白色の魔女と金色の人形
超短いよ!
ラック眼力さんのWitch In a Bottleを聴きながら執筆しました。
涙が頬を伝った。
微笑みが浮かぶ。
「ありがとう」
金色を纏った白色の魔女はそう言った。
白色の魔女は泣いていた。
悲しくて泣いていた。
幾度か涙が川をなし海となり、自分を押し流してくれぬものかと思いもしたが、それらはただ静かに彼女の柔らかな肌を滑り落ちるだけだった。
高い塔の上、首輪を付けられ、着たくもない服を着せられ付けたくもない装飾具を纏わされ、まるで人形のように。
「お前は真に美しいな」
感情を持たぬ瞳で見返すのみ。
そうして独りきりになってようやく感情を出す。
とはいえ、喜怒楽など出てくる訳もなく。
哀、ほろりほろりと溢れる悲しい水晶だけが彼女をヒトと定義していた。
いつしか、それも出なくなって。 それはまるで、本当に人形になったかのよう。
幾月が経っただろう。 幾年が経っただろう。
代が移り変わるたびに、彼らは彼女を己の好む色で飾り立て、人形遊びに講じ続けた。 白色の人形を雑多な色で染め上げ続けた。 ある時は紅色、ある時は翆色、それはもう人が思いつくすべての色を彼女は纏った。 纏わされた。 時には寝所の中でさえ。
今の彼女は金色だ。 服も、装飾具も、さらには調度品さえも。 白色の人形は金色に染め上げられていた。 緑色の懐かしい記憶とは裏腹に。
そこでふと、人形は久しぶりに思考をした。 なぜ、緑色を思い出したのだろうと。
とても遠い記憶、閉ざしたはずの心の中の奥深く、鍵を掛けて閉じ込めていたその鮮やかすぎる、色。 悲しくなるからと、もう見たくないと追いやったはずなのに。 なぜまた湧き出てきたのだろう、なぜまた涙を溢させるのだろう。 落ち着いてもう一度押し込めようとするけれど、それは留まる所を知らず湧き水のように、小さいながらもこぽりこぽりと着実に人形の心を満たしていった。
心なんてもう欲しくもないのに、どうしてまだ放っておいてくれないの。 そう思った瞬間、緑色の声がするりと潜り込んできた。
最初の頃は必死で叩き逃げ出そうとしていた、出入口。 いつしか諦め、見る事もなくなったその扉。 くるりと金色をなびかせ振り返ったと同時に、鍵の音を響かせゆっくりと開けられたそれ。
見た事はない。 知らない顔だ。 けれど、人形は知っている。 魔女は、解っている。 その優しい瞳と、照れくさげな笑顔を。 己の名を呼ぶ、甘やかな声を。
冷たく磨き上げられた金色の床に再びこぼれ落ちたのは、今度はそれが知らない味だった。 そうしてそれがその味を確かめている合間に、金色の人形は消え失せた。
良く知っている、森の中の。 何一つ変わっていない木の家に、そうっと一歩、踏み入れる。
「おかえりなさい、白色の魔女。」
緑色の声がそう言った。