(4)僕と俺×オセロ
「ねえねえ、そういえば風勇君が言ってた従妹の子は部活にこないの?」
僕は二、三日前に風勇君がそんなことを言っていたのを思い出してそう訊いた。
僕の隣を歩いていた栄夢君もうんうん、と頷いている。
部活は五人でも出来るけど人数が増えて友達が増えることは良いことだよねー。けど、風勇君の従妹さん一人だけじゃ僕たちが一斉に卒業した時に困るよね。
「今日来るぞ」
何気なく風勇君が言ったけどそこは声を大にして言うところだよっ。
「お前なぁ、そう言うことはあらかじめ言っておいてくれよ。一人で部室にいたらどうするんだよ」
僕なら寂死しちゃうかも・・・それはいくら僕でもないよね。僕には名雪がいるしね。一人でも二人だもんね。
「言ってなかったっけか。そりゃあすまん。けどそんなことでめげる我が従妹ではないっ。あいつならサバイバル訓練受けてたことがあるから・・・ん? サバイバルか、それいいな。今度はサバイバルゲームをしよう!」
サバイバル訓練ってなんだろ。面白そうだから僕も教えてもらおうかな? それにしても風勇君って遊ぶことばかり考えてるよねっ。だから他の生徒たちから遊部なんて言われたりするんだろうね。
「サバイバルなら迷彩服と・・・」
一人の世界に入り込んでしまった風勇君は放っておこう。大丈夫。風勇君はちょっとやそっとじゃ死なないんだから。
「栄夢君、新入部員さんって一人だけかなぁ」
ポスター描いたの僕だから少し、ほんのちょっぴりだけ責任感感じちゃうよ。僕が俯き加減に歩いていると栄夢君は僕の頭をポンポンっと叩いた。
「気にしたらダメだよ。元々、天文部なんてマイナーなんだからさ。皆、いつからか空を見ることを忘れちゃって下ばかり向いて生きてしまうものなんだよ」
うぅ、難しい。けど、少ーし分かるような気もする。子どもの頃とかは空を見て星を眺めて、月のウサギを探して、飛行機雲を目で追って・・・けど段々年を重ねていくと上を見上げることに疲れちゃうんだ。だから下を向いちゃうんだ。自分より下を見て何かを得たいんだ。見つけたいんだ。下を向くことでなくした大きな夢を。
「ロケット飛ばそうよっ。ドドーンとさ」
僕たちはまだ見失ってないんだ。だから夢に届くようにどこまでも飛ぶロケットを飛ばしたいなー。
「それいいぞっ。良くやったぞ雪っ」
さっきからずっとブツブツ言ってた風勇君がロケットっていう言葉に反応した。そんなにキラキラした目で見られると照れちゃうよー。
「ロケットか、それもいいかも」
栄夢君も賛成してくれた。雛ちゃんと夕陽ちゃんもきっと賛成してくれると思う。
「アっツーイ!!!」
部室に入る直前にそんな大きな声が聞こえた。声の主は夕陽ちゃんだね。僕はそんなことをのんびりと考えていたんだけど、栄夢君はその声に慌ててドアを開けて部屋に飛び込んだんだ。続いて風勇君もどうしたのかと入って行く。もちろん僕も続いたよ。
部屋に入ると夕陽ちゃんは普通にソファに座ってる。その手にはコップを持って。そういえば夕陽ちゃんって猫舌だったっけ。
「雛ちゃーん」
僕はそう言って固まってる栄夢君の横を通り抜けていつも通り本を読んでる雛ちゃんに抱きつく。一日一回はこうしないとね。
「・・・おはよう」
雛ちゃんも動じることなく挨拶してくる。
「うん、おはよー」
風勇君は心配して損したって感じでソファに飛び込んだ。いつも占領しているソファに。けど、今日は先客さんがいたみたいだね。ソファの端っこにちょこんと座っていた一年生らしい女の子の膝の上に頭が乗った。風勇君はあれっ、いつもより柔らかいなぁって女の子の太ももを触ってる。風勇君・・・変態さんだ。女の子はワナワナと肩を震わしてるし。あぁ、あれだね、
「せくしゃるはらすめんと」
「・・・セクハラ」
僕と雛ちゃんの言葉でスイッチが入っちゃったみたいだよぉ。
「兄さんっ、少しいいかな」
女の子は地を這うような声でそう言ったけど最後は疑問系じゃなくてどちらかといえば命令形のような気がしたんだ。その証拠に女の子は風勇君の首根っこを掴んでズルズルと引き摺りながら部屋を出てっちゃった。それから開けっ放しのドアを栄夢君がそっと閉めたのが印象に残った。
「ま、待て。俺はお前があそこに座ってるとは知らなかったんだ。だからあれは事故なんだ。いや、その・・・すまん・・・ギャアアアああああああぁぁぁぁ!!!!!!!」
ドアの外がなんだかうるさいけど皆気にしない方向みたい。雛ちゃんは本を読んでるし、夕陽ちゃんはお茶を飲んでるし、栄夢君は地球儀をぐるぐる回してる・・・暇なんだね。
「それでは第三回オセロ大会をやろー」
僕の場違いとも言える言葉でも今は皆がありがたいという感じでワラワラ集まって来る。天文部にないものはないからね。オセロぐらい十セット常備してあるんだよ。
「いいねー、雛もやるでしょ。あと、栄夢に拒否権はないから」
「・・・やる」
「えっ、強制なのっ」
雛ちゃんも少しやる気だし、栄夢君もそんなこと言ってるけど楽しそうだしね。夕陽ちゃんはノリノリだしね。僕も負けないけど。
「はいはーい、罰ゲームはどうするのー」
僕がそう言うと夕陽ちゃんが少し考えるような仕草をしてから言った。
「風勇のあと始末・・・」
ニヤリって言葉が似合いそうな顔でそう言った。その言葉で和気藹々という感じだった雰囲気がピシリと固まっちゃった。それぞれがやる気をフルで出したような感じだった。
そうして始まった総当たりのオセロゲームの結果は・・・
第一位 三勝 雛ちゃん
頭脳的作戦で勝ったみたいな感じだったよ。雛ちゃん強い。
第二位 二勝一敗 栄夢君
のほほんしてて勝てそうなのに最終的には何故か勝ってるんだよねー。ふっしぎー。
第三位 一勝二敗 夕陽ちゃん
やる気が空回りしてたっぽかったのに勝てなかった。・・・僕弱い?
第四位 三敗 僕
僕・・・才能ないかも。ということであとは名雪に交代。
「ちょっと待て。俺は負けてないから生ゴミの処理なんかしないぞ」
俺は負けてない『僕』が勝手にやったことなんだからな。そんな俺の思いを察してくれたのか夕陽さんが俺の肩に手をポンっと置いた。
「男は諦めが肝心なのよ」
察してねぇ。空気読めよ。まぁ、最初から期待はしてなかったさ。
「・・・哀れ」
雛さん。何気にズキンっとくるのですが。
「さすが苦労人の名を欲しいままにする名雪だ」
栄夢もそう感慨深げに言わないでくれ。泣けてくるんだ。
「じゃあね、今日は楽しかったよ」
「あぁ、お前らはな」
「・・・惨め」
「だと思うなら」
「や・・・」
「でしょうね」
「まぁまぁ、明日アメ持ってきてやるよ」
「別に俺は『バタンっ』・・・最後まで聞いて下さい」
思わず丁寧語でそう言ってしまった俺。風勇? あぁ、雑巾のようにボロボロになっているところを見つけました。もちろんほったらかしにしてきましたけど。