新魔法!
100階層突破お祝いで打ち上げをしたんだけど、まぁ案の定どんちゃん騒ぎになり、騒いだよね、んでなんか知らない兄ちゃんがいるな~って思ってたら、灰色の剣に新しく入った兄ちゃんで、戦士のスキル持ちだった。
んでその戦士君、どうやらメルティにぞっこんラブっぽい、メルティにその気は無いらしくイチャイチャしたらギルティコールしようとしていたが空振りに終わった。
「どうも、この度灰色の剣に入りましたドルティアです、ポジションは前衛でタンクになります、エレメントの皆さんの噂は伺っております、どうぞよろしく」
一人一人に挨拶回りをしていたドルティア、最後に私の所に来た。
「はい、私は長谷川洋子と申します、気軽にヨーコと呼んで下さい」
「ありがとうございます、ではヨーコ殿とお呼びしますね、まだ新参ですから呼び捨てはちょっとハードルが高いので」
珍しい常識枠じゃん!メルティあんた結婚しちゃいなさいよこの人と
「あはは、まぁそのうち慣れてきたらで構わないわ、あそこにいる女性がウチのタンクよ、もう一人居るんだけど今調理中だから、彼女はまた後で紹介するわね」
ドルティアはジューンの方へワインボトルを持って向かって行った。
「すみません、お待たせしたっす!あ、どうもヨーコさんお久しぶりっすね、自分昨日付でギルド辞めたっすから灰色の剣に入ったっすよ、100階層クリアおめでとうっす」
「ディレイさん、お久しぶりですね、相変わらず元気そうで良かった、私は今回不参加だったからまだ67階層で止まってるわ、時間があったら私も潜ろうかなって思ってるの、ダンジョンで会ったらよろしくね」
ディレイもガトーの方に行ったので私はメルティの所へ行く、メルティはメイちゃん、ミライさん、サライちゃんとテーブルを囲んでヒソヒソ話、何話してんだろって聞き耳立てたら男の話だった、ちょっとメイちゃんに変な事教えないでよ?まぁミライさん達がいるから平気だと思うけど。
今日は裏側のウッドデッキでバーベキューなので人目には付かない、会議室の窓が開いて中からピアノの演奏が聞こえる、どうやらジュライが弾いている様だ、彼女には模倣スキルがあるので上手に弾けてる、でも……
「ヨーコさん!ジュライさんのピアノも素敵ですね、今ジュライさん模倣は使ってないんです、上達が早いのでびっくりしてますよ」
「やっぱり?なんかいつも聴いてる演奏じゃないな?って思ってたんだ、ミライさんから見てどう?」
「ヨーコさん、まだ点数とか付けるずっと手前ですよ、ただ努力してるなって思います、私達は生まれた時から音楽がありましたけど、この世界では音楽の方が 生まれたばかりなので馴染みがないのに凄いとは思います」
少し厳しめの感じだけど、素人耳の私でさえ分かるくらいだから、でもジュライの顔が真剣で時折微笑む横顔が美しい。
「確かにそうだね、でも真剣にやってるみたいだし、応援してるよ、ミライさん達にも負担かも知れないけど教えてあげてね」
「負担なんてとんでもない、ジュライさんは素晴らしい音楽家になりますよ、私はジュライさんの1番最初のファンなんで、憧れる存在です」
「そうだね、ちょっとエッチだけど、頼れる姉貴様だよ、私も何回ジュライに救われたか」
本当に何回彼女の言葉に救われたんだろ。
「ヨーコ、話し中すまん、ちょっと良いか?」
「あら、ガトーちょっと待ってて、ミライさん呼ばれたから向こうに行くけど楽しんでってね」
「はい、ありがとうございます!行ってらっしゃい」
ガトーに呼ばれて向かうとディレイが土下座してきた。
「ヨーコさんにお願いがあるっす!白金貨1枚で自分に武器を作ってもらえないっすか?」
「ディレイが市販のショートソード使っててな、俺の剣がヨーコの作品だって知って頼みたいって言うからよ、下に行きゃ歯が立たねぇのは知ってっからな、自分の命を預けるもんだから良い物をってよ」
「あ~なるほどね、良いよ?2日あれば用意するよ、どんなのが良いの?」
まぁ元々弓を渡した時のうっかり発言で、ディレイの武器は作ろうかと思っていたし。
「マジっすか!ありがとうございます!2日で平気なんすか?」
「うん、大丈夫よ、デザイン描いちゃいましょ」
羊皮紙を取り出して、オーダー通りにデザインを描いていく。
「ショートソードで良いの?まぁ斥候だから身軽な方が良いか、メイちゃんみたいな遠距離攻撃可能なクロスボウとかも作ろうか?」
「予算に余裕があればっすけど、確かにあれは便利っすよね」
「使う素材にもよるけど、ガトーの剣と同じ素材で魔刃付きならすぐ作れるよ、白金貨1枚ならショートソードにクロスボウ、バックラーと矢筒まで余裕で行ける、矢は100本くらいで良い?多分ドワーフでも作れるから補充はドワーフに頼んで欲しいけど」
いつまでも私が作るって訳にもいかないからね。
「バックラーは大丈夫っす、自分戦闘出る時は籠手をはめてるっす、バックラーよりも投げナイフが嬉しいっす」
「おぉ!投げナイフね、了解何本?5~6本くらい作ってベルトに仕込めるようにしようか?もちろんベルトも作るよ!」
投げナイフとか浪漫武器だよ、女メイドが太ももに仕込むやつだよね?アニメとかならお色気シーンだけどディレイの場合は……なんか毛深そう。
「ヨーコさんに相談して良かったっす、んじゃショートソードとクロスボウ、矢筒に矢が100本、投げナイフ5本お願い出来るっすか?」
「あとベルトね、サービスで背中に背負うリュックも作ってあげる、その代わり私の可愛い妹分を守ってくれる?まだ嫁入り前だからあの子」
ガトーがいるから平気だと思うけど、念には念をね。
「マジっすか!あれ便利っすよね、ギルドでも作り方聞こうって話が出たくらいっすから、あの双子のお嬢さん達がが持ってるくらいのサイズが良いっすね!メルティさんっすか?守りますよ!マジ感謝っす!」
「でも白金貨1枚じゃ貰いすぎじゃない?靴も作ろうか?ほらエレメントのメンバーの履いてる様なブーツ」
「ちょっと待ったぁ~ヨーコ私も買う!あの靴欲しい!」
突然割って入って来たメルティ、わかったよ、アンタの頼みは断らないから安心しなよ。
「了解、んじゃブーツは2足ね」
「ヨーコ……俺も欲しい、ってかウチのメンツの分お願い出来ねぇか?あれも動きやすくて良いよな、オマケに滑り止めまで付いてっから羨ましいって思ってたんだ」
ガトーも食いついてくきた、靴は重要だもんね、これもドワーフに作り方教えておいた方が良いかな?
「了解、全員の分を作るのは大丈夫よ、足のサイズ測らせて?」
全員のサイズを測り終えて新発見、ガトーの足の裏肉球がついてたよ、ちょっとびっくりした。
ブーツは1足大銀貨3枚で話がついた、メルティは3足も頼みやがって、まぁ足元は重要だからね、しかも革を赤くして欲しいとか注文してきやがった、赤くしても3倍早く動ける訳じゃ無いからね?
全員同じモデルの6インチブーツ、私もずっと某ブランドの6インチクラシックを愛用していた、足の形が女らしくなかったのでメンズ用ブーツだったけど、あの革が段々馴染んで行くのがたまらなく好き、素材は全然違うけど形はほぼ一緒だ。
宴会も終盤に差し掛かり、本日も最速でペロンペロンのサライちゃんを私とメイちゃんで教会に送り届け、クランハウスに戻った、バラバラになって好きな事をし始めたので、私も部屋に戻ると言ってから工房に行く。
言われたオーダーを早めに片付けておきたいので早速作り始める、武器に付与は必要無いのでスピーディかつ正確にと作業する、武器が終わった所で一休み、仮眠をとってその他を仕上げる、鞄と靴も仕上がったので外の時間を確認、まだ工房に来てから3時間程しか経ってない。
「あれ?終わっちゃった、なんかいつもよりめちゃくちゃ早かったな、別に集中していた訳じゃないのに、これがレベルアップの恩恵なのかな?」
物を作れば作っただけ、戦闘訓練をすればしただけレベルアップするこの身体、大体挫折するのは結果が伴わないからであって、常に努力が血肉となるこの身体が私にとっては1番のチートなのかもしれない。
手持ち無沙汰になったので、あのバッカスの小部屋で見つけた魔法を取得する本を出して考える、私が魔法を使えるなら何がしたい?バッカスさんの様に頭の中で思い描いた物を出現させたり、想像した架空の物を生み出したり……便利だけどそれはダメだな、私が楽しくないしこの世界の人のためにならない。
「私が楽しむためには……」
空を飛ぶ?チャミーがいるから必要ない、透明人間になる!いや、なってどうするのさ、なんか無いかな~元の世界にある物を呼び出せる……理想だけど明らかにオーバーテクノロジーだし、ちょっと興味はあるけどそれって魔法か?そういう現実味の無いものを魔法って呼ぶのかも?いや無理だなぁ、バッカスさんみたいにリスクもありそうだし。
工夫してリスクを回避出来たとしたら……それはやめておこう、色々思い出して帰りたくなるから、この世界で私が楽しむ為に必要な魔法にしよう、どうせ後世に残せないものなんだから、今自分にとって便利な魔法って事なら一つ考えていたものがある、ありふれた感じだし、似たような事してるじゃんとみんなには突っ込まれそうだけど。
「便利には変わりないはず!みんなに相談してからにするか、サプライズにするかどうしようか悩む、う~んサプライズにしたい気持ちが強いけど相談するかぁ」
時間を確認すると、ちょうどジュライが起きてくる時間だったので外に出る、キッチンに降りてお茶の準備をしていると、ジュライが起きてきたので早速相談。
「ジュライおはよう」
「ん?ヨーコ早いではないか?どうした?」
「うん、ちょっと考え事しててね、あの好きな魔法を覚えれるってやつ、良い魔法を思いついてね、ちょっと相談したくてさ」
「ほう?どんな魔法だ?」
ジュライに私の考えている魔法の説明をすると
「なるほど、じゃがそれで良いのか?似たような事は魔法陣でも出来るじゃろ?勿論反対などせんがな」
「うん、一応非現実的なのも考えたけど、私の考えてる魔法も非現実的でしょ?私は1人でじゃなくてみんなも楽しめる様にしたいの」
「まぁ妾達はヨーコと一緒ならば楽しいがな、それとなヨーコ、既に頭の中では答えが出ているんじゃろ?同意が欲しいだけじゃろ?それは相談とは言わんのじゃ、好きにしたら良かろう妾達がそれに関して口を出す事はせん、お主のやる事は全てにおいて肯定するからのぅ」
甘やかされてるのかな、好きにしろって言われると見放された気分になるのは私の勘違いだろうか?
「わかった、んじゃその方向で進めるね、同意が欲しい訳じゃ無かったんだけど、確かに否定されたら返しの言葉は用意していたかも、本当だね、これじゃ相談じゃなくて同意や確認だわ」
「まぁ責めてる訳ではないんじゃぞ?好きにしろと言ったのは反対するつもりがないからじゃ、気にせんで存分にやれば良い」
本当にこういう時のジュライはお母さんみたいだ、全てを受け止めてくれる、欲しい回答じゃなかったけど逆に心強い。
ジュライを見送った後、ネロと双子も起きてきた、私の考えも決まったので朝食の準備が終わるまで工房に入る。
「これで良し、ちゃんとリトルティンダーも描かれてる、んじゃ早速試してみるかな」
食堂に戻り、みんなが起きてくるのを待っていると
「ヨーコ様、朝食のご用意が出来ました、もうお出ししてもよろしいでしょうか?」
「うん、お願い」
朝食をとりながら魔法の発動条件なんかを確認する、大丈夫抜け穴はないはず。
みんなが降りてきたので私が魔法を覚えた事を伝えると
「想像より随分と時間がかかったね、とっくに使っているかと思ってたよ、因みにどんな魔法なんだい?」
「転移魔法よ!この世界ならどこへでも行けるわ!!」
「あら、随分と普通ね、ヨーコならもっと突き抜けた魔法にするかと思っていたけれど、ポータルとはね……意外だったわ」
「ポータルか、あれは便利だな、古代魔法の一つだったか?最近じゃ使えるやつもいないだろ、ヨーコは1人でフラフラするからちょっと怖いけどな」
フラフラって、遊んでるわけじゃないんだからね?
「ポータルって1人だけだったよね?ヨーコは遂に単独行動するの?ボク達もポータル覚えないといけないね」
「単独行動じゃないよ?マーキングした人も一緒に行けるし、前にジューン達が罠に掛かって飛ばされたじゃない?マーキングしてあれば対象者を自分の所に呼べるの、だからいつ迷子になっても大丈夫!」
「それはまた……そっちの方向で突き抜けたのね、マーキングねぇ、そんな発想は無かったからちょっとびっくりね」
食後詳しく説明をする、転移魔法で行けるのは工房の世界地図に記されている場所のみ、都市や街だけではなく、森や草原のど真ん中でも行ける、地図に記された場所ならどこへでも。
「じゃぁ使用する度に工房に戻るって事かい?」
「そこは私も考えて、転写した地図で対応出来るようにしたの、だから私が地図を常に持っていれば平気」
マーチがボソッと「もっと簡単にすれば良かったんじゃない?」と言って来たが、発動条件に規制をかけないと、あの魔法書に反映されなかったから仕方なくと説明をした。
「へぇ~、多分実現するのが難しければ難しい程、発動条件を付け加える必要があるんだね、興味深いなぁ」
「その辺はよく分からないけど、とりあえず後で試してみようかなってね、今日はティンダー行かないとだから、早く帰ってこれたら試したいの、協力してくれる?」
「はーい!メイはお姉ちゃんの新魔法のお手伝いするよ!」
メイちゃんが元気よく両手を上げてくれた、1人じゃ心細かったから助かる。
「ありがとうメイちゃん!んじゃティンダーの用事を早く終わらせちゃうね」
マリアンヌとは時間の約束まではしていなかったから、午前中の早い時間に行こう、エリックにコールしておけば平気かな?
「じゃ行ってくるね、帰る時にコールするから」
「それなら俺達も100階層攻略の報告して来るか、昼までには帰って来れんだろ、ガトーに声掛けてくる」
私は地下室へ、オクト達はギルドへと出掛けて行った。
「さて一応エリックにコールしとくか」
タブレットを取り出してエリックに連絡をする。
「エリックだ、ヨーコか?」
「はい、奥様とお嬢様のドレスが完成したので今から向かおうと思って連絡したの、平気?」
「ドレスだけなのだろ?ならば問題ない、爺を迎えに行かせよう」
執爺には悪い事したかも、でもノーアポで行ける程貴族の敷居は低くない。
「ありがとう、それじゃ屋敷で待機しておくね」
一応着替えもしておこう、前に馬車をプレゼントしに行った時ラフ過ぎるってちょっと注意されたし、スーツはちょっと面倒だから綺麗めのワンピースとかにしとくか。
ちゃんと袖付きで露出少なめのシンプルなドレス、色もネイビーで目立たない色にして、アクセサリーも必要最低限、魔法陣で拡張処理した肩掛け鞄にドレスをしまい込み、窓の外を眺めて執爺を待っているとしばらくして馬車が見えた。
「ヨーコ様、お迎えに参りました」
「すみません、お手数お掛けします」
そんなお決まりのやり取りの後馬車に乗り込みエリック邸まで向かった。
「旦那様より用事が終わったらお顔出しして欲しいとの事です」
「はい、分かりました、その時はお声を掛けさせていただきます」
馬車を降りる時に執爺からエリックが呼んでいると聞いた、何故か小声で言われたが別にエリックと変な関係じゃないから堂々と言って欲しい、まぁ怪しまれても仕方ないけどさ、そんなんじゃないからね!
マリアンヌ達の所へ案内されてドアを開けると、厚化粧したマリアンヌがいた、頭が痛くなるような厚化粧、すぐに浄化のアイテムで化粧を落としてし直した。
「マリアンヌ様、厚く塗れば良いわけではありません、化粧を落とした肌は綺麗だったので、ちゃんとスキンケアはしている様ですが、あんなに厚く塗っては肌が可哀想ですよ?」
「ごめんなさいね、変身していく自分が嬉しくてつい……」
「お気持ちは理解できます、ですがマリアンヌ様は何もしなくても美しいので、もう少し薄化粧で平気かと、後は外出時に日傘等をさして直射日光を避け、肌へのダメージを少なくするのをおすすめします」
日傘自体無い世界なので、私がふざけて作った日傘をプレゼント、紫外線カット加工とかは全くわからないけど、真シルクで作ったフリフリ付きの可愛らしい日傘だ。
「まぁ!こちらで日を遮るのね?可愛らしい模様が入っていますのね」
「はい、雨を防ぐようには作られておりません、あくまでもマリアンヌ様が外出時に日光を遮る専用です、今後はこの様な小物も出回りますので上手くご活用下されば、白く美しい肌を長持ちさせることが可能になるでしょう」
日焼け止めクリームとかは成分が分からないから、今度ミライさん達に頼んでご両親に聞いて貰おうかな~
「それは素敵ね、こういった物も素肌を守る為に必要になって行くのね?なら収集するのも楽しそうね」
「お召し物に合わせて色を変えるのは良いかもしれませんね」
マリアンヌは少し考えてから
「ヨーコさん、次に来る時で構いません、この日傘を数本ご用意できるかしら?多分貴族の女性にはウケると思います、近しい貴族のご婦人に差し上げたいのだけれど、勿論お礼はお支払いしますわ」
「かしこまりました、20程用意しておきます、次回ですとお嬢様のデビュタントの打ち合わせの時でしょうか、日時はエリック様からコールしていただければ対応致します」
その後は軽く雑談をして、新しい物が出来たら持って来る約束をした。
執爺に声を掛けエリックの執務室まで案内してもらった。
「ヨーコ、ドレスの受け渡しは終わったのか?」
「はい、終わりました」
「うむ、それで今日呼んだのは例のアイテムの件だ」
例のアイテム?……あ!復活の指輪か
「はい、あの指輪の使い道でも見つかりましたか?」
「うむ、明日王都に献上しに向かうのだが、この指輪はかなり貴重な物だ、買い取るにしても値段が付けられん、そこでだ、ヨーコ達が必要な物てもあれば良いのだが、何かあるか?必要ならば爵位すら与えるとイーグル王は仰っていたが……」
「爵位なんていらないです!必要な物も今はありません、適当に払える金額で大丈夫ですよ、お金は腐らないですし」
そんなの貰ったら王国から出れなくなるし。
「まぁそうであろうな、わかった、ではその様に伝えよう」
「私からも質問して平気?」
「ん?なんだ?」
「ほら、この前、私の種族がエリックにバレたじゃない?やっぱり珍しいの?エルフって」
エリックは何を今更と言った表情で
「そうか、ヨーコは知らないのだな、ヨーコはハーフか?」
「ハイエルフだよ、見分けはつかないかもだけど」
ガタッ!っとエリックが立ち上がった。
「そっ、それは本当か?」
「うん、まぁ色々あって昔の事は話せないけど、ハイエルフで間違いないよ?」
マーチの話だとハイエルフとエルフの違いは、纏う魔力量と目の色と髪の毛の色らしい、エルフの目の色は茶色、髪の毛は金髪ではあるが私の様に透き通る様な金髪では無い、艶や光沢が全く違うそうだ、珍しい種族だからあまり知る人は居ないらしいけど、エルフに育てられた子供なんかは見分けが付けれるそうだ。
「なんという事だ……浮世離れしているとは思っていたが、だがそれなら何故魔法が使えない?ハイエルフと言えば多種多様な魔法を使いこなすはずだが?」
「まぁ魔法が使えない代わりに他の事は色々出来るけどね」
「すまん、失言だった」
エリックは少し考えてから
「ハイエルフだと言うのは黙っていた方が良いだろう、理由は様々あるが今の生活を失いたく無ければ話さない方が良い」
「うん、じゃぁそうするよ、理由は気になるけどエリックがそうした方が良いって判断したんだよね?ならそうする」
「うむ、しかし良かったのか?私に話しても」
そりゃ
「エリックを信用しかしてないから」
「ふっ、口説き文句か?まぁヨーコの種族に関しては墓まで持って行くつもりだ、そこは安心してくれ」
「他人の男は取らない主義なので、さっき聞いたのも正体を隠さないで良いなら楽チンかな?って思っただけだから、深い意味は無いんだよ」
本当にそんな軽い感じ。
「そうか、何かあるのかと深読みし過ぎたな、どちらにせよ正体は隠しておいた方が絶対に良いだろう」
この様子だとあまり良くない事なんだろうな、今の私に知る術が無いから何とも言えないけど
「ふむ、そうだな……もしもハイエルフについて知りたいのなら、共和国の世界図書館に行くと良いだろう、あの図書館には記録が残っているはずだ、あそこの司書長はハイエルフらしいからな」
「へぇ~そんなのがあるんだ、興味あるかも!ドワーフ国行って、エステア嬢のデビュタント終わったら行ってみようかな~」
「共和国に行くのなら私の知り合いがいる、学生時代からの友人だ、紹介状を書いてやる、デビュタントの時までに用意しておくから共和国に行くなら持って行け」
紹介状?会員制?一見さんお断り?祇園みてぇな国だな、でも丁寧ドワーフのガンツもいるしそこまで必要無いかな?でもせっかくだし
「ありがとう、エリックの顔にドロを塗らない様に気を付けるよ」
「そうしてくれると助かる」
その後は砂糖工場の進捗や他領からの人材派遣の話なんかも聞いた、どうやら砂糖工場は国をあげての事業になるらしく、10年以降はティンダー以外の街や都市でも生産をするそうだ。
「んじゃまた来るね」
「うむ、屋敷まで送らせよう」
「ありがとう、助かるわ」
エリック邸の用事も終わり、ネロにコール後すぐに屋敷の地下室からクランハウスに転移した。
「ごめん、待った?」
さぁ!お決まりの文句を言ってごらん!
「別に平気だぞ?どうした急に」
ですよね……気を取り直して
「んじゃ早速新魔法の確認しようか、マーキングするね!」
「メイはいつでも行けるよ!」
待機していたメンバーにマーキングして地図を取り出す、カタストロフ島に場所を指定して魔法を発動した。
一瞬で景色が変わり絶海の孤島に到着、欠員も無いのでオクト達にダンジョンに入ってもらい、離れ離れになったのを確認してから魔法で引き寄せると、こちらも大成功、どうやら問題は無さそうだ。
「うん、やっぱりポータルとは違うね、発動までの時間もヨーコの方が数倍早い」
「あぁ、便利だな!言うこと無しだ」
「これで世界を旅するのも楽になるね?私が選ぶ今の生活を楽しむ魔法、中々良いチョイスだったでしょ?」
今回の試運転でこの魔法の欠点が一つ発見出来た、それは平面転移は出来るがダンジョン内を指定出来ないので直接ダンジョンに入るのは不可能だという事、大した問題じゃないけど、そこまで考えてなかった。
このままストレートにリトルティンダーに帰るのは勿体ないから、下見がてらミルザ近くの漁村に寄ってみた、早速ダストスライム臭の洗練を受けたが、村自体はそれほど大きくない、規模から計算して人口も1000人くらいだろうか、私達が行った時間が良かったのか、丁度漁を終えた小舟が沢山帰って来た、私達は漁師から直接海産物を買い取るための交渉開始、様々な魚が水揚げされていて、目移りしてしまう。
「漁師さん、お魚が欲しいんだけど売って貰えないかしら?」
「おうっ!構わねぇよ?冒険者か?」
「はい、ティンダーで冒険者やってます、おすすめのお魚ってありますか?」
漁師は気さくな感じで色々教えてくれた、大きな海老やカニもあったのでまとめて購入、海老はオマール海老っぽい、カニは大きなワタリガニとかイシガニっぽい、どちらも美味しそうだ!売り物にならないような雑魚も格安でゲット出来た、こういう魚が美味しいんだよ、多分。
合計しても大銀貨4枚程度、多少ボラれてるかもしれないけど、次回来た時にも快く購入させて貰えるように印象を良くしておきたいし、何よりも新鮮だからね、海老やカニはまだ生きていて美味しそう。
漁師さんの案内で女性達の所へ向かうと、そこには前世のアワビやサザエに似た貝が水揚げされていて、多分素潜り漁だろうか?でも水中メガネとかしていないからみんな目が真っ赤に充血している、ジューンが魔法で回復してあげると大喜びで貝を安く売ってくれた。
女性達の案内で次に向かったのは砂浜、そこでは年配の女性達が籠に沢山の貝を入れていて、よく見るとハマグリに似た二枚貝、ワカメや昆布の様な海藻もあったので全てまとめて購入、それでも大銀貨2枚程度、本当に安くて新鮮な海産物をゲット出来た。
水中メガネとか作ったら売れそうだな~と思ったので早速帰ったら作ってみよう。
海産物を見ながら酒の話をしたら、漁師の皆さんからもお酒を持っていたら売って欲しいと言われたので、ワインと日本酒を試飲用に数本出して味見してもらい、気に入ってもらえたら売ると言ったら、用意した20本が即完売、1本銀貨2枚だからこの世界な相場としたらまぁまぁ高いはずなんだけどね、ひと仕事終えた後に飲む酒は最高だからさ、漁師さんには特に日本酒が人気だったので次回来る時には沢山持って来ると約束した。
この漁村には今後も世話になりそうだから、サービスでエールを2樽置いてきたよ、酒の強そうな漁師さんからしたら水みたいなもんかも知れないけど、エールはドワーフ達のお墨付きだからね、飲み過ぎ注意と伝えて漁村を出た。
漁村から見えなくなった辺りで転移魔法を使ってリトルティンダーへ、細かい指定が出来ないのもこの魔法の弱点、街中にドンと転移したら騒ぎになりそうだからリトルティンダーから10分程の距離に転移した。
クランハウスに到着したら早速夕食の仕込み、漁師に生食はやめておけと言われたので今回刺身は見送り、二枚貝は砂抜きをしておく、魚は鱗を剥がしてブツ切りに、昆布で出汁を取ったスープの中にぶち込む、以前作って食べれなかった豆腐や野菜類を入れた海鮮鍋、ジュライにお願いして教会の2人をご招待、海老はマヨネーズ焼きにして、カニはボイル、サザエ風とアワビ風の貝はガリバタ焼き、ガリバタの焼ける匂いで酒が飲める、海老を見つめるサライちゃんの目がギラギラしていた。
料理も粗方出来たのでいざ実食!
「やばい!美味すぎるわ、鍋が良い出汁出てる、豆腐も最高!」
まさに究極の味、魚も身がホロホロで美味い、タラに近いかな?綺麗な白身で柔らかい身が最高。
「ヨーコお姉さん!海老美味しい!ブリッブリでマヨネーズが良い仕事してますねぇ~」
「カニも美味しいです!見てください味噌がこんなに!脚も太いから食べ応え抜群ですね、味噌つけて食べたら最高ですよ!」
「わお!本当だ!カニ味噌たっぷりだね!私はこれに日本酒入れて~オクト!ちょっと下から炙って!」
オクトが「そんなんで俺の魔法使うな」って言って来たが、お礼に一口飲ませたら「何杯でもやってやる」だってさ、カニ味噌の風味が加わった日本酒は至高だもんね!
マーチとメイちゃんはガリバタに夢中、アワビも固すぎない歯で切れる程よい柔らかさ、いつの間にかジュライとジューンもカニ味噌をアテに日本酒をチビりとやっている、メイちゃんは初めて食べる海老に大興奮、サライちゃんと2人で既に5匹分は食べている、海老味噌が手付かずだったので、やはりオクトに海老の頭を炙って貰って香ばしい味噌にしゃぶりつく、カニ味噌よりも濃厚かも知れない、ミライさんも炙った海老味噌を食べた瞬間その美味しさに驚いていた。
「んじゃ〆の雑炊にしますか!」
「「賛成!!」」
ミライさんとサライちゃん以外はイマイチ意味がわからない感じだったけど、出来上がった雑炊を一口頬張ったらそこに言葉は不要、無言でみんなハフハフ言いながら〆の雑炊を胃袋に流し込む、ミライさんはほぐしたカニ身を味噌に絡めて雑炊にイン、それ絶対美味しいじゃん!と言って真似をした。
「いやぁ~お腹いっぱいだよ、明日はハマグリのパスタにしようかな」
「わぁ!美味しそうですね!」
「明日も遠慮しないで食べにおいでよ、みんなで食べたら美味しさ割り増しだからね!」
食後、ジュライと一緒に教会まで2人を送る、お留守番をしていたノアールに魔力を補充しておく、ノアールは幻獣だから食べ物を口にしないのだ、ちょっと可哀想だけどそれは仕方ない。
下見に行って良かった、足りない物もわかったし、漁港の先には磯が見えたからあそこからの釣りも楽しめそうだ。
チャミーは空気の読める鳥だから、ネロ達と一緒に食事をする、チャミーの驚く顔が目に浮かぶ。
今日も良い一日だったなぁ、明日からも頑張ろう!




