挿話 ある傭兵の邂逅・前
「おい、ケニス。今日の水汲みはお前じゃなかったか」
「あ!すんません。すぐ行きます」
俺はバケツを二つ持つと、近くの水場へ向かった。
アイン傭兵団に入って結構経った。
元々ただの冒険者だった俺と俺のパーティーは依頼に失敗し、魔物にリーダーが殺され、壊滅するところだった。
俺達の剣も矢も魔術も効かない、毛が針金のような巨大な熊の魔物。不意打ちに魔術を顔にぶつけて怯んだところを切りかかろうとしたリーダーは、縦に三枚におろされた。
それなりに腕に自信を持ってた俺達だったが、そんなものは木端微塵に砕かれた。
逃げるにしても足が動かない。残念ながら俺達の冒険はここで終わる。
そう全員思っていたであろうところに現れたのがアイン団長だった。
俺に振り下ろされた熊の腕を右腕一本で防ぎ、逆手で持っていた剣を振るうとその熊の腕は無くなっていた。
圧倒的な強さ。
蹴りが膝を砕き、剣を振るうたびに熊の体が解体されてゆく、隻腕の死神の舞に俺達は完全に魅せられた。
それからは一直線。団長の仲間に、弟子とは言わない、舎弟でいいからと頭を下げ続け、最初は渋っていた団長も折れて仲間としてくれた。
あとは、同じような形で入る人、貴族なのに団長に惹かれて入った人、強さに惹かれて集まった人…。
色々な人が彼の元に集まった。
人数は膨れ上がりいつのまにやら傭兵団。
最初は困っていた団長も、他国へ入りやすくなる傭兵組合に参入できたので渡りに船とばかりに神聖王国・帝国へと渡った。
人が集まるのは強さだけではなく彼の人柄も惹かれてのことだろう。
なにせ”恋人の病気を治す方法を探す、恐ろしく強い隻腕の剣士”である。どこの物語の主人公かと。
その恋人こと副長も前は深いフードをかぶっていたが、帝国で良い医者が見つかったのか最近は元気な姿を見せる。
何より団長の子供もできた。
男所帯の傭兵団では戦場より大変な事態だった(いや、傭兵団には女性も何人かはいるが男と見間違うばかりの猛者ばかりでとてもではないが、その…期待できなかった)
副長本人が平然としている横であの団長がオロオロしているのも面白かった。
それにしても今回の帝国での仕事は予想外に早く終わった。
プライドばかり高い騎士団に、勇者のクソガキ、頭の悪い貴族。今思い出してもロクな場所じゃなかった。
魔王軍との戦争が続いている中で契約を切るとか、何がしたいのかさっぱりわからねえ。
「勝つ気ないんじゃないかあいつらは」
まあ、今更俺達には関係のない話しだ。今頃くたばってるかもしれん。
「おい、そこのバケツ抱えた傭兵の兄ちゃん」
俺か。バケツ持ってるのは俺くらいだろう。
声の聞こえた方を見ると旅装のおっさんがいた。
「俺か?」
「ああ、すまんがアイン傭兵団を見なかったか?今日当たりに戻ってきてるはずなんだが…」
「俺もアイン傭兵団の一人だが、何か用なのか?」
「お!こりゃ丁度いい。団長のアイン殿の同郷の友人が、アイン殿を探しているんで案内をしたいんだが連れてってくれないか?」
団長の同郷!?
出身地なんて誰も知らないぞ。
フィン王国ではあるらしいが団長は自分の事をあまり話したがらない。
会いに来た人間というのが非常に気になる。
どんな奴が…と、おっさんの指す方を見ると、小さい少年が一人立っていた。




