一話
「くぁ…」
門前の物見櫓の上で森を監視しながら、思わず漏れてしまった欠伸をかみ殺します。
昨日までの雨が嘘のように晴れ渡った日、暖かな日差しに照らされれば欠伸も出るというものです。
森に行きたいな。美味しいキノコでも生えてそう。
「こらロカ。弛んでいるぞ」
「はーい。失礼しました」
正面門の前で警備中のラザットさんに注意されてしまった。
15メル上の櫓にいる私の欠伸も聞き逃さないとは。
相変わらず堅い。だから20にもなって結婚できないんだ。
「昼になれば交代だろう。あと少しだ、気合を入れていけ」
「でも私、一昨日から監視しているんですよ。欠伸くらい許してください」
しかも、この天気だ。
「仕方ないだろう。雨天で夜目の利く者が少ないのだから」
本来のローテーションであれば3交代で監視しているのだが…。
一人目のガルツじいちゃんはぎっくり腰。
二人目のローザねえちゃんは急に産気づいて運ばれていった。
「そうだ。ローザねえちゃんの子供はどうなったんです?」
「…昨日の夜無事生まれたそうだ。母子共に健康で双子と聞いている」
「双子!?」
そうか。あの小さい体に二人も入っていたのか。
お腹が大きくなるにつれて、重いだハシゴ上りづらいだ言ってたのがわかる。
「子供にあげるおもちゃを二つにしなきゃ。あ、それとも肥立ちに良い香草持ってってあげたほうがいいかな」
「どちらも喜んでくれるさ。だからアルメッテ様がお戻りになるまでしっかり仕事しろ」
「はい!…ってあれ?」
今フツーに仕事時間延ばさなかった?
「ラザットさん。私昼に交た…」
文句を言おうとした先、一瞬だけ森の隙間から何かが見えた。
「正面、距離300メル。人数2人…2人以上10人以下!」
「10人!?間違いないのか」
「2人は確実に見えましたけど、雨の水滴がキラキラしててそれ以上が確証持てません。あと40メル近づけばもう少し」
「…ロカは監視を続けろ。応援を呼ぶ」
ラザットさんがヒョロロローっと笛を吹く。
第三装備で待機か。
さらにピヨピヨと続いた。各門厳重警戒。
「警戒は必要でしたか」
「アルメッテ様が不在である。平時より一つ上が丁度よい」
「はい」
軽口叩きながらも、意識だけは正面を見据える。
さて、そろそろ250メル付近だ。
あの変は森が少しだけ薄いため、櫓から丸見えになる。
人数は絞れ…。
「正面距離250メルの2人。アルメッテ様と奥様です。確定です。」
「そうか。」
ふー
緊張を解いて目を揉む。
旅装衣の2人がこちらに向かって手を振ったりピースしてるから間違いない。
領主の帰りを知らせる笛の音が聞こえると、手隙な人が門の前に寄って来るのが見える。
「予定より早く終わっちゃった」
空を見上げると、太陽はまだ真ん中まで届かない。
でも、アルメッテ様が帰って来るまでだったんだから。
今日のお仕事はこれでおしまい。