私、白馬の王子様と結婚したいですわ!
——この世には、どんな男も落とせない女がいる。
それは、性格が悪いからでも、身分が低いからでもない。
むしろ、その逆。
彼女は、完璧だった。
美しい、聡明、気品に溢れ、誰もが見惚れる微笑みを持つ。
その名は、セレスティーナ王女。
彼女はあまりにも完璧すぎて、
王国中の貴族たちは、こぞって彼女に求婚した。
「王女様、どうか私と——」
「結婚はいたしませんわ。」
「では、せめてお近づきに——」
「お断りですわ。」
「王女様の美しさに魅了され——」
「それは嬉しいですわ。でも、結婚は無理ですわ!」
——そして、誰一人として、彼女の心を射止めることはできなかった。
それもそのはず。
彼女が求める相手は、王国のどこにもいなかったのだから。
ある日、ついに王国の貴族たちは疑問を抱いた。
「なぜ王女は誰の求婚も受けないのだ?」
「美貌も、家柄も、王国の未来もあるというのに……!」
「もしかして、理想の相手がいるのでは?」
——そして、ついに、ある貴族令嬢が、恐る恐る尋ねた。
「王女様の理想の結婚相手って、どんな方なのでしょう?」
その瞬間、王国の貴族たちは、一斉に耳をそばだてた。
ついに、あの高嶺の花の王女が理想の結婚相手について語る——!
セレスティーナはうっとりとした表情で、夢見るように呟いた。
「私、白馬の王子様と結婚したいですわ!」
——王国が揺れた。
「なんと夢見がちな……」
「いやいや、白馬の王子様なんて…絵本の話ですぞ?」
「おとぎ話と現実は違うのでは?」
そんな声もあったが、彼女の美しさと求婚者の多さを思えば、「まぁ、理想が高すぎるのも仕方がない」と、妙に納得する人々もいた。
「なるほど……王女ほどの方ならば、『白馬の王子様』が現れるまで妥協する必要はないということか……」
「理想が高すぎるのでは? と思ったが、よくよく考えれば彼女ならば当然か……!」
「我々は考えが浅かったのかもしれない……!」
貴族たちは勝手に納得し、その話は一気に国中に広まった。
——ある夜。
王宮では、大臣たちが緊急会議を開いていた。
「王女様が……結婚を望んでおられる!」
「しかも、『白馬の王子様』が理想だと……!」
大臣たちは騒然とした。
「……しかし、どうすればいいのだ?」
「とりあえず、『白馬の王子様』を用意すればいいのでは?」
「用意……とは?」
「簡単なことです。貴族たちの令息を白馬に乗せれば、王女の理想の『白馬の王子様』になりましょうぞ!」
「まさに天才的発想……!」
「しかも、王女の理想の相手を探すという名目で、自分の息子を選ばせることも可能……」
この言葉に、大臣の一人——宰相リカルドは不敵に微笑んだ。
(これを機に、我が息子を王女の婿にする……!)
「すぐに各貴族に通達を!」
こうして、翌朝には「白馬に乗る理想の王子様を集める会」が開催されることとなった。
——翌日。
「——王女様、少しお時間をいただけますでしょうか?」
セレスティーナは書類に目を通しながら、「何でしょう?」と微笑んだ。
「王女様、ご存知の通り、王国の未来のために、王女様にはご結婚していただくことが必要です。有力な貴族の令息と婚姻を結ぶことで、この国の貴族はより強固に結束を固めるのです」
「ええ、知っていますわ。」
「では——」
「……でも、私は結婚できませんの。」
リカルドは、王女の静かな口調に眉をひそめた。
「結婚できない、とは?」
「ふふ、言葉通りの意味ですわ。それに、王位は兄が継ぐので、問題ないはずですわ。」
セレスティーナは微笑み、ペンを置いた。
だが、その微笑みにはどこか寂しげな影があった。
「私は……普通の男性とは結婚できませんの。」
(……なるほど。理想が高すぎるゆえに、結婚は諦めているのか。)
リカルドは静かに頷いた。
(確かに、王女ほどの美貌と気品を持つ者が、凡庸な男で満足するはずがない。)
「ですが、王女様!」
リカルドは熱心に身を乗り出した。
「どのような理想をお持ちでも、私はそれを叶えてみせます!」
「え?」
「たとえどんな趣味嗜好でも、どんなに特異な理想でも、私は王女のために最高の相手を探し出します!」
セレスティーナは目を瞬かせた。
(……この人、本気かしら?)
「普通の男では、王女様のお心を満たせない。ならば、理想を具現化すればよいのです!」
「理想を……?」
「王女様のご結婚は、王国の未来を左右する重要な事案! そのためには、たとえどんな条件であろうと、相応しいお相手をご用意いたします!」
セレスティーナは軽く困ったように眉を寄せた。
(……どうしよう、熱意はわかるのだけども……)
「ですから、王女様——」
リカルドは誇らしげに胸を張った。
「王女様が理想とおっしゃった、『白馬の王子様』をご用意いたしました!」
「……えっ!!」
セレスティーナの表情が一変した。
「白馬の王子様を……?!」
「はい! 王女様が『白馬の王子様と結婚したい』とおっしゃったと聞き、すぐに手を尽くしました!」
リカルドは自信満々に頷く。
セレスティーナは、期待に胸を膨らませた。
(まさか、こんなにも早く……! まさか、本当に私の理想の王子様が!?)
リカルドは内心、勝ち誇っていた。
(よし、これで王女は結婚を決意される……!)
「……で、ですが……」
セレスティーナは少し戸惑ったように、頬に手を添えた。
「本当に、私の理想通りなのでしょうか?」
「もちろんです!」
リカルドは力強く断言した。
「王女様の望まれた『白馬の王子様』——まさにその条件を満たす者たちを集めました!」
「……!!」
セレスティーナの瞳が輝いた。
(白馬の王子様が集まる? それは、つまり……)
リカルドは微笑みながら、穏やかに手を差し伸べる。
「王女様、どうか、彼らをご覧になってください。」
「……!」
セレスティーナは、一瞬の逡巡の後、ゆっくりと立ち上がった。
(まさか……こんなに早く、私の運命が動き出すなんて……!)
「わかりましたわ!」
そして、宰相リカルドは王女を広場へと案内した。
王宮では、王女のために、各貴族の美男子たちが白馬に乗り、広場に集められた。
ずらりと並ぶ、白馬に乗った貴族の令息たち。
「理想の王子様」を作るための、大臣たちの涙ぐましい努力の結晶である。
王国中でもっとも家柄の良い者たちが、もっとも美しい馬にまたがり、そしてもっとも誇り高き態度をとっていた。
それはまさに、絵本に描かれる「白馬の王子様」そのもの。
セレスティーナは目を輝かせた。
(すごい……!まるで、おとぎ話みたいですわ!)
彼女の期待は、最高潮に達していた——。
貴族たちは誇らしげに並び、宰相はひとりずつ紹介していく。
「こちらは公爵家のご子息、レオナルド様。剣の達人であり、学問にも秀でた才人でございます。」
「ほう……?」
「こちらは侯爵家のリチャード様。詩人としても名高く、その美貌は女性たちを虜にしております。」
「……素敵ですわね」
「そして、こちらが——」
宰相の紹介が続くが、王女は目を輝かせつつも、どこか心ここに在らずという感じで、話半分に聞いていた。
——そして、最後。
宰相が堂々と声を張る。
「最後にご紹介いたしますのは、私の息子でございます!」
貴族たちは息を呑んだ。
彼の名はアルベルト。
絶世の美男子であり、王国一の頭脳を持ち、家柄も申し分ない。
王国が誇る、まさに「白馬の王子様」そのもの——
王女は彼を見つめ、さらに目を輝かせた。
「……!」
他の令息たちは落胆し、大臣は満足げに微笑む。
(やはり、アルベルト様こそ王女の理想の相手……!)
彼が最後に紹介されたことで、他の貴族たちは悟った。
(……やはり、アルベルトか)
(当然だな。あれほどの美貌、知性、家柄……まさに王女にふさわしい)
(我々では敵わない)
静かに、広場の空気が変わる。
もはや、王女が誰を選ぶのかは明らかだった。
王女はアルベルトを見つめ、さらに目を輝かせた。
「……!」
王女は、ゆっくりと歩き出した。
白馬にまたがるアルベルトの元へ——
美しい風が吹き抜ける。
王女の金の髪がなびき、彼女のドレスの裾がふわりと舞う。
その光景は、まるで神話の中の一幕のようだった。
彼女の一歩一歩に、誰もが息を呑む。
アルベルトは微笑んだ。
(……やはり、私が選ばれるのか)
(当然だな。私は完璧な白馬の王子様なのだから)
広場を埋め尽くす貴族たちは、神聖な瞬間に立ち会うかのような静寂に包まれた。
「ついに王女が、ふさわしい未来の伴侶を選ばれる……!」
誰もが、そう確信していた。
——王女は、彼のそばに立ち、うっとりと見つめる。
貴族たちは祈るような気持ちで、彼女の次の行動を見守った。
そして、彼女の白く繊細な指先が、そっと伸ばされ——
そのまま、アルベルトの跨る馬のたてがみに触れた。
「……?」
風が止んだ。
世界が、一瞬だけ静止したような気がした。
王女の指が、ゆっくりとたてがみをなぞる。
それはまるで、崇高な女神が神獣に祝福を与えるかのような仕草だった。
彼女の表情は、陶酔しきっている。
「決めましたわ。」
甘く、優しく、それでいて確信に満ちた声が響く。
「私、この白馬と結婚します!」
確かに、白馬に「乗った」王子様とは言ってないけども…
オチが下らなくてすみません!笑
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(下らねぇwww時間返せwwwみたいな感想も受け付けてます。笑)