三十六話
「こう何度も来ると緊張もしなくなるだな」
「最初から緊張一つしていなかったクセに良く言う」
なにやら呆れ顔のハーケン隊長。
ここはいつもの隊長室です。あれから何故か隊長に連れられて来たのですが私はまた何かしたのでしょうか。
記憶にありませんが。
「ま、いつも通り楽にしろ。聞きたいことがあってな、今後の身の振り方についてだ。教練棟で気づいただろうが諸侯は既に領地に戻って準備している。ここに居た貴族の子弟も皆連れ戻されたようだ」
「私も戻ったほうが良いんだべかな。アルメッテに伝えに行くなら半年後には援軍に来られるかもしれないだよ」
全員で移動ですからね。もう少し早いとは思いますけど。
「遠いらしいからな。戻るのであれば退学許可は出すことになってる…が、ベルンハルトから残って欲しいと個人的に嘆願が来ている」
ベルンハルト…ああ、フェリクスさん。
いや、それよりも嘆願て。
私は彼女とは挨拶したり一方的に話ししたりした程度ですよ。これから仲良くなれたらいいなとか思ってはいましたが、女性一人だと不安とかそういう理由でしょうか。
まあ、ランドルト様が見つからない現状では戻るつもりありませんけど。
あ、そうだ。
「嘆願されんでも元々残るつもりだっただ。そったらことより隊長、帝国に入ってた傭兵ばどうなったか知らんだか?」
「おまえは…何をどこまで調べてるんだ?」
は?
なんすかまた呆れたような顔して。
ランドルト様が神聖王国経由で帝国に向かった程度しか知りませんけど。同じ軍隊みたいなものですから国軍で何か把握してないかなと思ったくらいで。
「それが?」
「フィン王国の傭兵は本日ほぼ全隊が帰国している。時間を考えるに帝国が反攻戦を仕掛ける前あたりに切られた感じだ」
なんだそりゃ。
攻める前にわざわざ戦力を減らすなんてアホなことなんでしたんですかね。
手柄を立てさせないため?でも傭兵って後方支援と撤退…あ。
「どんな理由で切ったかはしらんば、裏切ったん奴が神聖王国が攻めやすいようにしただな?」
「ああ、魔王軍のみが相手だったなら帝国軍で勝てる見込みもあったんだろう。それ故に魔王を討ち取る名誉が帝国だけに向くようにする…とか言いくるめたのかもしれん」
「魔王軍がどんなもんか知らんだが、なんでそこまで楽観できただかな」
「勇者とやらの力がそれほど強かったのかもしれん。まあ、想像でしかないが」
ジョイルさんとこで聞いていた話が全てとはいいませんが、帝国全軍かき集めて膠着状態だったはずですよね。
勇者がいくら強くても3人では広範囲をカバーできませんし…いえ、出来るような化け物だったとか?
想像にも限界がありますからこれ以上は無駄ですね。
「で、結局何の話なんだっただか?」
「騎士爵以外で残ってるのがお前だけだったから、今後どうするかって話だ。残留でいいんだな?」
「すんません。やっぱり退学でお願いします」
さっきと状況が変わりましたから。
できれば自由に動きたいですし、何よりこのままだと戦争になりそうですし。
「やはり帰るのか?」
「あー…ハーケン隊長には言うだが、尋ね人さ居てそん人ば見っけなならんだが、どうやら傭兵なっとるらしくてな。会う必要あるんですだ」
「隻腕のアインだったか?戻った傭兵は恐らくそのまま国軍に雇われる事になると思うが…」
隊長知ってたんですね。
「用が済んで戻る必要なかったら。そのまんま傭兵にでもなるだよ。そんときは皆と戦うだ」
「………そうか。ロカ・アルメッテ 戦時法三条第一項に基づき貴君の任を解く。将来有望な奴を手放すのは惜しいが…元気でな」
最後にハーケン隊長は敬礼ではなく握手を求めてきた。




