挿話 ある兵士の邂逅・後
「王国府ん要請ばにあわせて王都にむかっとります。んだども道すがら村さえらいことになっててんどっか助けてもらえねがと思っとたとこで…話つうずる人とこ案内してくれねだか?怪しい者じゃなかとよ。ほれ」
訛りのせいか酷く田舎臭く見えるようになってしまった少年がこちらに見せたものは
国印のついたケースだった。
魔国印のついたケースは差出時の印と開封時の印が鍵のような関係となっている。それはもちろん中身の機密を守るためであるのだが、その印自体に信用があるためある種の身分証明となる。
無論そのケース本来の持ち主から盗む等すれば身分を偽る事も可能だ。
しかし、あくまで簡易的な証明でしかない。今回のように、誰何に対して使う以外にぱっと思いつかないほどだ。
むしろ俺としては先ほどの完全な敬礼のほうがよほど信用できる。
厳しい訓練を受けたか、高等教育を受けているはずだ。
と、それよりも…
「助け?村がえらいこと?」
「獣か魔物かにやられて全員死んどりました。あと、山んなか…」
「っ…待て待て、こっちについて来てくれ」
いきなりそんな事言われても俺では判断できん。
隊長達のところに連れていく事にしよう。今後の方針にも関わってくるだろう。
「…で、山を下ったどすけど、山麓の村が死んどりました」
「なんてこった…」
少年を連れてきたという事で俺も一緒に聞いていた。
彼の名はロカ・アルメッテ。驚いたことにアルリデア山を越えた先のアルメッテという町?に住んでいるという。
正直あの山の先に人の住める土地があるということが信じられない。
あの山というか山脈の向こうは人の力の及ばぬ魔境と聞いている。魔族すら手を焼く凶暴な魔物、古代の生物、ドラゴン等があの山の向こうにわんさといるらしい。
そこに住まう人がいるとは…それも男爵領があるという話も聞いたことが無い。
まあ、俺自身貴族の領地がどこにどんだけあるかなんてほとんど知らないけどな。
にしても、村が一つ消えたとは…。
隊長達も言葉が出ないようだ。
「山狩りばして村あんなした奴見つけたかったんだども…時間も土地勘もなかったで」
「いやいやいや、一人でそんな危険な事しなかったのは正解だよ。それにその仕事は僕達の仕事だ…とにかく知らせてくれた事は感謝する。副長!彼に山の地図を見せて、その…なんだ、発狂者と遭遇したあたりを確認してくれ」
副長が少年を連れて離れた。隊長の言葉からすると村に向かった後山登りか。
隊長達が離れて何かを話している二人を難しい顔で見ている。
「…なあ、今の話どう思う?」
「獣ではなく人間の仕業であると判断しますが。少年が気絶させた錯乱した者とは山賊だったのではないかと…」
「アホ 今の話を信用するかってことだ」
意味が分からない。彼の言葉に信用ならない点があったんだろうか。
ああ、アルメッテとかいう土地の話なら確かに…
「王都からアルリデア山麓まで人間の足でどんだけかかると思ってるんだ」
「は?」
「新年の要請に従ってということは、今から二ヶ月前に受けてってことだろ。要請書持った貴族が王都を出て領地に戻り、応じた者が王都に向かう。片道で約一ヶ月以内にアルリデア山麓は馬でギリギリの範囲だ」
隊長に言われてやっと分かった。
旅の道のりが早すぎるのだ。彼の話では馬に乗った旅行者の3倍くらいの速度で旅をしていることになる。それも徒歩で。
「彼の話ではアルリデア山のさらに向こうのデビルロック付近から来たのだろう?一ヶ月かそこらで。文字通り休みなしで走り続けて来たってのか」
「全て嘘だったんですか」
「さあな。嘘だったとしてそんな嘘をつく意味がわからん。どちらにせよ怪しい事が起きているようだから、川越えはナシだ。東の外周りで山麓に向かう事にする」
彼の言っている事が嘘であった場合は急いで行く必要も無く。
彼の言っている事が本当であった場合は、村はもう…急ぐ理由も無いということだった。
◆
そして俺は三ヶ月後、用心を重ね山麓の村を先行偵察する事となり、村の中央に立てられた墓を見て後者であった事を知る。
少年は何者だったのか。
このアルリデア山の先に何があると言うのか。
俺達は後々知る事となる。
次から次章になります。




