異世界からの出会い
「家政婦」に出てきた魔法使い・ヴィンシェンツ視点の話です。
コネというのもは魔法使いばかりが集まる王宮の魔法部では通用しない。魔力が高く質がいい者が高い役職につき、そのなかでも一番の者が長となる。つまり家柄や年齢などは全く考慮されない実力主義だ。ちなみに現在の長は俺、ヴィンシェンツだ。5年前に長となり、当初は“まだ若すぎる”とずいぶんやっかまれたが実力で黙らせた。
だが、それを面白くないと思っている馬鹿野郎は完全にいなくなったわけじゃない。
ここは王宮の地下にある「魔法使いの間」。古い文書によれば、100年前に当時の魔法部の長が異世界人を召喚した場所で、現在はその扉を開く鍵は俺以外開けられない場所にしっかりある。だから普段は誰も入れないはずなのに、俺と国王の目の前にはぐったりと座り込んでいる馬鹿な男がいた。
「ヴィン、これに鍵あげたの?」
「誰がそんなことするか。ただ、こいつの曽祖父は異世界人召喚時に魔法部の長を争ったほどの魔力持ちだったけど腐った性根の持ち主だったそうだから鍵の複製くらいしてたかもしれないな」
まったく…複製を許すとは。当時の長、何やってんだ。もしやこいつの曽祖父に弱みでも握られていたのか。
「やれやれ腐った性根だけが遺伝したのか。最悪だね」
国王があきれた口調で笑い、俺は目の前で顔を赤くしたり青くしたり汗をかいたりして震える男を見下ろした。曽祖父は高い魔力の持ち主だったが、代々魔力の量は減っていきこいつは俺からみれば小指の爪ほどの魔力しか持っていない。
「だいたいこいつの魔力なんて俺からみれば小指の爪ほどだ」
「おまえを比較対象にしたら、この国の魔法使いは皆おまえの指の爪だよ。ヴィン、こいつの魔力は今どうなってる」
魔力は使えば減る。補充するには飲食睡眠が手っ取り早いが、体内に限界点というものがあってそれを越えるともう魔力は戻ることはない。国王に言われたので俺はしぶしぶ見たくもない馬鹿野郎の魔力を調べた。
「あー、こいつは限界点を越えて全ての魔力を使ってるね。お前もう魔法使いじゃないから魔法部追放ね」
「は?!嘘をつくなこの若造が!!お前みたいなやつが長などふさわしくない!!」
ふん、顔色を悪くして大量の汗をかいてるくせに暴言だけは吐くのか。
「だいたい、俺は曽祖父の代から魔法部なんだ!お前みたいなヤツとは違う!名門の出なんだ!」
名門ね…こういうやつを面汚しって言うんだろうな。
「魔法部ってのは魔力の量と質で役職が決まる場所だよ。俺が魔法部の長で、お前が下っ端なのはそういうことだ。俺、使えない馬鹿っていらないんだよね」
「馬鹿とはなんだ!ふん、俺はお前もやったことのない異世界人召喚に成功した!俺が長にふさわしいってことだ!!」
「だからおまえはもう魔法使いじゃないっての。魔力ないんだから。それに俺は陛下の前では嘘はつかないよ」
「そうだね、ヴィンは私に嘘はつかない。そこの者、お前にもう魔力はないよ」
「そんな……」
国王に言われても信じられないらしく、男は自分の両手をかざして詠唱し魔力を出そうと試みていた。俺クラスになると心のなかで念じるだけで手はポーズだけなんだけど、こいつクラスだと手をかざして詠唱しないと魔法は使えない。
「……うそだ…うそだあああ!!」
「この男、拘束して牢にいれておいて。魔法部としては追放でいいだろうけど、法はまた別だからね」
国王は控えていた騎士に男の身柄を拘束させて、部屋から出て行かせた。部屋に残ったのは俺と国王と…
「さて。この気の毒な女性を保護してあげないといけないね」
「そうだな。元魔法部の馬鹿野郎がやらかしたことだ。俺のほうで保護しよう」
「魔法部で保護なんてとんでもない。ヴィンはともかく実験好きとかいるんだから。王宮の客間に運ぶよ」
そういうと国王が部屋の中央に置かれている大きな寝台に近づく。俺もあわててそれに続く。
中央にある大きな丸型の寝台の上にいるのは、意識を失っているのか寝ているのか…とにかく目を閉じて微動だにしない異世界の服を着た一人の若い女性だった。
国王が彼女を抱きかかえようとしたけど、俺はそれを止めた。
「俺が彼女を運ぶ」
「え、ヴィンが?どういう風のふきまわし」
「うるさい」
寝台から慎重に彼女を抱きかかえると、息をしているのが分かった。よかった、生きている。