国王様とお茶を
なぜか、国王様からお茶の招待を受けてしまった。
「俺は嫌だって言ったんだけどさ、あいつ(注:国王)が俺ばっかりキワと過ごすのはずるいって言うんだ」
3時のお茶の時間に私の作った生クリームをのせたかぼちゃパイをほおばりながらヴィンは不服そうに唇を尖らせた。
「別に私はヴィンとばかり過ごしていませんが。市場で顔なじみになったお店の人たちに本屋さん、それに最近見つけたお菓子の美味しい花屋兼カフェの店長さん……」
「…確かに近場なら一人で出歩いていいって言ったけどさあ、キワは行動範囲を広げすぎだよ」
「この程度、私にとっては普通です。それより口のはじっこにかぼちゃついてます」
「えー、どこ?キワ取って」
そう言ってにこやかに顔を突き出すので、私は黙って紙ナプキンと鏡を差し出した。
次の日、ヴィンに連れられて私は1年ぶりに王宮の中に足を踏み入れた。
私が召喚された場所は王宮の地下にある「魔法使いの間」と呼ばれる場所だと知ったのはヴィンとともに王宮を出るときだった。王宮で女官の皆様にこの国の女性の常識を教わったあとは彼が王国のことや自分のことをいろいろ教えてくれたっけ。
「キワ、これだけは約束して。あいつになにかされそうになったら顔をひっぱたいて急所をねらって蹴るんだ」
ヴィン…国王を痴漢扱いか。心配性なのは分かるけど、私たちを案内してくれている女官の方が肩を震わせているような気がするぞ。
「キワ、ちゃんと俺の言うとおりにするんだよ。わかった?」
「はいはい、わかりました」
ヴィンをいなしているとドアが開く音がした。
「2人して私の部屋の前で何を言い争っているかと思えば……ヴィン、私はおまえの言い様だとまるで危険人物じゃないか。やあキワ、1年ぶりだね。さ、入って。美味しいお菓子とお茶を用意させたんだよ」
国王様が見目麗しい顔に満面の笑みをたたえて私を手招きした。あー、これはたいていのお嬢様ならころっといっちゃうわ。
一緒にお茶をすると言ってごねたヴィンは、国王様に“魔法使いヴィンシェンツ、きみは仕事だろ”と言われ、しぶしぶ私たちから離れていったのだった。
「お茶の味はどうかな?」
「はい、とても美味しいです。さわやかな柑橘系の香りがします」
「それはよかった。これは6番目の側室の実家が治めている領地で作られているものなんだ」
思わずお茶を吹きそうになるが、頑張った私。1年の間に側室が2人増えたんですか…すごいな。
「そ、そうなんですか~。このお菓子も美味しいですねえっ」
「そうだろう。2番目の側室はお菓子作りが趣味でね、私がキワをお茶に招いたと言ったら一番得意なものを作ってくれたんだ」
「そ、それはありがとうございます」
「ところで、ヴィンとの生活は楽しいかい?あいつ我がままだから大変だろう」
「ヴィンはいい雇い主です。家政婦として楽しく働いております」
「王宮に住んでた頃はそりゃもう我がままで傍若無人だったのに今じゃすっかり変わったよ。キワの効果はすごいね」
うわ~、なんかまぶしすぎて正視できない。私はうつむいてお茶をのむことで見ないようにした。
「それにしてもヴィンばっかりキワを独り占めしてずるいよね…ってそんな顔を強張らせなくても。冗談だよ。実は、私も異世界の話が聞きたくてね。市場も楽しいだろうけど、王宮も楽しいよ。たまには私にも顔を見せてもらいたいんだけどな」
「は、はあ…」
どうみても国王様が鏡で自分の顔を見てたほうが楽しいと思うんだけどなー、いやそれは単なるナルシストか。
さてどう返事しようか、と迷っているとドアがバタンと大きな音を立てて開いた。周囲の制止などどこ吹く風でずかずかと入ってきたのはヴィン。
「キワ、仕事が終わったから帰ろう!!」
「え、ヴィン?!」
「ヴィン、ノックくらいしてくれないかな」
「今日は市場で激安肉まつりがあるって言ってだろ。俺が荷物を持つからたくさん買えるよ」
「確かに激安肉まつりはありますけど、取り置き頼んでますし配達してもらえますから私だけで充分です」
「え。なにその手際のよさ。キワ、ひどい」
「はあ?いったい私のどこがひどいんですか」
と、ここでぶっと噴出す音がしたかと思うと、あっはははと大きな笑い声が。思わず私とヴィンが顔を見合わせて笑い声の方向を見ると、国王様がお腹をかかえて大笑いしていた。
「……おい、笑うな」
「だ、だって…おまえ…ぷぷっ。キワ、きみって面白いね」
面白い?単にヴィンの荷物持ちはいらないって言っただけじゃないか。しかも涙まで流して大笑いしてるし。周囲の人たちがあぜんとした顔で見てるから、こっちが恥ずかしい。
「ふん、そうやって笑ったままでいる魔法でもかけてやろうか」
「悪かったってヴィン、くだらないことに魔法を使うなよ。ところでキワ、さっきの返事を教えてくれないか?」
「キワ、返事ってなに?」
「国王様がこれからたまにでいいから異世界の話を聞かせてほしいそうです」
「却下」
なぜヴィンが断る。でも雇い主だからいいのか。でも、もっと言い方があるだろうに。
「あの国王様。ヴィンが一緒にいてくれることが話をお受けする条件です」
「「え?」」
言葉は同時に発したのに、2人の様子は対照的だ。おやおやと目を見張ったあとニヤニヤする国王様。
ぱああっとさっきの仏頂面から一転、上機嫌最大級のヴィン。
……ん?私は何か言動を間違えたの?
初掲載:2015年10月29日