」
「ふうん、まだ“家政婦”なんだ。ちゃんと“好きだ”って言ったの?」
「……愛してるって言ってプロポーズもした」
「おや、ずいぶん頑張ったじゃないか。それでキワは?」
「……パンのおかわりをねだるときみたいな軽い物言いだと言われた。俺、そんなつもりないのに…って、おい。そこで腹抱えて笑ってるんじゃない」
俺の前で腹を抱えて爆笑している国王。まあ、ここは国王の私室だからいいだろう。笑っている内容は非常に気に入らないが、普段はすました顔しかできないからな。
「ああ、おかしい。でも彼女がそう思うのは無理ないよ。お前、仕事以外の普段の言動が軽いから。自業自得だよ…私に魔法もやめろよ?」
「ふん」
「だから怒るなって。なあ、美味しいお菓子をプレゼントしたらどうだ?花なんかもいいよな」
お菓子と花か…確かにキワは花や植物が好きだ。そして甘いものも。
「キワってヴィンが仕事してるの見たことないんでしょ。仕事してる姿を見せると意外な一面を知って見直してくれるかもしれないよ」
「魔法部に連れて行くなんて冗談じゃない。俺はありのままをキワに見て欲しいんだ」
「確かに仕事してるときのヴィンって別人だもんね。まるで魔王だよ」
「おまえに言われたくない!!……でも、お菓子と花というアドバイスは感謝する」
「ほんとに好きなんだねえ。頑張るんだよ」
その後、俺はなんとなくあいつに借りを作ったような気分になったので、俺同伴でということでキワを王宮に連れて行くようになった。
あいつのアドバイスどおり、ちゃんとキワの好きそうな花やお菓子を贈ったり市場での買い物に荷物持ちとして付き合ったり(荷物持ちは断られることが多かったが)。
もちろん、いろんな話もした。だいたいは俺が今日一日の話をしてキワがどんな過ごし方をしたのかって話だけど、一日の終わりにそういう話が出来る相手がいるってすごく幸せなことなんだと改めて気がついた。それを教えてくれたキワが俺はやっぱりとっても好きだ。
だけど俺の言動が軽いのなら、どうやって表現すればいいんだろう。でも、俺の言動もひっくるめて好きになってもらいたいのが本音だし。本気の恋って苦しいんだな。