挿話 ある少女の邂逅・後
「…とそんな感じで、騎士爵家の連中は割とまともな奴が多いかな。地位や出世より仕事として訓練を受けている」
「ふーーーん」
リリアーヌ様は非常に適当な相づちをうっている。訓練の話を聞きたいと言っていたのに。
「リリア…興味なさそうだね」
「だってどうでもいいんだもん。そうじゃなくって私が聞きたいのは」
私の話はどうでもいいのか。泣きたい。
「私が知りたいのはフェリクスのいい人は見つかったかってことよ!」
「は?」
「最初は結構嫌そうな顔していたのに、最近は何か楽しそうな顔してるじゃない。なんかあったんでしょう!さっきだって何だか物思いに耽ってたし、それを話しなさいって言ってんのよ」
いや別に物思いに耽ってたとかじゃなくて、昔を思い出していただけなんだけど…そういやなんで母の事を?
えっと…
確か昔母に…
『綺麗な髪ね。まるで宝石のように輝いて』
『綺麗な髪だな。イエローダイヤみたいだ』
お、思い出した!
急に顔が熱くなる。
「あー!いま誰の事を考えたの?それを話しなさいっていってるのよ!」
「か、考えてまふぇんっひっははないへー」
こうなるとリリアーヌ様が引き差がると思えない。ご自身の研究並みの粘着力を見せる。
いたいいたい。話しますっ
名前はロカ・アルメッテ。
変声前であろう高い声と一見して少女と見間違う容姿をして、左の耳だけ隠れるような奇妙な髪型の見た目10歳くらいの少年。
その長い方の髪にも大きな獣の牙の髪飾りをつけ、どこか浮世離れした雰囲気を持っている。
アルメッテ領とかいう田舎男爵の嫡子らしいが、他の貴族の男共と違いギラギラ視線をしない。
「…アルメッテ?」
「知っているのか。リリア」
「いや…知らない」
意外にも鍛えられているらしいその身体は、3時間走る程度では息切れ一つしない。
初級とは言え四種魔術を扱え、噂に聞いたところでは格闘術にも長けているとか。
あの小さな身体のどこにそのようなパワーが眠っているのか不思議である。
唯一の女である私を見る目も純粋に仲間と見てくれているようで非常に自然体なのが好ましいところ。
「ふんふん。貴族にしては結構まともな子なのね。それで?どこが好きになったの?」
「すっ好きとかそっういいうことはではなくって」
「ああはいはい。そうじゃなくて少しでも惹かれる何かはあったんでしょ」
何かと言われると…思わず髪を触ってしまう。
「……髪が…綺麗だねって。母と同じようにほ、褒めてくれた」
「それからそれから?」
「…」
「…」
「…」
「…え、それだけ?」
仕方ないでしょう。私と彼と接点なんてないですよ。
朝やすれ違ったときに挨拶程度はしますけど…初めての休みの日に一緒に昼食を取ったくらいで…。
「そうだったわ。あなた私や家族の前では普通だけど、外に出ると無口で無言だものね。こりゃ期待薄いかなぁ」
あれだけなんでもないと前置きしたのに。酷いです。
◆
と、言ったものの…。
「ロカ・アルメッテか…ロザリア叔母様の子供ってことよね。アルメッテなんて名前他に知らないし」
帰りの馬車の中で遠くに見えるアルリデア山を見ながら…いえ、その更に遠くを見ながら思う。
封印の地アルメッテ。
前大戦の英雄を封印したことから呼ばれるその名前。その地に関する情報はあまりにも少ない。中央に近い人間しか知らないのではないだろうか。
そんな地から来た少年にフェリクスは惹かれている。
(いや実はフェリクス自身知らないところで小さな少年とかカッコイイ男性より保護欲のそそられる可愛げな男のほうを好きになる性癖がないともいえないのかもしれないけどああでも末弟をかわいがる姿は多少怪しいところがなきにしもあらずダメよリリアーヌあなた親友をどんな目で見ているのかしら彼女はノーマルよたまたま出会いがなかっただけ…)
怪しい思考にとらわれたが、ともかくフェリクスが異性に関心を示すなんて事は今までに無かった。
そう思うとその少年がどんな人間なのか知りたくなってくるというのが、研究者という…いやいや人というものだ。
「私の護衛にもなるんだから…訓練を見に行ってみるのも面白いかもね」
ふひひ 思わず笑いが零れた。
次章はどんな話にしたものやら




