ある可哀そうな2人の話
あるところに、母親に虐待されている可哀そうな少女がいました。可哀そうな少女は、自分が世界で1番辛いのだと疑いませんでした。
そんなある日、可哀そうな少女は、ある少年と出会います。彼は両親を物心つく前に亡くし、引き取られた叔父・叔母の家で激しい虐待の末に兄を亡くしている、可哀そうな少年でした。
自分が1番可哀そうで辛いのだと信じている可哀そうな少女は、自分よりも可哀そうで、けれど優しく誠実、聡明な、可哀そうな少年に惹かれて行きました。そして、そんな可哀そうな少年も、可哀そうな少女に惹かれて行きました。
可哀そうな少女と可哀そうな少年は、やがて恋人同士になり、駆け落ちをします。なけなしのお金で安い家を買い、狭い家で2人。お金はなくとも、幸せな生活でした。
しかし、2人も高校生や大学生の年になり、バイトの給料も上がってきます。可哀そうな2人は、もっといい家に引っ越すことにしました。
その同居生活の中で、可哀そうな少女は、「なぜ自分よりも可哀そうな人がいるのか」という思いが募っていました。自分よりも辛く可哀そうな人は絶対にいないと疑ってこなかった愚かで可哀そうな少女は、自分よりも辛く可哀そうな思いをしてきた人がいることを許せなかったのです。
そうして愚かで可哀そうな少女は、可哀そうな少年にDVをしました。自分のほうが偉いのだと、自分のほうが可哀そうなんだと、可哀そうな少年に繰り返し叫びました。
可哀そうな少年は、優しい性格でした。自分が愚かで可哀そうな少女を追い詰めてしまったのだと自分を追い込みました。けれど、愛する愚かで可哀そうな少女をひとりにしたくもなく、さらに違う人たちに愚かで可哀そうな少女の怒りを向けさせたくもありませんでした。
そして愚かで可哀そうな少年は、眠っている愚かで可哀そうな少女を殺しました。愚かで可哀そうな少女にとっては、苦しみも痛みもない、安らかな死でした。
さらに、愚かで可哀そうな少年は、愚かで可哀そうな少女の横に寝そべり、毒薬を飲みました。そして2人は、共に眠りながら死にました。
これは、泣ける悲劇の物語でも、笑える喜劇の物語でもありません。
ただ愚かで可哀そうな少女と愚かで可哀そうな少年が出会ってしまった、それだけの話なのです。




