私は仕事を思い出す
ガツン、と乾いた音がして、私は意識を取り戻す。
身体は地面と水平だ。倒れている。どうして?
キーンと耳鳴り。視界が揺れる。
何も思い出せない。だがまずい状況なのは分かる。
もう一度乾いた音がしたからだ。
音の正体は石だった。
石の雨。というほどには降り注いではいない。
だが決壊寸前の曇天がぽたぽたと垂らす雫のように、ガツン、ガツン、と空から石は落ちてくる。
腕にチクリと新しい痛み。
視線を向ける。そこにはスマートウォッチと呼ぶには無骨すぎる大型の端末がつけられていた。
端末の表示にぎょっとする。
「緊急対応。薬剤パターンBを注入」
薬剤?私は病人なのか?
だがパターンBとは何だ。どう考えてもドラッグストアの棚に置いてある商品名じゃない。
思い出せ、いったい自分は何者だ。どうしてこんな装置をつけている。
しかしパターンBは私の個人的なエピソード記憶よりも優先すべきものを思い出させた。
名前なんてどうでもいい。
今思い出すべきは仕事だ。私は今職場にいて大切な仕事をしている。
私の仕事は価値あるものを守ることだ。
人を助け、人を守り、秩序を維持する。
危険だが意義があり必要なことだ。何より報酬がいい。
そうだ、報酬だ。
私は報酬のためにこの仕事をしている。
倒れていては報酬は支払われない。立ち上がれ。立ち上がるんだ。
立ち上がれた。バイザーを再起動する。
隣にいた同僚がちらりとこちらを見て必要な一言を投げかける。
「やれるな?」
私はやれますと答える。
仕事内容は難しいものではない。
バイザーで対象を識別して色ごとに対応する。
重要なのは青だ。青を通す。そしてそれ以外を通さない。
それが出来なければ私も家族も青ではなくなる。報酬は支払われない。
怒号。悲鳴。職場は大混乱の様相を呈している。
まさに緊急事態。いったいどこから情報が漏れたんだ。
おそらくはSNSだろう。いつだって余計な一言を書き込んで余計な問題を起こすやつが現れるんだ。
私はそんな時のためにこの仕事に雇われた。
価値あるものを守るために。必要なことをするために。
また石の雨が降り注ぐ。
私たちは身体を揺らしてそれを避けた。
殺到する赤の群れ。私はそこから僅かな青を選り分け通していく。
これが私の仕事だ。私は完全に自分の仕事を思い出した。
忘れたままの方が良かったのに。
だが思い出してしまった。それならもうやり切るだけだ。
私は声を張り上げて誘導する。
「このシェルターはVIP専用です。一般の方はご利用出来ません」




