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ずっと一緒に

作者: 樫の木人形

「好きです!」


 嗚呼、嗚呼、何故だろう。

何故、世界はこうも上手く行かないのだろう。

 せっかく、諦められたのに。

 せっかく、涙も枯れたのに。

 せっかく、忘れた筈だったのに。

 頭の中は真っ白で、何を言えばいいのかなんて分からず仕舞い。

 咄嗟に口から出たのは。

「……え、いや、あの…もう付き合ってる人がいるんだ、ごめんね」

 否定だった。



 最初に君を見つけたのは中学校の始業式。

 桜の舞い散る中、儚げな君を見て一目惚れ。

『絶対お友達になってやる!』

 なんて意気込みながらクラスに飛び込んで、結局は君に驚かされた。

 君は何時の間にかボクの後ろに座っていて、青臭い台詞で笑いかけてきやがって。

小細工なしのど真ん中に「友達になろう」って、ただ一言。

まったく、君は何処までボクを魅了すれば気が済むんだろうね?


ずっと、ずっと、一緒にいたい。

でも、この関係は壊したくない。

結局、答えなんて出るわけがなく。

あっと言う間に中学生なんて終わってしまい。

気がつけば高校生。


嗚呼、嗚呼、ボクはまるで人形(マリオネット)

下手な奏者が操る人形(マリオネット)

君を独占したいボク。

君に嫌われたくないボク。

イトが絡まって、いつも動けない。

ボクより頭の良い君に、何とか追いついて一緒の高校へ入っては見たものの。

神様はちょっと悪戯好きで、クラスは中学生の時と違ってバラバラ。

出来るだけ君に会いたくて、暇を見つけては顔をだしたよ?

君に頼って貰えるように、君よりも勉強もしたし。

何処までも友情は続いていった。


そう、誰よりも仲の良い“親友”


それ以上でもそれ以下でもなく。

ボクは君の『おともだち』。

「ずっと一緒だよ!」

 そんな二人の約束を交わしながら。

何時も、何時でも君を目で追いかけて。

君が誰か、素敵な誰かに奪われてしまうのをハラハラしながら。

そんな今がいやで。でも、告白する勇気なんてボクにはなくて。

けど、何時か、何時か……。


そんな心の隙間にアイツはするりと入りこんだ。

「ずっと君だけを見てた」

 馬鹿みたいに真剣な顔をして。

「本当に好きなんだ」

 ボクが言いたかった台詞をボクに向かって言いやがった。


 ああ、神様。

 これはどういうことなのでしょうか?

 ボクには、好きで、好きで、忘れられない人が居ます。

 これはどうせ叶わない願いなんて、捨ててしまえと言う事でしょうか?

「忘れられない相手がいるよ?」

 嘲笑うように、意地を張って、吐き捨ててやった、なのに……。

「君が見てくれるなら、それでも良い」

 ボクは不覚にも、泣いてしまった。


 でも、だからって付き合った訳じゃない。

 “おともだち”から始めましょう。

 こんな都合の良い台詞。

 苦しかった気持ちを、全部忘れるかのようにアイツと遊んで。

 それでも“おともだち”なんていう都合の良い関係に文句も言わないアイツ。

 推薦で大学も決まる頃には手ぐらい繋いで、デートの真似事ぐらいはするように。

 少し、胸の奥がチリチリと痛いけど。

 卒業式が終わったら、ボクから告白し直してやる!

 なんて、ちょっと意気込んでみちゃったり。


 そして、季節は移り。

 別れの(はな)は咲く。


アイツに告白を済ませ、親友のために屋上の階段を上る。

告白は分かってたけど、大成功。

自然と笑みなんか零れちゃいそうで、それでも少し悲しくて。

雲ひとつ無い晴天だけど「雨かな」、なんて窓をのぞいてみたり。

ふと桜の下で携帯を触ってみれば、君からのメールが一通。



屋上の扉を開く。

扉と同時に君も口を開いた。

「やあ、まどろっこしいのは嫌いだから完結に言うよ」

君はフェンスの上に腰をかけて、今まで見たことが無い真剣な目。


そして物語は冒頭へ。


「好きです!」

「……え、いや、あの…もう付き合ってる人がいるんだ、ごめんね」



 咄嗟に出た否定。

 内心は有り得ないほどの驚愕。

 だって、ボクが、君を、拒絶するなんて。

 分からない、理解できない。

 唯一つ、思ったことは。

何時の間にかアイツのことがこんなにも気に入っていたなんて。


 それを聞いた君は

「知ってる」

君は断られるのが当たり前みたいな顔をして。

今にも泣きそうになりながら。

無理矢理に微笑みを作った。


「でも、でもね。

 ボクの一番は君だけだから。

 何時までも見ているよ。

 じゃあね、バイバイ」


 君はフェンスの上、ゆっくりと後ろに傾きだす。

 ここは屋上、後ろには鳥が羽ばたきそうな綺麗な夕暮れ。

このままなら舗装された凶器が容赦なく地獄に落とすだろう。


そこからは無意識だった。

今まで見たことが無いほど綺麗な微笑みを浮かべて、夕暮れに消えてゆく君。

何も考えず、全力で君に手を伸ばす。

世界は一瞬色を失い時間が止まった、そんな気がした。


「仕方ないなぁ」


君の顔が空を向く頃。

ようやく君の顔に手が届く。

勢いあまって飛び出したから、後は一緒に落ちるだけ。


君はさっきまでの一番綺麗だった笑顔を歪め、『何で?』なんて驚いている。


何、そんなに驚いてるのさ。

落ちる時も二人一緒。

たぶん、声には出なかったけど。

君はきっとわかってくれたと思う。

『ずっと一緒』


真っ逆さまに地球に落下しながら、君にボクは微笑み返す。

きっと、すっごく痛いんだろうな。




でも、これはどっちも好きになったボクへの罰。


どっちも好きだよ、じゃあね。


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