失われたドワーフの酒、火酒。
白ワインの作り方を説明したら凄まじい落ち込み方をしたドワーフの女将さん、その両肩をガックリと落とした姿が可哀想過ぎたので私は別のアプローチをする事にした。
「女将さん、エールやワインはあるけどもっとキツいお酒はないの?よく聞く火酒とか」
「アンタなんでその酒の名を知ってる、まさか持ってるのかい?」
いや火酒なんて飲んだことも無いし実在しないだろ。
「いいえ、飲んだ事も見た事すらないわ、以前読んだ本に書いてあったから思い出しただけ。」
「へぇ、そりゃ随分古い書物なんだろうね、いいかい、火酒ってのはその昔エルダードワーフにしか作れなかった酒なんだよ、その製法は勿論、原材料すら忘れられた幻の酒さ、今じゃ作り話だろうなんて言われてるのさ」
幻の酒ねぇ、火酒って言うくらいだから火が着くとかなんだろうね、前世のスピリタスみたいなほぼアルコールの強い酒なのかな。
「じゃあ今から出すお酒を一口飲んでみてよ、ちなみに今出すお酒はまだ途中の段階だから味は保証しないけどね。」
女将は少しだけ緊張と期待の顔になった。
「これなんだけど、一気には飲まないで、味を確認するだけだよ?」
私は女将の脇にあった空のグラスに液体を注ぐ、女将はグラス鼻を近付け香りを嗅ぐ、一瞬驚いた表情になりながらもそれを口に含んだ。
「カハッ!なんだいこりゃ暴力の塊みたいな酒だね、強い酒精の香りだと思ってたけど口に入れた瞬間、全力で殴りかかってきやがった!なんだいこれは。」
うん、良い反応。
「次にこれを飲んでみて?」
空になったグラスに少し琥珀色した液体を注いだ、またも女将は香りを嗅いで確認する、先程と変わりやっと探し物が見つかった時のような安堵の表情を浮かべ反省したのかチビりと口に含んだ。
「ふぁん……」
顔に似合わない色っペー声を出した女将は、琥珀色の酒を見つめる。
「これは凄く美味い酒だ、味、香り、強さ、どれをとっても今まで飲んだ酒の中で1番だ、こんな酒がこの世にあったなんて……」
「良い反応ね、でもそのお酒さっきの荒っぽい酒と同じものよ?」
「バカ言ってんじゃないよ、そんなはずあるかい、私がアンタより酒を知らないのは認めるけどバカにされたら面白くないよ!」
「ホントなんだってば、今から種明かしをするね、最初に飲んだのは新酒、次に飲んだのは1年寝かせた物、そしてこれは3年物。」
先程よりも色が濃い液体をグラスに注いで女将の反応を見た。
「参りました……私は今死んでもいい、これは神の酒だ、さっき飲んだものより香りが芳醇で味はまろやか、腹の中じゃ爆発したように熱くなって、忘れるな私の存在をって言いながら消えていく、そんな感じの酒、この酒が神しか作れないなら私は神にも喧嘩を売る。」
目がマジだ、私はひとつの図面を取り出して女将に見せた。
「女将さん、昨日の友人に聞いたんだけどドワーフの男は職人で女が酒を作る、これであってる?」
「あぁ、お互いの領分には口出し無用ってのがつくけどね。」
「これはこのお酒を作る装置の設計図、ただし重厚でしっかりした造りをしなければこの酒は出来ない、私は男ドワーフと女ドワーフが力を合わせればこのお酒が作れると思ってる」
女将は私の手にある設計図をみてワナワナし始めた。
「でも、原材料がどう考えてもわからない、野郎共がそれを見て完璧な装置を作ったって、私らがそれを作れなきゃ一生笑いものじゃないか。」
「原材料?さっき飲んでたじゃない。」
「はい?」
「さっき1番最初に飲んだでしょ?」
「エールでございますでしょうか?」
口調がおかしいぞ女将、私は女将の言葉に深く頷いて笑顔を見せた。
「製法も裏側に書いてある、ちなみに同じ方法でワインを原材料にするとまた別のお酒が作れるよ、今回は時間が無くて3年物までしか持って来れなかったけど、6年、10年、12年、20年の存在を私は知っている、さらにそれをブレンドした素晴らしいお酒もね、女将さん、この世界でお酒の原材料になるのは麦とぶどうだけじゃないんだよ、様々な食材に可能性があるんだよ。」
ちょっと自分で何言ってんのかわからなくなってきたけど要するに視野を広げろって事。
「えっ、ちょっと女将さん?なんで?」
よく見たら女将の目からボロボロと涙が落ちていた、私の言葉に我を取り戻した彼女はガッと手を握り
「アンタの名前を聞いてなかったね、いつまでもアンタなんて呼び方は失礼だ、名前を教えとくれ」
「ヨ、ヨーコだけど。」
「ヨヨーコ?変わった名前だけど私も名前で呼ばせてもらって良いかい?」
「いや、ヨーコだから、ちょっとビックリしてどもっただけだから、名前はヨーコ、女将さんは?」
「あはは、ヨーコね、私ゃクリスアストフ・ゴボドルブィン・アナスタシアさ、長いからアナとでも呼んどくれ。」
いや、本当に長ぇな、アナスタシアとか可愛いし。
「わかったわ、アナさん、ところでどう?さっきのお酒出来そうかしら?」
「できる出来ないじゃないさ、ここまで丁寧に書かれてんだ、後はやるかやらないかさ」
おぉアナさんかっけーな、ちょっと惚れそうになったわ。
「明日にでも野郎共に取り掛からせる、奴らを説得するのにその酒借りて良いかい?私が作った酒をヨーコに返すからさ。」
「かまわないよ、私を降参させるようなお酒をお願いね」
クリスアストフ・ゴボドルブィン・アナスタシア、彼女はこの後、酒神の生まれ変わりと呼ばれ、世に数々の銘酒を生み出した、後世ではドワーフ史上最も尊敬された女として語り継がれることとなるが、今はただの酒好き女に上手く乗せられた被害者でしかない。
「みんなそろそろお開……きに」
3人とも現在テーブルにキスしてます、とりあえず宿まで送りを女将にお願いして、みんなの口に二日酔い止めの薬をぶち込んだ。
因みに今日もタダになりそうだったからちゃんとお金は置いてきた、金貨3枚飛んでったけど何杯飲んだんだろあの子たち。
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さてほろ酔いの私はいつも通り工房二やって来ました、工房にはマーチしかいないけど元に戻っただけ、私がやる事はさほど変わりない、今回はスライム消臭剤を作ろう、いざ作業に必要な素材を探しているとマーチが話しかけてきた。
『ヨーコ楽しそうだったね、他の3人も終始笑って飲んでたよ、1番先に潰れたのはオクトで最後まで残ったのはメイだったよ、話が終わる寸前まで頑張ってたけど気付いたら沈んでたね』
「おぉーメイちゃん凄いね、マーチの体作る時は肝機能高めにしといてあげる、あの3人が潰れたら介抱するの私だけじゃ無理だからね、道づれよ。」
なんとメイちゃんが酒豪説出てきたよ、まぁみんな内臓機能は一緒だからちゃんと薄めて飲んでたか、そのまま飲んでたかの違いだろう。
「みんなが楽しめたなら良かった、まだ初日だからかな、歯止めがきかなかったんだろうね、私も女将との会話に夢中になってみんなを見てあげれなかった、その辺は私の監督不行届だ。」
今回で酒は危険な物と気付いてくれるなら良いけどね、何事も経験、失敗なくして成功はない、親方がそんな事を言ってたっけ、確かにどんな事でも1回で正解にたどり着くのはごく稀だ、何回も何回も失敗してやっとの思いで正解の足掛かりが見える、正解に少しでも近付こうとしてまた失敗する、その失敗がめちゃくちゃ痛い、それは出来ると思っていたら出来なかったから、積み重ねてきた自信や確信を根元からぶち折られる、そこで挫折するのか立ち上がるのかでその後が決まる、私が弟子時代に親方に言われた言葉。
「あの頃は調子に乗ってたっけ、女の私でも出来る、大した事ないじゃん大工なんてって。」
昔、自分じゃ取り返しのつかない失敗をしてしまったと落ち込んでたら「俺も昔やったわ、懐かしいなおいっ」って他の職人さんに笑いながら親方が話してたんだよ、周りの職人達も「あれは酷かった、仕上んねぇって諦めてた」、そんな時親方の親方つまり私にとっての大親方が「大した事ぁねぇ、2日で修正する、その後は死ぬ気で仕上げっぞ」って、無事工期内に建物は仕上がり親方は泣いたって言ってた、同じように私の時もギリギリ工期内に仕上がって検査も通過したら安心して大声で泣いちゃったんだ。
「親方に会いてぇなぁ~元気にしてるかなぁ頭撫でてくんねぇかなぁ。」
どんな失敗かって?天井が斜めだったんだよ、気付いた時にはクロス屋さんも電気工事も終わっててね、翌週にはオーナーの内見、残された期日は3日間、夜19時以降は作業しちゃダメなところ、親方がご近所さんに心付け持ってお願いしに行ってくれて22時まで作業の許可をいただいた、そんな苦い失敗だよ。
でも職人の良い所は助け合うんだ、仲間が失敗しても手を差し伸べてくれる優しい連中、口は死ぬほど悪いけどね、罵倒されまくったし舌打ちするヤツなんかもいたけど最後には「良かったな、おつかれさん」ってみんなが言ってくれてさ、そしたら涙腺決壊するよね、今でも思い出すとウルッとくる。
私も少し酔ってるのかな、酒の失敗からだいぶ横道にそれちゃった、さぁて快適な街にする為にはあのどぎつい臭いを何とかしなきゃ、まず悪臭を吸着させるのか分解させるのか、簡単なのは吸着なんだけど吸着させた物の処分に困る、分解するにはスライムの構造を理解して匂いを分解する酵素みたいなのを注入すれば良いんだけど、その酵素が見つかるか不明、こっちの方が時間が掛かりそう。
「これは錬金で匂い系の素材を分解して抽出してから試すしかないなぁ、香りを出すなら簡単なんだけど香りを消すだから、流石にスライムに浄化の魔法陣は組み込めないし」
『ヨーコ、それって植物じゃなきゃダメなの?魔物の中に自分の匂いを消して狩りをするオオカミ型の魔物がいるんだけど使えないかな?』
「あのもふもふ独特の獣臭を消すなら成分も強力よね、その魔物ってそこらじゅうにいるの?」
『フォレストウルフ、さっき薬草を採取した森にも出るし繁殖力も高いから数はいるよ』
「ありがとうマーチ、ちょっと素材を探してみるね、外皮なのか内臓のどこかなのか、もしくは血なのか、神眼先生に活躍して貰おう。」
それからしばらくフォレストウルフを分解して調べると、どうやら肝臓から出ている分泌液にヒントがありそう、人間でも毒素を浄化する臓器だから有り得なくもない。
肝臓をさらに分解、不要な部分を取り除きまとめて圧縮、これじゃ強すぎる、成分を薄めてこの位かな、肝臓1つですっげー沢山出来る、効くのかな?
「ん~一応出来上がったけどスライムに害がなければ成功かな、あとはどれくらい有効期限があるかなんだよね、マーチの話だと狩りの時だけ匂いを消すっぽいし一瞬だけなら意味が無いし、トライアンドエラーだね。」
その後は匂い消し効果がある植物からも成分を抽出しておいた。
「うぅぅ今すぐ試したい…向こうは夜中だろうしでもちょっとだけなら、確か宿の裏にもスライム居たわね、こっそりやってみよう」
早速工房を飛び出し部屋に戻った、3人とも爆睡中、メイちゃんが掛け布団を剥いでいたからかけてあげて外に出る、フロントに声を掛けられたけど「少し外の空気を吸いたいので」と言って誤魔化して、本当は吸いたくないよくっさいもん。
宿裏の側溝で茶色いスライムがフルフルしている、私はフォレストウルフから抽出した錠剤をスライムに投げ込む、シュワーと音がして気泡がスライムの体内で湧き上がる、今見た感じスライムが苦しんだりする素振りはない、ん?でもちょっと待って、色が変わった?暗くてよく分からないけど透明になって来たのかな?
「どれ匂いは……あ、匂わない!臭くない、後は有効期限だ、明日の朝にもう1度チェックしよう。」
気を良くした私はフォレストウルフの匂い消しを量産に取り掛かった、凡そ6000個くらい作った辺りでマーチからタイムアップの号令、私はシャワーを浴びて仮眠してから宿の部屋に戻った。
「あら、みんな起きてたのね、体調は大丈夫?」
宿に戻るとオクトはストレッチしていて、メイちゃんは窓の外を眺めていた、ジューンはまだベッドの上でボーッとしていたが手を振って問題ないと意思表示していた。
「ジューンが覚醒したら朝食にしましょう、メイちゃん先に顔を洗っといで、オクトもパンイチじゃなくて服ちゃんと着て、ジューンそろそろシャキッとしなさい。」
はい私オカンです、デカイ子供3人のオカンになってます、ボーッとしていたジューンも魔法で水球を出して顔を突っ込んだ、斬新な洗い方だなそれ、楽しそうだけど、その水球をふよふよさせて水桶に流す、やっぱ魔法って便利だなぁ。
メイちゃんの髪をブラシで整えて、はい可愛いが出来上がり、やっと覚醒さたジューンの髪の毛もブラッシングしてあげる、サラッサラの髪の毛はツヤツヤしていて眩しいくらいだ。
「お酒って幸せだけど翌日がダルいわね、体調は平気なんだけれど気分がね、これは試練なのかしらね」
ジューンが気だるそうにボソッと言うと
「無かった感覚だろ?かったりーのも動いてりゃ楽になるから、また夕方飲みたくなんだ、とりあえず今日手頃なクエスト探して行ってみようぜ、動いた後の酒はまた別物だぜ?」
「お姉ちゃん、お酒美味しいね、楽しいね、幸せだね、また飲みたい。」
オクトの言ってる事はすっごくわかる、動いた後の缶ビールは最高よ、メイちゃんにも酒好きのソウルが芽生えそうでお姉ちゃんちょっと心配、それを考えるとジューンの反応が一般的なんだろうな。
朝食を終えて部屋に戻った私達は出発の準備をする。
「それじゃぁ3人はギルド行ってクエストするのね?私はちょっと街を見て回る予定、向こうでサンドイッチ作ったから小腹が空いたら食べてね、水はジューンが居るから平気よね、はいこれ、あとジューンにお金を渡しておくから自由に使って、オクトのリュックも仕上がったから使ってね、大剣を納めれるホルダーも付いてるから邪魔にならないでしょ。」
オクトにリュック、ジューンに金貨10枚と大銀貨20枚を渡した、少し多いのは万が一の為、メイちゃんにはキャップを作った、黄緑色で防御壁の付与を仕込んである。
「それじゃぁ気をつけてね」
宿の前で3人と別れた私はスライムチェックをしに裏手に回る、昨日は夜中だったからよく分からないけど茶色く濁っていたスライムが無色透明に近い状態だった、試しにマーチの結界を解いてもらって匂いを嗅いだがやはり無臭、まだ半日も経ってないがスライムも元気そうだ、私は他のスライムにも錠剤を投げ込んだ。
「さてダンゴさんの店行くか、領主様に会うって聞いたから一応正装っぽくしてみたけど」
本日の服装は黒く染めた真シルクのジャケットで下に白ワイシャツ、エンジのネクタイを締め、同じく真シルクのパンツのメンズスタイル、靴は魔馬の皮で作った革靴にした、鞄も魔馬の革製、今回は空間拡張していない、それからレディース用の小さめ腕時計、本当はメンズの方が良かったんだけど控えめにした、パンツにしたのも街の人のスカートを見るとみんな素肌を隠すような長いスカートで多分素足を見せるのは成人女性として恥ずかしい行為なんだろうと判断したからだ。
メイちゃんのハーフパンツもそれに気付いてからは少し長くしてニーハイと被る様にした、かぼちゃパンツのように裾を紐で縛れるようにしてあるので森の中で虫等の侵入を防げるようにしてある、普段は紐をリボンのように結びヒラヒラと揺れるワンポイントで可愛らしくなる。
「素足見せたら無礼者とか色情魔とか言われたら嫌だし。」
髪の毛も後ろで縛って纏めてある、宝塚の男役をイメージしてみたのだが、如何せん宿の鏡が曇っていてよく見えなかった。
「少し化粧もしてみたから、大丈夫でしょ。」
ダンゴの店に歩いていると、いつもとは違う視線、主に女性からジロジロ見られている、まぁ男装だから不思議に見えるんだろうけど、何故かすれ違う女性数人がへたり込む、私なんにもしてないからねっ!
「ダンゴさん、約束通り来ましたよ」
「はいはいっお待ちっ!!…………はっ!ヨーコ様ですよね?へっ?あれ?」
なんだよダンゴ?なんかおかしいか?
「はい、ヨーコですよ?何か変ですか?一応領主様と会うので正装して来ましたが。」
「はいっ!はっ!某国ではそのような立派なお召し物が……いや、某国の正装なのですね、それにお顔立ちがさらに美しく見受けられます、薄く紅などをはわせておられるのでしょうか?とてもお美しい……んあっ!取り乱しました、非常にしっかりしております、王の謁見でも通用するほどご立派でございます。」
飛びそうな意識を取り戻したダンゴが使用人に馬車の準備をさせる。
終始落ち着かない様子のダンゴ、まぁ領主に会うのだから仕方ないのかもね。
馬車に揺られて10分程で貴族街に入った、貴族の御屋敷は一軒一軒は大きめだが想像よりは質素な感じ、門扉があって庭園があってとあまりに想定範囲内でつまらない、建物の所々に流線を交えているし、中心に対して左右がほぼ同じ形のシンメトリーだからルネサンス様式とかが近いのかな、中は見えないけどサロンとかもあるんだろう、その辺は見栄を張って豪華絢爛にとか、私の行くところじゃないけど見てみたい。
「間もなく領主様のお宅でございます。」
ダンゴに言われて外を見ると、んんっ?なんかどっかで見た様な感じの建物、あれって……あ!日銀本店だ、何度か見学行ったっけ、でもそこから入るの?良いの?
正面の門が開き中へと進む、日銀本店よりも倍以上大きいが似ている、噴水があったり少し違いもあるが雰囲気はそっくりだ、他の貴族邸宅と違い緑の庭園ではなく石畳が敷かれていて、見た目は無骨だが、この世界で1番興味を引く建物だ。
あまりキョロキョロするのは失礼にあたりそうだから、落ち着かないと。
馬車を降りて……ダンゴが手を出してきた、これってあれか?えすこーとってやつけ?ダンゴじゃヤダー、でも手を取らないと失礼よね、渋々ダンゴの手に手を乗せた。
「おっぉぉぉっ、ダンゴ良く来た、そちらの紳……御令嬢が話に聞いた女性かな?」
今絶対紳士って言おうとしたろ!化粧までして来たのにっ!
「長谷川洋子と申します、本日はお忙しい中お時間をいただきありがとうございます、田舎者ですので作法に失礼がありましてもご容赦ください。」
左手を後ろにまわし右手を胸のにして一礼、多分大丈夫なはず、わかんないけど、失礼じゃないはず、ドキドキしゅる。
「いやぁ、ご丁寧に、堅苦しいのはお互い疲れるでしょう、私がティンダーの領主を務めているラルク・フォン・エリックだ、今日はヨーコ殿と友人になるつもりだ、親しみを込めてエリックとでも呼んで欲しい」
「はっ、エリック閣下ありがたき幸せ。」
「敬称は要らぬぞ、友人になると申したではないか、ダンゴと話す話し方で良い、誰がなんと言おうが私が許す。」
なんだよ~昨日せっかく練習したのに~気楽にって言ってもダンゴさんよりちょっと丁寧にするか。
「立ち話もアレだ中に案内しよう。」
屋敷の中は質素な感じだが気品が溢れている、壁は装飾が施されているが下品ではなくさり気ない、床は絨毯が敷いてあり敷いてない所を見ると石造りで、薄らと光沢があり大理石みたいな感じだ。
大きな扉を開け中に案内される、扉の装飾も素晴らしい細工、このエリックとか言う領主趣味が良い。
「ヨーコ殿どうされた?」
「はい、外からはわかりませんでしたが落ち着いた内装で所々にある装飾が美しいと感心しておりました」
「あの様な神の御業とも思える時計を作った芸術家の様な其方に言われるとこそばゆいが悪い気はせんな、まぁ後でゆっくりと見るが良い、さぁそこに掛けてくれ、今お茶を用意させよう。」
ソファーも程よい弾力、沈み過ぎない適度な固さ、これ欲しいな。
「さて、早速なのだが、腕時計も素晴らしい物ではあったがまず、グレイシアを使った砂糖の話しをしようじゃないか、これからは敬称は一切禁止だ、大事な話しだからな、一々不慣れな言葉で間違われても困るからな。」
ニコッと笑みをこちらに向けるエリック領主、確かに大事な商談で変な言葉を使って違う意味に取られたら二度手間だ。
「分かりましたエリック、これでよろしい?」
「うむ、私もヨーコと呼ぶがよろしいな。」
お互いが納得してからは話しが早かった、ダンゴが言ったように砂糖の加工工場を造る計画を進めるようだ。
工場はエリックが30パーセント、貴族会から20パーセント、商人達が50パーセントの出資をするが一商人の最大出資額は10パーセントまでとなり、利益は出資金に応じて分配式にする、基本運営は商人に、王都他大都市と呼ばれる街への外交商交は貴族会が担当する事が決まった、村単位への卸に関しては商人が行うことが許されたが、最初の10年間は出資した商人しか取り引き出来ない、まぁ出資金を回収しなきゃいけないしね。
砂糖の金額は一律と決め3ヶ月毎に見直しがされる、仕入れ値もその時に決められ、それ以外の金額で取引きする事は禁じられた。
砂糖の利益に対しての税金は一律20パーセント、仕入れ台帳は何冊か同じ物を商人ギルド、貴族会、領主で保管され、不正をしてもすぐに発見できる仕組み。もちろん税金は領主からも徴収し、その税金は街の発展にのみ使用される、学校や病院等を中心に建てて行くそうだ。
「草案としてはこんなものか、工場勤務する者には契約魔法で縛らせてもらう、グレイシアというありふれた素材から砂糖が簡単に取れると知れば密造する輩も出てくるだろう、商人や関係貴族に関しても同じ条件だ、大きな金が動くのだから仕方ないだろう。」
確かに密造出来ないとは言えないからなぁメルティでも出来ちゃうもん。
「ヨーコは何か意見はあるか?」
「グレイシアの栽培を近くの村に頼むのはどうでしょう、最初のうちは冒険者ギルドに依頼して群生地から輸送してもらうのがルートになるでしょうが、栽培が成功すれば素材の安定供給に繋がります、栽培が成功したらグレイシア畑の管理や手伝いを冒険者ギルドに依頼すればわざわざ危険を犯して群生地に行かなくても済みますので、幸い私の仲間に植物に関して詳しい者がおります、最初のうちは指導出来るでしょう。」
「それもまた一考だ、私としてはスラムの住人を使いたいのだ、衣食住があれば契約で縛りやすいからな。」
スラムか、行ったことないからなぁ、どんな人が住んでるのやら。
「領主様、スラムの跡地を工場にとお考えですかな?」
「うむ、その為にはスラムの連中を説得せねばなるまい、良くて半分が動けば良いが。」
あぁ、スラムに堕ちるくらいだ、仕事なんてやる気が無くなっているんだろう、そういう人を動かすのは大変だよね。
「栽培の件は後回しになるな、今後5年程掛けて構想を練らねばな。」
課題はスラムの立ち退きか、立ち退き料払ってもまた堕ちるんだろうな。
「書記官よ、砂糖に関しては記録したか?記録が終わったら下がって良い、この後は私用の話しになるからな。」
書記官が一礼し部屋を出ていく。
「さて、次はこの腕時計だ、これはちと話しが変わる、私の立場を跳ね上げるか暴落させるかのどちらかだ。」
いや、暴落はしないだろ。
「実際この目で見たが素晴らしい物ではある、だが……」
だが?
「王に献上するにしても、王と同じ物を他の貴族に売る訳にはいかん、ヨーコよ、少し違う物は作れぬか?もちろん無理は承知だ、時間が掛かるのもわかっておる、それに希少な金属を使っている事も承知だ、金は払う王、王妃、王太子の分を作って貰えぬか?無理にとは言わんが…最大限に協力する。」
「明日にはできますよ?それがあればエリックの助けになるのでしょ?問題なく出来ます、金銀キラキラな派手な奴ですか?それともミスリルを使った渋いやつとか?特殊な付与もあれば良いですね、王族ですから毒無効とか?まぁ素材はありますし、全然大丈夫。」
エリックもダンゴもポカーンとしてる、だって部品たくさん作ったもの。
「えっ?」
「えっ?」
「何よ2人して」
帰ってこーい!2人とも!ダンゴが恐る恐る口を開く。
「いえ、以前この時計は師匠のアトリエにあった部品で作ったと仰ってたので……」
「私が作れないとは言ってませんが、ふふっ、作れない物を教えるなんて出来ないじゃないですか、私はそういう意味でダンゴさんの時計工房の話しをしたつもりだったのですが……あれ?」
エリックがダンゴの頭を叩く、コントかよっ!
「イタタタッ!それでは作れるのですか?」
「エリックの立場が良くなれば街も良くなるんでしょ?作るわよ、何本でも、ダンゴさんは庶民向けのモデルを作るもんだと思ってたので、いざと言う時の高級モデル用の部品もあります。」
「本当か!ヨーコ!あぁ私はなんて幸運なんだ!!是非頼みたい、王族用を3本、四公爵夫妻の分8本、頼めるか?」
ちゃっかり四公爵分が追加されたのは目を瞑ってあげよう、でもそこまで言うなら。
「せっかくだから紋章とか浮かび上がる様な細工も入れましょうか?それぞれの紋章とかわかればですけど、王家にもありますよね?紋章。」
闇を照らす紋章とか、魔力を通したら紋章が浮かび上がるとかロマンでしかないでしょ?
「そんな技術もあるのか?」
「アルヨ」
「軽いわっ!しかも良い声!」
エリックが食い気味で突っ込んだ。
「頼みたい、紋章に関しては写しの書物がある、それを参考にしてくれ」
「ただし1つだけ条件があります、私偉い人に呼ばれて王都とか行きたくないんです、だから流しの技術者に作って貰った、今は行方不明とでも言ってくれるなら作製します。」
「おい、ダンゴ流しの技術者とはなんだ?」
「わかりませんが、多分旅芸人の類いかと」
「ヒソヒソしないでください、技術の勉強の為流浪の旅人として活動していると話してください、条件が了承いただけるなら明日昼までに作って持って来ますよ。」
と言うか早く作りたい。
「そんなに早くだと?大丈夫なのか?」
「中身は変わらないので、材質を変えて装飾するだけならそんなもんです。」
2人とも呆れ顔、王族のは箱も特殊にしようかしら
「その、さっきチラッと出た毒無効とは?」
「魔法陣、私錬金術の他に師匠から習っているので、王妃様のは安産確定とか付けれますよ?どうしますか?」
「付けるなそれは!もう中々の高齢なのだから今更そんなもの付けても王妃が困るだろ!毒無効だけで良い!しかしヨーコの師匠は凄まじいな魔法陣の知識まで持っているとは、それを簡単に言うヨーコも凄まじいが。」
あぁそゆことね、了解したよ。
「王族の好きな色とかありますか?やっぱりゴールドとかでしょうか?」
「王族の方々は金で良い、四公爵はそれぞれ色が与えられている、赤、青、紫、緑だ、旗印の色としてよく使われておる、だが色の着いた金属など無いであろう。」
「私は錬金術師ですよ、本来有るものから無いものを創り出すのが錬金術師です、王国の錬金術師が楽してるだけですよ。」
「参った、降参だ、明日の午後は予定を全てキャンセルして空けておく、門番にも話しておくから好きな時間に来ると良い、ダンゴは砂糖の件を進めるように、明日は足を運ばなくても良い、安心しろヨーコに対してもダンゴに対しても悪い事にはならないようにする。」




