あなたはどっちの味方なの?
すべての話を合わせてようやく1万字超えたんですよ。
2人は順調に森を進んでいった。
道中何体も魔物が出てきたが、すべてセイスが片手間に殺していった。
「なんであなたそんなに強いの?」
「おm…お嬢様も強いんじゃないんですかね?」
「何今更口調変えてるのよ。私は普通の騎士より強かったけど、魔物が怖かったのよ」
セイスはアストリアの「怖かった」という言葉に笑った。
「笑わないでよ」
「ワラッテナイヨ」
「嘘よ!棒読みすぎるもの!」
アストリアはこの時間が楽しかった。
アストリアの周りには年齢が近い子供がいたが、全員がアストリアより階級が下だったので話せるものがいなかったのだ。
セイスも久しぶりに人との楽しい会話をしたことで心が落ち着いていた。
そんなこんなで3時間ほど歩き、森の終わりが見えてきていた。
森を出ると30Kmほど先に石の城壁で囲まれた町が見えた。
「顔を隠すもの持ってない?」
「そんなものないわ!」
現在、セイスは犯罪者だ。
顔がばれたらつかまってしまう。
どうしようかと悩んでいるとアストリアが、
「私もあなたにつかまって欲しくないし、もう少し進んで夜になるまで待ちましょうか」
「早く返したいんだけど…」
「私はもうちょっとあなたと話してたいわ!」
子供の足では30Kmも歩くのは大変だがそこはセイスだ。
セイスは騎士から逃げていた少年だ30Kmなんて1時間走ればつく。
10Kmほどを2時間かけて進んでちょうどいい木を見つけたため、二人はその木に登り、あたりが暗くなるのを待った。
お昼を少し過ぎたころ、街の門から10人ほどの騎士たちが出てきた。
先頭にはセイスも見たことがある騎士━━━ジャミルが馬に乗って先導していた。
セイスとアストリアには距離があり、騎士の顔までは見えなかったが、出てきたことは見えていた。
セイスはガイム伯爵の騎士かもしれないと思い、身構えたがアストリアはそんなセイスを落ち着かせていた。
アストリアには見えていたのだ
その騎士たちがケルト伯爵家を象徴する家紋が施された鎧が見えていたからだ。
騎士たちが10Kmほど馬を走らせると、体つきでアストリアはジャミルのことがわかった。
ジャミルが生きていることにアストリアは驚いていたが、森に入る前セイスに事実を確認したいと言っていたことを思い出し、木から飛び降りジャミルのもとへ向かった。
「え!?ちょ!」
セイスは急に飛び降りたことに驚いたのではない。
アストリアは飛び降りる時にセイスの腕をつかんでいたのだ。
突然のことでセイスは受け身がとれず膝を地面に打ち付けた。
なんて少女だ。
セイスはそう思いながらも、痛みに耐えながらアストリアに引っ張られるまま先に進む。
ジャミルがこちらに向かって走るアストリアとセイスに気付いた。
ジャミルはアストリアがいることにも驚いたが、それ以上にセイスが一緒にいることに驚いた。
アストリアたちとジャミルが合流した。
周りの騎士たちはガイム伯爵の騎士に言われた特徴を持つ少年を警戒している。
「セ、セイスがなぜここに…?」
ジャミルが最初に言葉にした。
その言葉にアストリアは頬を膨らませた。
「私を心配する言葉が先じゃないの!?」
「あっ。お嬢様無事です…ね」
アストリアを確認し無事ということに安堵しながら、再び問う。
「セ、セイスはなぜここに?いや、君の村に火を放ったのはセイス、お前か?」
「火を放ったのは僕じゃありません。ガイム伯爵の騎士です。ここにいる理由としてはあs…お嬢様を送るために来ました。もとより森に戻る予定でした。」
「そうか…ガイム伯爵か…」
アストリアはセイスの言葉遣いにジト目を送る。
ジャミルはセイスの瞳に復讐の炎が見えた。
セイスを止めなければならない、そんなことも考えながら初めてセイスに会った時を思い出す。
セイスは来年の春に騎士になると言っていた。
「セイス、前言っていたように騎士にならないか?いや、まだ春じゃないんだが行くところがないならうちに来てくれないか?」
「僕は犯罪者ですよ?それでもいいんですか?」
「冤罪だろう?私にはセイスがそんなことをするようには思えんのでな」
「そう言ってくれるのはありがたいのですが、僕は森に戻ろうと思います」
セイスがそう言い、踵を返し森に戻ろうと歩き出した。
だが歩みが止まった、止められたのだ。
誰に?もちろんアストリアに。
「手合わせしてくれるって言ったじゃない」
「言ってない…です」
その言葉を聞いてアストリアは小声で、
「森の中での言葉遣いをジャミルに言うわよ」
「既にガイムから逃げてるので変わらないのでは?」
アストリアは言葉に詰まった。
友達のような関係に憧れていたアストリアはセイスを逃がしたくなかった。
アストリアはジャミルたちに命令した。
「みんな!セイスを捕獲して!」
「はっ!…は?」
「「「「「はっ」」」」」
30秒後セイスは縄でぐるぐる巻きにされた。
アストリアの考えを知らないセイスはこのまま裁判にかけられるのだろうかと考えた。
セイスは思考停止しアストリアに向かって言った。
「あなたはどっちの味方なの?」
「セイスよ!」
「???????」
セイスはアストリアの言っていることが理解できなかった。
自分の味方ならなぜ自分を捕まえるのか。
申し訳ないという目で見るジャミルに抱えられケルト伯爵の屋敷に連れていかれた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
セイスは伯爵の目の前で、縛られ倒れていた。
横には片膝をつき、こうべを垂れるジャミルと、自信満々に胸をはるアストリアがいた。
セイスは状況が理解できなかった。
セイスには見えないが伯爵も状況が理解できなかった。
突然アストリアが帰ってきたと思ったら、ジャミルとともに執務室まで一直線で来て、放火犯と言われる少年を抱えているのだ。
伯爵は1つだけ理解できた。
娘が男を連れて帰ってきた━━━これはそういうことなのだろうか。
伯爵━━━アインはジャミルに問うた。
「こ、この少年は…?」
「お嬢様が連れてきました」
その言葉によりアインは勘違いをする。
娘にも聞いてみる。
「何のために連れ帰ってきたのだ…?」
「そばに置くためです!」
その言葉はアインの勘違いを加速させた。
最後に目の前で縛られてる少年に、
「しょ、少年よ。お前は娘の何なのだ…?」
「ちょっと答えられません」
森の中で話をしただけなのだ。
アストリアとの関係は?ときかれ何も答えることができなかった。
その言葉でアインは確信する。
親に隠す関係?それはもう一つしかないだろう。
「ジャミル…剣を貸せ…」
「はっ!…は?」
「お父様!?」
「娘に近寄る害虫は駆除せねば!」
ジャミルにアインは羽交い絞めされながら、セイスを殺そうする。
アストリアがセイスとアインの間に立ちふさがった。
アインが落ち着いたのは、妻であるリアが止めに入ってきたときだった。
「だーかーらー、セイスにそばにいてほしいの!」
「アリア、その言い方だとまたお父様が勘違いするわよ」
「奥様の言う通りですぞ、お嬢様」
「お…僕の意見は…?」
「聞かないわ!お父様!セイスを騎士にしてくれないかしら?」
「あ、あぁ。いいだろう…」
お父様は娘の言葉の圧に負けた。
なんと情けない…
セイスは騎士となった、半ば強制的に。
まずセイスはちょっと不機嫌そうに屋敷にいたものに挨拶をして回った。
誰も突っかかってくるものはいなかった。
それはアストリアが後ろでニコニコしながらいたからだ。
挨拶が終わりジャミルに部屋が案内される。
久しぶりのベッドで、セイスは生唾を飲んだ。
今日は疲れているだろうとジャミルが気遣ってくれた。
服を脱ぎ、もらった服に着替える。
そしてそのままベッドにダイブし寝ようとしたとき扉がノックされた。
誰だろうと、疑いながら扉を開けた。
そこにはアインがいた。
「失礼する。礼を言おうと思ってな」
「いえいえそんな。僕は犯罪者ですよ?」
「冤罪だろう?ジャミルとアリアから聞いたさ。……娘を連れ帰ってくれてありがとう」
アインが頭を下げた。
その光景にセイスは唖然とする。
アインが、伯爵が、犯罪者に頭を下げたのだ、誰だって啞然とする。
「だが…」
「?」
「娘と交際するのは許さんぞぉぉぉぉ!」
「!?違いますよ!?そんな関係じゃありませんから!?」
「本当か…?」
「神に誓って違います」
「その言葉を信じるとしよう。それではわたしはこれで」
「それでは」
セイスはアインが扉から出るまで頭を下げていた。
アインが去りようやく眠れると思っていた時、また来客が来た。
今度は誰だ、と思いながらも扉に近づくと先に扉が開いた。
そこにいたのはアストリアだった。
セイスはアストリアを恨みがましい目で見ながら口を開いた。
「なぜここに…」
「決まってるでしょ!話をしに来たのよ!」
「そうですか。それではおかえりください」
「なんでよ!?」
「また伯爵様に命を狙われるのはごめんだからですよ」
それを言うとアストリアは黙った。
少し考え口を開く。
「命令するわ!二人きりの時は森の中にいた時の口調にしなさい!あと、明日私と試合しなさい!」
「…………はい?」
「もう一度言えばいいかしら?明日私と試合するのと、口調を元に戻しなさい」
セイスは深ーーーいため息をついた。
命令に従わなければ何をされるかわからない。
放火犯として捕まえられるかも、そう思い仕方がなーーーーく命令を受けた。
「……わかった」
「わかってくれたならよかったわ!それじゃまた明日!」
「…それじゃ」
アストリアが部屋を出ていき、セイスは再び深い溜息を吐いた。
そしてベッドに倒れこむように体を預けた。
意識を手放し沼に沈めていった。
読んでくださりありがとうございます。