五十一話
帝都の中は惨憺たる有様でした。
秋晴れの青空にそびえる高い白亜の城、それを囲むように立てられた整然とした町並み、そしてむせ返るような死臭、血の臭い。
「予想していましたが、帝都は全滅ですか」
目の端で勇者二人がげろげろしている。
いかにも虐殺がありましたーという現場ですからね。
帝国兵の方々に限らずに顔をしかめている方が多いです。
「隊長は平気そうですね」
「平気というより、考え方の違いね。力こそ正義、弱いものは喰われる。この光景もミノタウロスの炙り焼きも私には同じ事なのよ」
残念ながら帝国の市民は魔物や魔王に対抗する力が無かったのでしょう。
「いささか乱暴な考えでは?死んだのは力なき市民なのですよ。戦えない者を虐殺することのどこに正義があるのです」
ああ、ごめんなさい。
帝国の兵の方には悪い様に聞こえてしまうでしょうね。私には市民も兵士も無いだけなんですよ。
アルメッテでは戦う者しかいませんでしたので、戦えない者とは即ち死者なのです。
あえて力なき戦えない者に当てはめるのなら立ったばかりの幼児でしょうか?
それはともかく、十万の市民が町で死ぬのも、十万の兵士が戦場で死ぬのも違いはありません。
どちらも十万人の戦果で損失です。
「ロカ…隊長は弱肉強食が正しいというの?」
珍しくヨーコの方から話しかけてきました。
顔色はまだ良くないですし、魔王の勇者のほうはまだダメのようですが。
「ジャクニクキョウショク?」
「弱い者は喰われて、強い者の餌となるという意味よ」
聞きなれない言葉でしたが、素晴らしい。理を端的に表した言葉ですね。
「でもそれは獣の理よ。常に弱い者が虐げられ、強い者が奪う社会なんて存在できない。人は理性で力を無作為に振るわないから戦わない者も生きて行けるのよ。だいたい山賊や獣のどこに正義があるというの」
「何も無制限の暴力だけを力と言ったりはしませんよ。暴力、知力、権力、軍事力、情報力、組織力、力とは多種多様なものです。力の弱いものが力の強い者に喰われる、それは暴力が権力に、権力が組織力に、組織力が軍事力に喰われることもあるでしょう。ですが、より大きい力こそが正道であるのは獣も人も変わりないのではないでしょうか?強い者が社会を先導することは獣の群のボスが王や領主に置き換わったにすぎません」
何といいましたか…そう、秩序。
”力”なきところに秩序が産まれる事はありません。
まあ、そんなかでも私が使えるのは暴力だけですけどね。
力こそ正義、力こそ全て。
それ信じて振るう正義、私にはそれだけで十分です。
さて、与太話をしてたんですからそろそろ出て来てほしいものですが。
「気付いていて何もしなかったと…その傲慢さ、フィン王国も帝国と同じか」
「いえ、此方に攻撃しなければ反撃しませんよ。バレバレの気配で窺っていたのでトカゲの斥候とは違うようでしたしね」
話し合いできるならそれに越したことはありません。
血みどろののれんがかかった元食堂のような建物から出てきた、剣士然とした人。
身の丈と同じくらいの剣を背負い、帝国の紋章が入っていますが、帝国の鎧と形が違うハーフプレートを着た黒髪の人間でした。
「コスモ…」
青い顔をしたシンイチが思わずと言ったように呟く。
ああ、この方が残りの勇者ですか。
あくまでロカの行動原理です




