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「見える化と教え2」

「それから課長向けに「水質の見える化」の説明資料を作っていたのですが、いつのまにか話がだんだん大きくなり、本社の人間や工場長が関わる一大プロジェクトのようになっていったんです。」



山口総一は苦笑いして言う。


「あの頃は自分がそんな大役には相応しくない。自分は当たり前のことを普通にやっている。だからなんでこんなに話が大きくなったか、さっぱり理解できなかったんですね。今ならなんとなく理解できるのですが。当時は人間関係の調整や立ち回り方、やった仕事に対する影響力をまるで理解できていなかったんですよ。」


私は説明資料を作っていた。説明するからには丁寧に、漏れ抜けがなくかつ正しく理解してもらえるようにしっかり作り込まなければ。そのためにもテキストの理論をどう解釈して現場に適用したか、その思考過程を無駄なくスムーズに理解してもらえるように意識しないとな。


「そういえば、大野さんが「資料できたら見せてくれ」と言っていたな。」


ある程度作り込めたし、大野さんに見てもらうか。


完成した資料を大野さんは読み、深くため息を吐き、その後、こう言った。


「山口さん、ちょっとこれだと話通らないかもよ。」


正直、これ以上ないくらいわかりやすく作ったつもりなのだが。そう言われ、ショックでビクッと体が浮いてしまった。


「そうですか。正直、これ以上わかりやすくするのは私の力では無理ですよ。以前仰っていた「小学生」までは行かなくても中学生レベルには落としましたよ。これ以上は誤解も生まれてしまうし、どうしても水質の計算等の都合上、最低でも中学レベルの方程式の理解が必要なのですが。」


大野さんは少し間をおいて、


「そうだな。説明する際は例え話がいい。君のは「微生物10匹が水の汚れを量としては2食分食べるイメージしてください」と書いているが、もっとわかりやすくしないとうちの上には伝わらないかな。」


俺も呆れてはいるけど、と言い、


「極端に言うと、「10個ボールが入る箱に2個ボールを入れる、それが排水処理のルールです。」くらいまでは削らないといけないかな。」


「でも、それだと応用効かないですよ。」


さすがにそれではこの資料や水質の見える化の意味が無い。私は属人化している排水処理設備を、誰が管理しても正しく運用するためにやっているのだから。


「まあ言ってることはもっともなんだがな。」


大野さんはまた間を作り、何を言おうか考えているようだ。


「それなら説明でカバーするしかない。俺もフォローするから次の会議までに資料の説明の練習をしよう。」


「わ、わかりました。」


その場で臨機応変に説明するのは昔から苦手だ。大丈夫だろうか。少し自信ないが、大野さんもフォローすると言ってくれているし、ま、まあ、やれるだけやってみよう。






「もうまさにあいつらしい、って感じだったな。」


大野宗治は山口のことを思い出し、苦笑いした。


「あいつは自分の才能に気づいていない。周囲の理解を得るためにその才能を抑えるんじゃなくて、むしろもっと尖らせていたよ。」


「ちょっと気の毒になるレベルでな。結果として、きっとすごくいい仕事をしたのにそれを説明できず、あいつを潰してしまうだろうな、ってのが見えてしまってな。それだけは避けたかったから「資料見せろ」ってあいつに言ったんだよ。」


大野は昔のことを思い出しているのか、一瞬遠くを見るように目を細めた。


「ただ、アドバイス程度で終えようと思ったんだが、読んでみるとあまりにも内容が良くてな。説明の練習とフォローまで請け負っちまった。我ながら「いつもの俺らしくねえな」と思ったよ。」


今になればよくわかるんだがな、ぼそっと言い、


「まあ、見える化の話は通らないだろうとは思ったが、これもあいつにとってもいい経験になるだろうから、最後まで付き合うことにしたんだよな。」

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