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挿話 ある手紙との邂逅・後

 ロカからの手紙に目を通す。彼女は元気でやっているようだ。

 ガサツというより野生児のようだった彼女が、私から話しを聞いて少女らしくなり、来年には結婚するかもしれない。

 珍しく女として手の焼ける子であったため、成長する姿を見守る中に永遠を生きる身でありながら年月を感じてしまった。


 ハイエルフの王女という仕事に飽きた私は、後任に一族を任せると山を下りた。

 しばらく世界中を旅をして戻ったところ、森で諍いが発生していた。

 珍しくも無い縄張り争いであったが、その一角を人間が担っている。

 興味を抱いた私はその人間の集落に居を構えた。


 ここの人間は、何故か私達の事をゴブリンと言い、フェンリルをコボルトと呼ぶおかしな連中だった。

 最初は悪意を持って言っているのだと思っていたのだが、閉鎖的なというか隔離されたこの環境で得た中途半端な知識からそう判断しただけだったらしい。


 何せこの山の辺りは魔素が濃く、古代の森林が独自に進化したような形で育った人を拒む原生林だ。

 動物も同じようなもので、我々とて生身で戦いたくない魔獣がうようよいる。

 そんな中で”牛”や”猪”と彼等が称する獣を日常的に狩って生活しているような人間だ。

 数年前に珍しく外から入ってきた人間により格段に環境が改善されたが、根本は変わってないのかもしれない。

 それがロカの手紙からも良くわかった。


 そのロカがずっと気になっているという言葉。


 ディーパ


 旅をしていた頃に聞いた名前…いや言葉だ。

 それが一人歩きして国まで作っていたとは…いやはや。

 今暴れている魔王というのも察しがついてしまった。それが人間に迷惑をかけているというのなら責任を取るべきだろうか?


 封印などという私らしくも無い生ぬるい処置をしたことに原因があったかもしれない。

 まだ人に交われないというのなら、理を覆してみせればよい。


 そうだろう。ディーパ。


               ◆


「行くのか」

「ああ、ロカが私を求めている」


 愛しいロカのにおいがする手紙には、謝罪の言葉と勇ましき言葉が記されている。

 番の印を盗られたことと、それを取り戻すために万の軍と戦う事。

 相手が多いため帰りが遅くなる事への謝罪。


 ああロカ。あの小さな体から発する業火で、また万難を灰とするか。

 幾度と無く私と刃を突き合った頃から何も変わっていない、飽くなき力への妄信。

 その姿はどこまでもフェンリルだ。


「オーデンバルドが戦う事は無い。おまえは一人で行くことになる」

「当然だ。私の番だぞ、私以外の誰にも触れさせない」


 ロカの帰りが遅くなるというのなら、番の私が迎えに行ってもいいだろう。

 番の事は番が負う。それに一族を巻き込むつもりなど最初から無い。


「オーデンバルドの丈夫が惚れ込む娘か。興味があるな……邪魔しているぞ」


 私が出立しようとしたところで入って来たのは、ラインハートの族長だった。

 穏やかな彼が珍しく気を立たせている。


「今の件でラインハートは全員出ることを伝えにな。一族の恥が大将を気取って血迷っているようでな」


 ロカの手紙にもあった盗人。マテンロウと名乗ったらしいがラインハートの一族で間違いないようだが…


「奴は生きていることが我等の恥よ。理に従い滅しておれば良かったと後悔している。今度こそそれを違わぬためにラインハートは立つ次第となった」

「私の邪魔にさえならなければ共に向かうことにしよう」


 各々目的がある。それがお互いの邪魔にさえならなければ良い。



 そっと、彼女から貰った髪を撫でる。

 行くよロカ、君の声が聞こえるところに…


               ◆













               ◆


「ミックさん…何があったんでしょうか?」

「さあな。ランドルトと一緒に帰ってきたジョイルだっけ?彼から手紙を受け取ってからずっとああなんだよ」


 モトの村

 村の中央にある少しがっしりした家の中で、一人の男が手紙を前に灰となっていた。


最終章は月曜からになります

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