挿話 ある傭兵の邂逅・後
「おーい、嬢ちゃんや」
嬢ちゃん。つまり少年ではなく少女だったのか。
左の耳だけ隠れるような奇妙な髪型の見た目10歳くらいの少女。
その長い方の髪にも大きな獣の牙の髪飾りをつけ、どこかアイン団長と同じで物語の主人公のような雰囲気をもっている。
「アイン団長の同郷の友人ってあんたか?あ、俺はケニスって言うんだ」
「ロカだ。…アインは元気だか?恋人と仲良くやってるべか」
名乗りもそこそこに不安そうに団長と副長の事を尋ねてくる。そこには純粋に二人を気遣う気持ちが見て取れた。
というか、やはり副長も同じ故郷だったのか。
心配しているロカ嬢には悪いが、アイン団長の昔話とか面白い話が聞けるかもしれない。
さっそく皆のいる所へ…てほど離れているわけじゃないんだが、二人を連れて行こう。
ロカ嬢に副長が妊娠している事を教えると驚いて、狼狽えて、最後に祝福していた。
おそらく副長の体の事を知っているからこその反応だろう。完治して元気な姿を見ると腰を抜かすんじゃないか。面白そうだ、黙っていよう。
さて、団長達は…お、皆と一緒にいるな。っていうか俺が水汲んで来ないから昼飯が出来てないだけか。
「おーい、アイン団長!故郷の友人が訪ねて来てるぜ」
呼びかけるとイチャついているらしい二人が此方を向いた。
それをロカ嬢とおっさんが見て、ロカ嬢が何かつぶやいた瞬間…
俺は何かに吹っ飛ばされて頭から持ってたバケツを被るハメになった。
…なんだ、いったい何が起こった?
先ほどまで立っていた場所に何かが爆発したような痕跡が出来ていた。
おっさんも俺の隣に倒れている。ロカ嬢はアイン団長の方に…
…違う。
アイン団長はいつもの逆手に持った剣で、ロカ嬢の手のナイフを防いでいる。
ギチギチという鍔迫り合いの音がここまで聞こえ、剣から火花が散った。
団長が剣を振り上げると、ロカ嬢がナイフを手放す、今度は大振りなナイフ…というか鉈を取り出して切りつける。
団長は順手に持ち替えた剣でそれを裁くが二人の剣速がハンパじゃない。
しかもドンドンドンと、一撃一撃がとても剣での打ち合いと思えない音がしている。
全員あっけに取られていた。
彼女は何なんだ?アイン団長の同郷ってのは嘘?あれじゃアイン団長を殺しに…
っそうだった見ている場合じゃない、団長を助けないと!
「ぜ、全員抜剣!団長をお助けしろ!」
俺より先にフィリップが動いたか。
それを聞いた何人かが慌てて武器を手に団長の方に向かおうとしたが…
「やめろ!全員武器を捨てて動くんじゃ…」
何故か団長がそれを止めようとする。
それより先に団長と打ち合いをしていたロカ嬢が一度離れて鉈を逆手に持つと、両手の指を何かを指すような形にして腕を広げた。
それを見たとたん俺はバランスを崩してその場で倒れてしまった。そして遅れて足に走る激痛。
足に何か硬い物で突かれたような痛みと痺れ。
見ると団長を助けようとした全員が、似た様な形で蹲ったり倒れたりしている。
ロカ嬢が何かしたのか。一瞬で傭兵隊数名を倒すような何かを。
今はそれが団長に向けられている。二人の距離は離れているのに先ほどと同じような打ち合いの音と、見えない何かを剣で打ち払っている団長。
だが、先ほどと手数が違うらしく、隻腕の団長では徐々に押されてきている。
このままだと団長が殺される。
恐らく誰もがそう思ったとき。
副長が魔術を使った。
叫ぶような魔術詠唱だった。だが魔術らしきものが発動したように見えない。
…失敗?
しかし、ロカ嬢は呆けたように副長を見たまま、団長に向けていた両手をだらりと下げている。
団長はそれを好機と見たのだろう。
一足飛びにロカ嬢に近づき、ここまで揺れそうな震脚からの膝蹴り。
…女性にそれはどうかと思うが。
ロカ嬢は吹き飛ばされて沈黙した。




