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五十七話

「リリア様、直にここにも魔王軍がやって参ります。王都へ御避難を」

「ありがとう、フェリクス。でもそれは拒否します」

「御身は一人の物ではありません」

「魔術の心得が多少なりともあるなら戦うべきです。それに私は第三王女よ。私が居なくても変えは効くし…」


 そもそもここを抜けて王都へ避難したとして、それが何になるのか。今日死ぬのと明日死ぬのに違いはあるとでも。

 フェリクスには悪いが、私がこんな事言うのは策や勝算があるわけではなく、単にヤケクソになっているだけだ。


「緊急!第一次防衛へ多数のドラゴンが飛来!」

「ど、ドラゴンですって!?」


 ドラゴン…伝説の魔獣。

 たまに飛んでいる姿や山奥で見かけることもあるらしいが、未だはっきりとした遭遇例は聞いたことがない。

 硬い鱗は剣も槍も通さず、口から放たれる炎は軍を一瞬でなぎ払うと言われている。


 それが、多数。

 魔王はそんなものまで従えているというの?


「…いっそ皆で突撃したほうが楽しく死ねるかもしれないわね」

「その生き様を否定はせん、だが、私は勝ったほうが楽しく死ねるとがの?」


 場違いなほど明るい声。

 そこに居たのは男物の甲冑に優美さを備えた槍を肩にかけた、妙齢の女性。

 入り口の扉に背を預けたまま、面白そうに此方を眺めている。


「ロザリア叔母様…」


               ◆


 壁にのぼり、国境の向こうを見る。

 そこには白一色の何かが動いていた。

 神聖王国聖堂重騎士。

 聖都の戦力にして、狂信者の群。魔物よりよっぽどタチが悪い。

 神に祈っていたかと思えば、悪魔に祈ることもあるらしい彼等は、今王国へと向かい動き始めた。


「攻撃来ます!」


 神聖王国から飛来する巨大な石の塊。火より土や風を好むあの国の攻撃が国境を守る壁を揺るがした。

 …土と風の魔術。

 どっかの無茶苦茶な少年を思い出す。いや、少女なんだったか。


「ランディ、少し後退しろ」

「了解」


 先日までまで仲間達と訓練に励んでいたのが、えらく遠い昔に思えてしまう。

 時間は短かったが、楽しい日々だった。

 彼女は今どこにいるのだろうか?

 どこかで戦っているのだろうか?


「…第二射来るぞ!」

「壁が崩れる!」


 神聖王国との国境は帝国に比べて薄い。

 帝国よりは友好国であった為であるが、それが一瞬にして敵になるとは誰も考えなかったのだろう。

 あと一発耐えれるかどうか。

 …

 …


「…来ないな」


 もう十分な時間が経っている。それでも魔術が飛んでくるような様子が無い。

 同じように不審に思った誰かが塀の向こうを覗き見ている。最初はチラチラと身体を隠しながら覗いていたと思ったら堂々と身体を晒して見始めた。

 何かあったか?


「様子がおかしい。奴等の後方で何かあったらしいが遠くてわからん」


 統制が取れていないのだろうか。

 俺も壁を登って覗き見る。

 恐らく魔術の届く範囲であった位置に陣取った軍が留まっている。


「聖都でクーデターでもあったんかねえ」

「それは助かるな…ん?」


 神聖王国の聖都がある方角、秋空に浮かぶ雲の中、何かが飛んでいるように見えた。


「天使に天罰でも落とされたかな」


 もしそうなら、俺は神を信じたかもしれない。

 もちろん、それが悪魔であってでも。

なんか文が寂しかったので追加


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