挿話 ある兵士の邂逅・前
月曜から次章だと言ったな。あれは嘘だ。
この一年忙しい日々が続いている。
俺が軍の再編に従い、第二軍の騎兵隊に所属となったのが一年前。
隣のルダ帝国国境に派遣された。
半年ほどルダ帝国と睨み合いを続ける砦勤務となり、夜間に国境を越える悪戯坊主を捕まえる任務についた。
このジルコニア大陸の中で我がフィン王国に並ぶ大国。
30年前の王国進攻の際に指揮官である第一王子を没して撤退。その時の痛手が回復してきたとたん国境に軍を置き始めた。
ルダはずっと軍拡を続けていたのだ。未だ王国と大陸の覇権を諦めていないのだろう。魔族領と接しているのに元気な事である。
その帝国が、三ヶ月ほど前に魔王軍と交戦状態に入ったとの話を聞いた。
いや、実際にはもっと早い段階から交戦はしていたようだが、王国との国境から兵が居なくなったあたりで密かに帝国から休戦の申し入れがあったとか。
帝国軍は我が王国軍と違い魔力に秀でた者の多い軍だ。
魔王軍と戦っても早々負けることはないだろう。それでも片手間に我々の国へちょっかいを出すほど甘い相手でもないようで、帝国との国境線は急に平和になった。
「平和とはほど遠いけどな」
兵士宿舎の食堂で同僚がぼやいていた。
今まさにこの時でさえ帝国は魔族と戦っている。
魔王軍との戦いに国の面子を気にする必要があるのだろうか。帝国と手を組めば殲滅も可能かもしれないというのに。
王都を出る時の町の様子は平和そのものだった。
市民は戦争の事すら知らないのかもしれない。いや、知っていても自分と関係ない事なんだろう。
彼らにとっての戦争とは兵士の仕事でしかないのだ。
今回の巡回は街道をまっすぐ北上しアルリデア山の麓にて折り返し、東へ向かうルートだった。
最近は帝国や神聖王国経由で食い詰めた傭兵崩れが入ってきているとも聞いている。
そのためか守備に定評のある第三軍に臨時編入されたそこそこ大きな部隊となった。
そして王都を出発し、8日目にして問題が発生した。
川にかかる橋が落ちているのだ。
川幅が30メルほどある流れの緩い川なのだが、春先のこの時期は雪解け水で水かさが増し水も冷たい。
部隊は少し後退し部隊長がこれからの話し合いをしている。
たぶん適当な班が王都に戻って架橋隊をこちらによこして、我々は先に東の町をまわって山の麓に行くのだろうななどと愛馬に話しかけていた。
そのとき、ふと何か聞こえた気がした。
「…気のせいか」
「すんませーん」
その声は真横から聞こえた。
驚いて槍を構え、声の主を見る。
顔はフードに覆われて分からないが、小柄な姿と変声前の高い声から子供だと推測できる。
何故かずぶ濡れだった。武器らしいものは持っていないように見えるが雑嚢や水袋を見るに旅装であるようだ。
子供一人の旅人だと?
「と、止まれ!我々は王国第三軍守備隊所属臨時編成第一偵察軽騎兵小隊212年度北部春季巡回調査隊二班である。何者なるかそこで動かず名乗られよ!」
慌しく誰何をする。驚いていたから少々噛んでしまった。
子供は何かぽかんとしていたようだが、静かに荷物を降ろしフードを下ろした。
左の耳だけ隠れるような奇妙な髪型の10歳くらいの少年。
その長い方の髪にも大きな獣の牙の髪飾りをつけ、どこか忘れ
られた因習を守る部族のような姿。
少年は胸の前に腕を当て手を軽く握って姿勢を正した。見惚れ
るほど自然で綺麗な王国式の敬礼だった。
「王国府ん要請ばにあわせて王都にむかっとります」
…そしてその姿からはかなり外れた訛りの強い言葉だった。
ですからごめんなさい、次章も後編後からなんですよ。




