五十四話
思わず閉めてしまいましたが、これまた開けて入るの勇気いるなぁ。
空気的な問題で。
「気まずい雰囲気です」
「隊長が悪いと思います」
はぁ…あのコボルトどこに居るんだか。途中の部屋にでもいたのでしょうか。
こうなったら、中にいる魔王に直接問いただしたほうが早いかもしれない。
…よしっ!行くか。
「隊長、お気をつけて」
「クラッドも気をつけてね。ああそうそう、私が戻るまでにあの勇者の説得が終わってなかったら、殺すから。ヨーコ達にはがんばるよう伝えて。それじゃ」
背中の斧とナイフを持ち変え、大きな扉をギィと開き、私はもう一度王の間へと入った。
「戻る事は確定なのか…」
◆
戻った私を迎えた魔王は、今度は何も言いませんでした。
途中で帰ったのが堪えたのでしょうか。なんて謝ったものか。
「さっきはごめんなさい。聞いていたのとちょっと違って動揺してしまいました。…魔王様、でよろしいですか?」
「敬称をつけるか。それに私に恐怖も怒りも感じてないと見える。どこまでも異質な存在だな貴様は」
わお、なんだか褒められた気がします。
さて、ここで魔王をじっくりと見てみます。
黒い肌に銀髪、切れ長の目に尖った鼻と顎と耳。
「ゴブリン…」
「何?」
「ゴブリンそっくりだな、と思っただけです」
女の私が嫉妬するほど綺麗な顔です。それでも男か。もっと男らしく毛深くもふもふしろといいたい。
魔王はそう言われたのが気に食わないのか顔を顰めてますが。
「…やはり人の子か。どんなに異質な存在でも、その根底は愚かな感情で動く生物か」
「私としては魔王様には恐怖も怒りもありませんよ。ただ、彼方の部下が盗んだ物を取り戻したいだけ。それは私の大切なものでそれの為になら彼方を殺すことは厭わないのよ。あえて言うなら逆恨みかしらね」
だから死ね。
空圧の魔術を後ろに使い加速。魔王の眼前に迫る。
「何っ!?」
驚いてくれるなら丁度いい。そのまま首を刈るために左、後ろ、右と空圧を使い魔王の後ろに回りこんだところで、フルスイングの斧と首にたたきつけた。
が、ガリガリと斧が薄緑の膜らしき物に阻まれる。そして攻撃を受けると同時に放たれる風の魔術。
アーマーとカウンターの魔術だ。やはりゴブリンか、戦い辛いな。
「驚いたよ。まだ隠しだまを持っていたとは」
ふん、やはりあの監視していたトカゲを通じて私達を見てたか。
偵察にしては動きがおかしいと思っていたんですよ。
「しかし、その粗末な武器では私のアーマーは貫けまい。貴様もあの勇者と同じように私の前に跪くがよい」
「おあいにく様。その魔術はどうすれば貫けるかしっているのーーーよっ!」
ツルハシと斧を手放すと魔王、というよりアーマーへ両手をむけ全力で石礫を射出した。
アーマーと石がぶつかる耳障りな音が連続で響き、跳ね返った破片が天窓を破壊し、水晶ガラスの雨が降り注ぐ。
アーマーは至近距離では全方位へのカウンターを行うが、その有効範囲は広くない。
あれは攻撃するためのカウンターではなく、相手との距離を置くためにあるからだ。
ゴブリンはやはり中~遠距離のほうが得意だから、と開発された魔術であるらしい。
魔王がどの程度のアーマーを張っているかはわかりませんが、一般的な戦闘向きのであればそろそろ減衰しているはず。
では、隠しだまその二です。
「くらいやがれ」
国境で暇だったのでフェリクスさんに習った火の中級魔術。
左手から炎の柱のような魔術が魔王へと向かい、アーマーを貫いた。
…ように見えた炎は魔王を避けるようにして分かれて拡散した。
あれはっ!
「人の手にあるには過分な代物であると奪った者だが。ふむ、よもや役に立つとは思わなんだ」
「…キサマァ!」
魔王の手にある牙…ではなく鱗。
それは紛れも無い、私の物だっ!




