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五十五話

「あのコボルトを八つ裂きにする手間が省けました。それを返して自分の領地に戻るというなら見逃してあげますよ。首と胴が離れる前に」

「あれをコボルトと呼ぶか。くっくっく…無知もここまで行くと微笑ましいものだな。一つ教えてやろう。あれはフェンリルと呼ばれる神狼の血を引く種族でな、勇者3人を手玉にとれる戦闘力を持ったまぼろしの一族の末裔だ。私とて魔法なしではとても敵う相手ではない」


 ふぇんりる…フェンリル。

 そういえば昔エリシアさんがそんなこと言ってたような気がします。

 魔王が敵わないとか言われましても、彼はこと戦闘という点に関して素人であると先ほどまでの動きを見てわかりますので、それで強さを量られても困ります。


「それはどうも。私のところではコボルトでしたのでそう呼んでました」

「…?その彼は今は王国進行の指揮を執っている。この意味がわかるかね」


 予想通りといえばそれまでですが、あのコボルトに指揮が執れることが予想外でした。

 勇者の時と同じように後衛にいるか、最前線で戦ってそうなタイプだと思ってたのですが、そもそも道中で魔王軍と遭遇しませんでしたしね。


「おや?どうやら神聖王国も侵攻を開始したようだな。ふふふ、これで王国の命運も尽きたというわけだ。御もてなしと言っては何だが、お客様にもご覧頂こう」


 魔王は自分の後ろに見ていたであろう映像を投射した。遠隔投射の魔術か。あれ地味に難易度高いのによくできるな。さすが魔王。


「題はそうだな。『人類の終焉』なんてどうだね?ははっ、ダメだな私にはネーミングセンスというものが無いようだ」


 何か楽しそうな声を横に、私は王国の様子を眺めていた。


               ◆


「魔王軍第一次防衛ライン突破、我が軍は包囲を避けるため前線を後退させました」

「右翼の帝国残存部隊、包囲されています。援護を!」

「神聖王国軍、国境へ到達!現在の兵力では防衛困難、増援を」


 王の下に入る報告はどれも絶望的な物ばかりであった。

 いや、絶望的なのは判っていたはずだ、それでもやるしかなかった。


「魔王軍は主力と思われる部隊が前線に出ています。王国の兵でも対処するのが難しい状況です」

「魔術部隊を前進させろ。国境まで到達されれば反攻の目処が立たん。それだけは避けるように。包囲された帝国軍へは…突破口を作ってやれ。だが、消耗を強いる必要はない」


「神聖王国への打診は続けますか?」

「もう止めよ。今となっては無意味だ。国内の教会をも捨てて攻め込むとはな…融和の教義が聞いて呆れる」


 または、神聖王国と同じように魔王に”融和”せよとでも言うべきだったか。

 無理だな。

 天敵とは天敵であるが故、敵なのだ。


「切り込み隊は失敗したのでしょうか」

「さあな。元々分の悪い賭けだ」


 王国・帝国・傭兵、戦える者の中から精鋭を選び魔王軍へと突入させた少数の隊。帝国の勇者も同行していたはずだ。

 彼等を軍に配置したところで、王国の命運が数分程度伸びる程度であった。だからこそ賭けた。

 それももう遅い。例え彼等が成功したとしても、帰ってくる国は無いのだから。


「…終わりか」

「そう思われるのは勝手ですが、首がまだ繋がっている限り、諦めるのは尚早である。私はそう考えたから30年前にも戦ったのですよ」


 場違いなほど明るい声。

 そこに居たのは古い王国の軍装のでっぷりと肥えた男。帽子を脱いで脇に挟むと、その下には、微妙に光を反射するスダレのようになった髪。男らしさを感じさせるためでは決して無いであろう、鼻のしたの短い髭。



「アルメッテ男爵軍、遅ればせながら罷り越しまして候。これより


  ―――敵の殲滅を開始致します」

最近アップ遅れ気味ですね

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