眠れない夜に。
【 まえがき 】
■あとがき含めてポケクリからの再掲[移転]です
■夏に書いたので、こんなお話になりました
2012/10/4
その夜、少女は暑苦しさに眠れなかった。
エアコンをかけているのに、だ。
季節は夏――。
蝉は夜も鳴いている時がある。
「暑い」
掛け布団を剥がし、少女は起き上がる。
隣で眠る両親に気付かれないようにそっと寝室を出て、階下に降りる。
階段を降りるのにも気を遣い、やっと一階へと着いた。
リビングのドアを開けて、冷蔵庫に一直線。
冷えたお茶を飲んで、はたと気付く。
「あ、光ってる!」
少女はカーテンがかかる窓の外に目を遣った。
そこにはぼんやりと光を放つ人型の影がある。
急いでお茶をしまい、少女はゆっくりと窓に近付いた。カーテンを開ければ、縁側に腰を下ろす――光る人間が。
漆黒の髪を靡かせて、月を見上げている。
「あ……、お化け……」
直感でそう思った。
しかし、怖いとは思わない。
鍵を開けて窓を開ける。
カララ、と渇いた音に気付き、漆黒の瞳が少女を見上げる。
「おや、こんな時間にどうしたんだ?」
「お化け……さん、こそ」
少女は光る人間――お化けの隣に座った。
「雫は何歳になった?」
「五歳」
と、声と共にパーを作る。
何故自分の名前を知っているのか、と少女――雫は思ったが、敢えてなにも聞かなかった。
お化けなら、なんでもアリかもしれない、と子供ながら察したのだ。
「お化けさんは何歳?」
「んー、そうだなぁ。うん十年前の姿だからなぁ……、雫よりは上だ」
顎に手を添えて言った。
「ふぅん。お化けさんは暑くないの?」
「暑くはないな」
少女は月を見上げるお化けを見遣る。
「どうして?」
「これは御霊だから。――あ、雫には難しいか」
「うん。よく判んないや」
少女は頭を縦に振り、足をゆっくりとばたつかせる。
「大きくなったな」
「う?」
脈絡もなく呟かれた言葉にお化けを見上げた。
お化けの漆黒の瞳は慈愛に満ち溢れている。
ふわり、と大きな手が頭を撫でた。
「夜更かしをすると、起きれなくなる。早く部屋に戻りなさい」
少女の記憶は、そこまでしかない。
どうやって部屋に戻ったのかという記憶は全くなかった。
アレは夢だったのか――。
しかし、頭を撫でられた感触は夜が明けてもあった。
優しい温もりが。
時が経ち、母のアルバムを見るまでは、それはお化けなのだと信じて疑わなかった。
そこに写る若い頃の祖父の写真を見るまでは。
「お化け――じゃなかったんだ!」
大声を出した娘を五月蝿いと小突き、母はアルバムをしまう。
「お爺ちゃん……だったんだ……」
丁度明日は祖父母の墓参り。
彼女は自室に篭り、便箋に想いを綴った。
墓を磨き、線香を添えて手を合わせる。そうして手紙を添えた。
「読んでくれたら嬉しいよ」
一言放ち、彼女――もとい家族は墓を後にする。
母と父、妹になにを書いたのかと訊ねられたが、彼女は「秘密だよ」とのらりくらりとかわした。
拝啓
お爺ちゃんへ。
夏休み、私は実家に帰って来ました。
あの時のお化けはお爺ちゃんだったんだね。
私、思わずお茶噴きかけたよ。
お爺ちゃんは孫を見ることはなく早くに亡くなったらしいから、孫を見に来たのかな?
あ、私の見解だよ。
違ったらごめんなさい。
会いに来てくれてありがとうございました。
坂下雫より。
敬具
『おやおや、お爺さん、雫からの手紙だよ』
『優しい子に育ったなぁ』
墓の前には老夫婦がいた。
決して人間の目には見えないが。
『私も会いに行けばよかったわぁ』
『コラコラ、じゃんけんに負けたじゃないか。それに、神様は一人だけと言っただろう』
あの時――孫の顔見たさに天国に住まう神様に頼み込んだ。
神は渋々承諾し、祖父母どちらか一人だけだと言った。
じゃんけんに勝った祖父に白羽の矢がたった。
自分が祖父だと名乗らないことを条件に、彼は下界へと降りた。
――これがことの顛末。
眠れない夜に、少女は祖父に出会ったのだった。
《終わり》
【 あとがき 】
昨日の夜、布団の中で考えたお話でした。
本当はSSにしようかと思ったんですが、書き進める内に長くなりまして、最終的に掌編になりました。
夏に突入したので、夏っぽいお話になるように心掛けたんですが、玉砕しました。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
2009/7/14
---追記---
捕捉で書きますが、このときはまだ掌編とSSの違いがよく解ってません
お恥ずかしながら…
とりあえずふたつとも短い話という意味だけれど、ページ数の違いであってるよね?