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前世は大工女子の異世界生活  作者: 森林木林森
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情緒不安定は治らない。

 翌朝、いつものようにチャミーとイチャイチャした後朝食をとり、冒険者組を送り出して教会へと向かう、今の時間はまだサライちゃんの演奏中、演奏を聞いているドワーフ達に混ざって最近では女性冒険者の姿もちらほら見る。


 ピアノ演奏の人気が出て来たな~女性冒険者だけじゃなくて、男性冒険者もレッスンを受けたいって人がいるって話だ、教会の中に入れてるって事は、やましい気持ちや害意が無いって事だから純粋に音楽を楽しんでるんだろう。


 演奏が終わり、ぞろぞろと観客が出てくる、あ!入り口にはノアールの木箱まである、あそこで2人を守ってんのか、ちょっと歪な箱だけどなんか味があって良いね、2人が作ってくれたんだろう、箱の中に居るノアールを撫でて行く人もいる。


「なんだよあの子……私じゃなくてもいいんじゃないのよ」


 気持ち良さそうに目を細めるノアールを見てヤキモチを妬く私、そんなノアールと目が合った、彼女は慌てて私の方に駆け寄って来た……てめぇ


「何よ~今更、私がいなかったらちやほやされてご満悦だったくせに」


 でも撫でる、せっかく来てくれたんだから捏ねくり回すように撫でる、勿論魔力を注入しながら、揉みくちゃにされながらも耐えるノアールが可哀想になったのでこの辺で許してあげる。


「貴女の役目だもんね、頼んだ私が意地悪したら貴女が可哀想だわ、ごめんなさい」


 手を離すと二度三度こっちを振り返るノアール、なんだかその仕草が可愛らしい。


 癒しをもらった私はミライさんとサライちゃんの所へ向かう。


「こんにちは~今日の演奏も大盛況だったわね」


「あ!ヨーコさん!いらっしゃいませ、ちょうど今レッスン前にお茶でも飲みましょうって話が出たんです、お時間あればご一緒にいかがですか?」


「喜んで!こんなんならお菓子でも持って来たら良かったなぁ」


 教会の奥からサライちゃんも顔を出して、手を振ってる。


「サライちゃんお邪魔しますね」


「ヨーコお姉さんは顔パスですから何時でも来てください!」


 明るく笑うサライちゃん、本当に来た頃に比べたら雲泥の差だね、出会えた事に感謝しなきゃ。


 中に入るとジュライがお湯を沸かしていた、あんたクランハウスじゃ一切動かないクセに、まぁ彼女なりの礼儀なのかもしれないな。


「ジュライ?珍しいね、キッチンに立つなんて」


「たわけ、妾は師匠達の弟子なのじゃ、当たり前の事じゃろう」


 フンッと言ってティーポットにお湯を注ぐジュライ、なんだか様になってるのが悔しい。


「姉師匠、妹師匠、どうぞ、それとヨーコほれ」


「私にだけ当たりがきっつ!全くもう、お手並み拝見してあげるわ」


 ジュライがネロに作ってもらったであろうピーチタルトをテーブルに並べる、ちゃんと私の分も配られた、そこまで意地悪はしないか流石に。


「あ……くっそぉ!私よりも上手に淹れやがりましたね!」


「なんじゃ?不服かぇ?」


 ニヤリと私を見てフフンと鼻で笑うジュライ、くっそぉ~なんか昔も現場で他の大工に鼻で笑われて悔しくなって「鼻毛オフサイドしてますよ?貴方のツートップが出ちゃイケないライン突破してますよ?」って言って煽ってやったのを思い出した、そいつが慌てて抜こうとしたら奥から仲間(鼻毛)が何本か出て来て「終了間際のコーナーキック現象」とか言って親方と大爆笑したよ、あぁ久しぶりに酒飲みながらサッカー見てぇなぁ、まぁジュライは鼻毛出てないけど。


 ジュライはこの後に話す内容を知っているから、場を和ませようとしてくれてるんだろうね、ありがたいよ本当に。


「今日はね、2人にとても大切な事を話に来たの。」


「「はい、なんでしょう」」


 私はテーブルに一冊の本を出して説明をした、使い方も作った人の事も、2人は目を見合わせて固まっている。


「何故私達に?ヨーコさんは使わないんですか?」


「あ~私向こうじゃもう存在しない人間なんだよ、だからたとえ戻っても両親は赤の他人だし、親方だって覚えてないはず、ほら私豆腐メンタルだからさ、そんな状況の所に戻っても生きて行けないと思うのよ」


「そんな……」


 まだ2人にこの事は話して無かったからね、まぁショックを受けてくれてるけど私自身はもう決心が着いたから。


「2人は転生じゃなくて転移よね?向こうからそのままの状態でこっちに飛ばされた感じよね?」


「はい、2人で買い物の帰りに突然って感じでした」


 楽しい買い物帰りに拉致とかまじでクソ女神だな。


「なら向こうに戻れるはず、書き方一つだけど多分向こうで死んだりしてなければ帰れるわよ」


 帰れるの言葉にサライちゃんの身体が反応する、女子高生だったんだもん、帰りたいよね、スマホも何も無いこの世界より向こうの方が絶対幸せなはず。


「ゆっくり考えると良いわ」


 そう言うとサライちゃんが


「すみません!書いた内容が事実になるんですよね、なら私に考えがあります!ヨーコさんの記憶が蘇るようにしたらどうなりますか?」


 あ~その考えは無かったなぁ、確かに存在があるなら戻ってもいいかな、でも


「ん~私は良いわ、向こうでやり残した事があんまり無いから、それに戻っても40過ぎよ?青春も恋愛も無く一人余生を過ごすだけならこっちでやりたい事をやる方が良いもの、それに……」


 ジュライを見ると彼女が微笑んでいた。


「かけがえのない仲間が出来ちゃったしさ」


「それは精霊の皆さんの事ですね、私達最初から知っているんです、ジュライさんも皆さんも人じゃないって、でも皆さんヨーコさんを大事にしていて、ヨーコさんも皆さんを愛してるのが伝わって来たので……」


 おっふ、マジか、でもバレてもいいか、この2人になら。


「そうだね、彼女達は人じゃない、永遠の時を生きる精霊、でも一緒に生活してるとね、それぞれ性格が違って人間以上に感受性が豊かで、とっても美しくて、約束は守るしお互い尊重しているのよ、それとね私向こうじゃ子供も産んだ事が無いからさ、こっちに居ればワンチャン物好き取っ捕まえて母になれるかもしれないのよ、本当の母親にね」


「私達のお母さんでもありましたよ、ヨーコさんは若干嫌がってる感じでしたが、この世界に来て初めて安心出来る人がヨーコさんです、こんな素敵な場所を私達にくれたのもヨーコさんです、私達が寂しくなくなったのもヨーコさんが居てくれたから、精霊さん達もそんなヨーコさんが大好きなんでしょうね」


 あ~嬉しいです、年取るとさちょっと嬉しいだけで目がウルウルしちゃうんだよ、そんなストレートに感謝されるとさ泣きたくなる訳よ、今はみっともないから我慢してるけどさ、私だってどんだけ2人には救われたか、日本人だってわかった時には恥もかなぐり捨ててワンワン泣いて、一人じゃなかったって安心させてもらってさ、娘や妹みたいな感じで接してたんだ、こっちがお礼したいくらいだよ。


「ヨーコお姉さんは私達が帰った方が良いって思ったんですよね?」


「うん、2人にはまだまだ可能性に溢れる未来があるからね、元の世界で幸せになって欲しい」


「わかりました、後はお姉ちゃんとじっくり話し合いをして決めます」


「サライ……そうね、そうします、このアイテムはどうしますか?」


 ミライさんがアイテムを見て聞いてきたので


「預けておくわ、元々そのつもりだったから」


「わかりました、私達のタイミングで使って良いんですね?」


「うん、帰る時には一声欲しいけど、私が邪魔になったらいけないから、2人に任せるよ」


 今の私どんな顔してるんだろう、気持ち的には笑ってるはずなんだけど、上手く笑えている気がしないや、自分で言っといておかしいけど、私って2人にとって邪魔じゃなかったよね?あぁ頭がパンクしそうだ、早めにこの場を去ろう。


「じゃ、私は行……ちょっ!」


 ミライさんとサライちゃん、ジュライまで私を抱き締めた、あれ?私また変な顔してたのかな?ごめん迷惑かけてる、ごめんすぐにここから出ていくから、ごめんね邪魔するつもりじゃないからさ、ごめんなさい笑顔で送りたいのに、本当にごめんなさいどうやっても涙が止まらないんだ……寂しいよ。


 結局泣いちゃったよ、だってさ私2人の事大切なんだもん、本当に大好きだからいなくなるなんて嫌だよ、私を置いてかないでよ、私を一人にしないでよ、私を忘れちゃ嫌だよ……幸せになってよ。


 矛盾だらけの感情、建前と本音、メンヘラ拗らせた面倒臭ぇ女みたいだ、はぁ~何時まで経っても成長しねぇなぁ私も……


「あはは、なんで私が励まされてんのさ、私は大丈夫、大丈夫なんだってばぁ、気にしないで自分達の事考えてよ、ねっ?お願いだからさ」


 嘘……嘘だけど本当、でも本心じゃない。


「師匠、妾ちょっとヨーコのそばに居てやりたいのじゃが、今日のレッスンは休んでも良いだろうか?」


「何言ってんのよ!ジュライは2人から沢山学びなさいよ!私は平気なんだから!大丈夫だから気にしないでよ」


 これも嘘……お願いジュライ助けて……


「いい加減にせい!たわけが!何が平気じゃ!何が大丈夫じゃ!心底悲しんでるのはお主じゃろがっ!人の機微に敏感なミライとサライの2人がそれを感じぬとでも思っておるのか馬鹿者がっ!」


「だってぇ……」


「だってもクソもあるか馬鹿者!貴様は今日ここに来て、一言でも本音を話したか?本心で2人に語りかけたか?大して大人でもない貴様が大人ぶって嘘をついた所で2人にはまるっとお見通しじゃ!先にサライがなんと聞いてきた?帰って欲しいのか聞いてきたじゃろ?待ってる言葉が違うんじゃボケ!欲しい言葉が違うんじゃバカタレ!良いか?貴様が思っている程2人は子供では無いぞ、お主の想像以上に2人はヨーコを大切に思っておる、妾達はな取り繕うのが下手くそで嘘のつけない不器用なヨーコが大好きじゃ、恥ずかしがるなイキがるな、何を言っても妾達は全て受け止めてやる」


 散々な言われようだ、なんだよ~くっそぉ貴様って言うなよ、本音だって言えるんなら言ってるよ、でもそれ言ったら2人は帰れないじゃんよ!


「んじゃなんて言えば良いんだよ、アホジュライ!」


「簡単じゃ本音を言えば良い」


 だからぁ~


「ヨーコさんは私達がいなくてもなんとも思わないですか?」


「それは意地悪な聞き方だよミライさん」


「ヨーコお姉さんは私達が嫌いですか?」


「サライちゃんまで、それも意地が悪いよ!」


 なんだよみんなしてよ~


「ほれ、聞かれとるぞヨーコ、大人ならちゃんと応えてやらにゃいかんじゃろ?クククッ」


「うっせぇジュライ黙れ!あと笑うな、ったくみんなして意地悪しやがって、私は寂しがり屋なの!その上、豆腐メンタルでガラスのハートなんだぞ、そんな私の本心?すっごく揺れてるよ、大前提として2人には帰って幸せになって欲しい、でもこっちに残って一緒にいて欲しい気持ちも大きい、けどそれは私の希望なの、ワガママなの!2人のこれからの事を邪魔する権利は無いの」


「「邪魔じゃないです」」


 え?なんて?


「私達、今までヨーコさんの言葉や行動を邪魔なんて思った事一度も無いです、誰かに邪魔だと言われたんですか?その人今すぐ連れて来てください、どんな手を使っても謝罪させます!」


「うん、ヨーコお姉さんは私達を救ってくれたんです、それにピアノも作ってくれて私達の夢まで叶えてくれた、感謝する事はあっても邪魔だなんて思う事はこれから先も無いです、これは私達の意思です、誰かに言わされている訳じゃありませんから!」


 ふぇぇ~また泣いちゃうじゃんよ。


 結果ジュライ以外大号泣、取り繕う事無く話していればって後悔した、最終的な結論は2人に任せる事にした、アイテムも預けて使用するタイミングも全て彼女達の意思に任せる、でもちゃんと帰る時には声掛けてって言っておいた、盛大にお別れ会するからさ。


 想像以上にへタレだと自覚したよ、無理するのも良くないしバレてるのもわかった、この前私が大人の女とジューンとジュライに言った時、笑われた意味が少しわかってムカつく、ちくしょうめ!こうなる事がわかっててジュライは同行するって言ってたんだな?


 そういやジュライがまるっとお見通しとか言ってたっけ、久しぶりに聞いたな~もしかして大昔の共通語なのか?


 私は泣いてスッキリしたから一人で教会を出た、ジュライにはちゃんとピアノを学んで欲しい、2人から音楽への考えや演奏を引き継いでもらいたいからね。


 あぁ~、改めて考えたら恥ずかしいなぁ、でも嬉しかったよ2人にそんなに思われていたなんて、てっきり世話好きの近所のおばちゃん程度にしか思われてないと思ってたからね。


 明日はティンダーに行かなきゃいけないし、ってどうしよう!明日2人が居なくなってたら!そう思ったらティンダーなんかに行ってらんない、教会に張り付いてなきゃ!


 待て待て待て、それってストーキングじゃね?ストーカーってこうやって出来上がるんだね?なるほど!じゃなくて 、とりあえずタブレットは肌身離さず持ってよう、明日の朝にちゃんと教会に行って、帰る時に私がいなかったらタブレットに連絡ちょうだいって言っておかなきゃ!


 挙動不審で落ち着きの無いストーカーおばちゃんの私は、その後も教会の周りをうろちょろしていた、明らかな不審者、前世なら間違いなくお巡りさんあのおばさん変なんですって通報されてるよ。



 ~~~姉妹side~~~


「ジュライさん、今日はここまでにしましょうか」


「うむ、妹師匠了解じゃ、今日も勉強になった感謝する、それとヨーコが素直じゃなくてすまんな」


「ヨーコさんって可愛らしい人ですよね、純粋で素直じゃなくて、でも温かい人で、たまに話にでるヨーコさんの親方さんみたい」


「目標と言っておったからな、似たんじゃろ」


 ジュライさんは長い間眠っていたとさっき聞いた、ヨーコさんを想う気持ちがストレートでかっこいい、私も大人になるなら彼女の様に自分の発言に自信をもてる大人になりたい、さっきのジュライさんがカッコよくて今日ファンになっちゃった。


「お姉ちゃん?」


「大丈夫だよ分かってる、今日は少し早めに教会を閉めようか」


「うん」


 サライは人の気持ちを感じ取るのが敏感だ、アーティストらしいと言えばそうだけど、害意にも晒されやすい、コンクールなんかで何度も入賞するうちに、周りの人の視線が気になるとナーバスになる時もあった、でもここに来てからは随分とイキイキしてる、演奏も以前まで少し苦手だったテンポの早い曲が今では得意分野になっている、気持ちが乗るって言うのはこの事かもしれない。


 私達は向こうの世界では2人とも学生で、親の敷いたレールの上を歩いていた、サライは両親からの期待を一身に背負い常に我慢をしていたんだと思う、私はサライ程の才能が無かったので早々にそう言ったものは無くなったけど、泣きながら鍵盤と向かい合う彼女に申し訳なさと自分の不甲斐なさを感じていた。


 今日異世界の私達の母であるヨーコさんからとても不思議な物をもらった、大昔の転生者が残したアイテムだそうだ、その人は元の世界に帰りたい一心で様々なアイテムを生み出した、結局その人が帰れたのかは不明だけど、拠点にしていた場所にはその人の形跡は無かったと聞いている、無事に帰れた事を祈りたい。


 当のヨーコさんは元の世界では存在しない人になってしまったので、自分でそれを使うことは無いと言って私達にくれた、正直私は帰らなくても()()平気、サライがあんなにイキイキとしてピアノが弾けるのなら、こちらの世界で生涯を終えても良いとすら思っている。


 それも全てヨーコさんのおかげだ、彼女がいなかったら私達はあのすきま風が入り込む教会で一生を終えていただろう、サライもそれは感じているはず。


 この世界に飛ばされて来て、幸せだって思った事はヨーコさんと知り合う前まで一度も無かった、常に帰りたい一心で魔物を倒したり希少鉱物の採取をして、帰れるか分からない可能性にしがみつき日々過ごしていた。


 でも今は温かい部屋にフカフカの寝床、祝福された畑で取れる作物をおなかいっぱい食べる事が出来る、お金だってお祈りに来る方々が寄進してくれて、ヨーコさんも最初はお金がかかるからと大金を置いて行った、衣類に関してもヨーコさんが用意してくれて助かった、この世界に来てずっと使っていた肌着や下着はボロボロになっていて、今でもそれは大事に取ってある、辛い時はそれを見てこの時よりも恵まれている事を忘れないために、お守り代わりみたいな物。


 お守り代わりと言えば、最近ヨーコさんの猫ちゃんがよく遊びに来る、ノアールという全身真っ黒なレディ、とても綺麗で賢い子、ヨーコさんの話だと本来はもっと大きくで美人さんだと言っていた、ノアールは教会に来ると中には入らずに入り口の床にいる、床じゃ痛いだろうと私達がベッドを作ってあげた、ベッドと言っても歪で不格好な木の箱、下に藁を敷いて上に布を被せただけの簡易的なベッド、ノアールは最初躊躇していたけど一度入ったら気に入ってくれたのか毎日入ってくれている。


 チャミーって名前の喋る小鳥も最近は常連さんで、いつも決まって開いた窓の上に居る、サライの演奏がお気に入りでたまに翼を広げて踊るような仕草を見せる、ヨーコさんの話ではガルーダと呼ばれる神鳥らしく、本来の姿は飛行機くらい大きいそうだ、チャミーに乗って空の散歩に連れて行ってくれると言っていたので楽しみだ。


 思い返すとやっぱり私はここに来て幸せだ、もし帰れたとしてもそれを選択はしないと思う、確かにテレビもスマホも無いけれど、向こうにいた時から私達は依存していなかったし、毎日が充実しているせいか暇な時間がそれ程無い、キッチン、トイレ、シャワーはヨーコさんのおかげで向こうとほとんど変わりないし快適だ、多分サライも同じだと思っている。


 私の気持ちは決まった、後はサライに伝えなきゃ、あの子はどうするつもりだろう、気になるけど今まであまり意見が違った事は無い、サライも私と同じなら嬉しいな。


「お姉ちゃん、戸締りしてきたよ、ノアールちゃんは今日はヨーコさんの所に帰るみたい」


「そっかぁ、今日は一緒に寝れないのか残念」


「お姉ちゃん、私ね帰らないよ?」


「うん」


 予想はしていたから驚かない、だって今私達幸せだもん。


「やっぱりお姉ちゃんも?」


「うん、そうだね、聖皇国にいた時は毎日帰りたいって思ってたけど、ここに来たら帰りたい気持ちは無くなっちゃった、でもお父さんとお母さんにはどうにかして伝えたいんだよね」


「ふっふっふ、私もそれは考えて、あのアイテムを使おうかと思っておりますであります!」


「な~に?その喋り方」


 サライの提案を聞いて、私もそれが可能ならと賛成をした、そして2人で文章を考える、どうすればお互い幸せなんだろうか、両親にこっちの世界で生きていると伝えれるか考えた、そしてもう一つ、それはヨーコさんへのサプライズになるだろうと。


「まるで悪巧みする悪党みたいだね私達」


「本当にそうね、回数を制限すると縛りがついちゃうから、任意って曖昧な感じにしようか」


「う~んだけど頻繁にじゃちょっと有難みがないんじゃない?」


「そうかな、私は有難みよりも日常的にの方が良いかな」


 私達は夜まで話し込み、文章を完成させて何度も読み返し、変な表現は無いか、知らずに縛りをつけていないか確認した。


「良いんじゃない?どうかなお姉ちゃん 」


「そうね、何度読み返しても変な所は見当たらないね、大丈夫そうよ」


「んじゃ早速書いてみる?」


「もっちのろんよ!フフッ!ヨーコさんの真似してみたけど恥ずかしいね」


 その夜私達はアイテムに完成した文章を書き込んだ、結果とても幸せな時間を過ごす事が出来た。



 ~~~~~~~



「ジュジュジュライ!もう教会に行くの?早くない?」


「なんじゃいつも通りでは無いか……ふぅ全く世話の焼ける、一緒に来るか?来ないか?」


「ひゃい!行きましゅ!」


「カミカミではないか、少し落ち着け、たわけが」


 私はジュライと一緒にビクビクしながら教会へ向かう、教会の窓が開いてない、扉も閉まってる!あぁ~もしかしたら黙って帰ってしまったのかも。


 そう考えたら一気に老け込んでヨボヨボになり、教会の後片付けなんかを考えていたら


「あ、おはようございますヨーコさん、今日はちょっと寝坊しちゃって」


「ヨーコお姉さんおはようございまっす!」


 もう泣きそうなんだが?目がウルウルなんだが?2人の顔を見た瞬間一気に曲がった腰がピンと伸びて若返った私。


「おはようございますミライさん、サライちゃん、その……元気?」


 な~にが元気?だよちゃんと聞きたいこと聞け私っ!


「師匠、ヨーコは2人が心配で一睡もしとらんようじゃ、阿呆じゃろ?まぁ妾も気になっとるから聞くが、アイテムは使ったのかぇ?」


 阿呆って言うな!阿呆だけど、聞いてくれてありがとうジュライお姉ちゃん!


「はい、使わせていただきました、ちゃんと両親にも会えました」


「最初お母さんがボロボロ泣いちゃって大変でした、でもわかってくれましたよ」


「え?どゆこと?おばちゃんに分かるように説明してもらえる?」


 2人の説明を聞いて、あぁ~そう来たかって感じだった、でも気になるから聞いてみよう。


「帰らなくても良かったの?」


「ヨーコさんが一緒なら帰ったかもですね、私達だけで帰る選択肢は無かったですから、一緒に帰って私がヨーコさんを養うまで考えましたよ」


「うんうん、ヨーコお姉さんはほっとけないからね、そうなったら私もバイトするぞって、だって一緒に居たいから」


 おばちゃんすぐ泣いちゃうからダメよダメダメ!


「全くもうっ!2人でおばちゃんをからかって、後悔してないの?」


 2人は揃って頭をコクリ、正直安心した、本当に教会の扉が閉まってるの見た時は心臓が口から飛び出しそうになったよ。


 しかしよく考えたな、本人達は私からアイテムを受け取った時に最初から帰るつもりが全く無かったそうだ、でも両親には生きている事を伝えたい、そう考えた時に彼女達が悩み搾り出した答えは「夢に出る」だった、彼女達もご両親も寝ているのが条件になるが、召喚された時に時差はほとんど無いと女神が言っていたのを覚えていたんだとか。


 それで回数や時間の制限を作らず、緩い設定で発動する様に記入、尚且つ夢の中では向こうの情報が取れる様に工夫もした、それは私が以前化学に詳しい人が欲しいと言ってたのを彼女達は覚えていて、両親に情報を貰うんだとか、夢の中では制限が緩く、向こうの世界で食事を楽しむ事も出来る、あくまでも夢だから腹が膨れる訳では無いが味や香りは分かる様に書いたんだと、料理の味や見た目を両親が記憶していれば目の前に現れて味見する事が可能らしい。


 化学に関しては両親も苦手でインターネットを使って調べるそうだ、○○を作るためには○○が必要とかその程度らしいが十分だろう、○○は何から抽出するとかも分かるから欲しい情報があればメモして渡してくれと言われたよ、正直ビックリだね、勿論やり方もそうだけど1番はご両親、ハッキリ言ってこんなのは荒唐無稽な話だ、それをちゃんと信じたんだから、余程2人は向こうで両親に愛されていたんだろう。


「でもさ、夢の事って起きたら忘れちゃわない?」


「そうですね、だから私達も両親も起きてから10時間は夢の内容を覚えているって仕様にしました、覚えているうちにメモを取れば忘れても平気ですよね?」


 お手上げっす、多分私はそこまで計算しないで実行していたと思う、流石だね。


 とにかく安心した私のお腹がキュルルルとなんか食わせろと鳴り出した、恥ずかしいので2人にまた来ることを伝えてクランハウスに戻った。


「ヨーコ様おはようございます、朝食はお済みでしたか?」


「ネロ、おはよう、朝ごはんお願いしても良い?」


「かしこまりました」


 すぐにネロが食事を準備してくれたのでしっかり食べよう、昨日の夜は気が気じゃなくてあまり食べれなかったからね、その分を補充するかの如く食べまくる。


「ネロ、今日はティンダーに居るから、もし急用があったらコールしてもらえる?エリックの所にいるからさ」


「はい、かしこまりました、ですが私も食材の購入に行く予定でしたので、ジュライ様が戻り次第ティンダーに向かいます、それまでの時間ですがよろしいでしょうか?」


「えぇ大丈夫、いる間だけで平気よ」


 朝食も終わりお茶を飲んで一息つく、朝食中にダンジョン組は出発して行った、早ければ明日には100階層を突破出来そうと言っていた、それに合わせて私も調整しなければ。


 そのためには今日の仕事を早く済ませておかないと、最大の鬼門はエリックの奥様ね、彼女に捕まったら小一時間は時間が取られると判断しなくちゃ、捕まらない為にも準備は抜かりなくしておかないと。


 よっしゃ、全てぶち込んだから後は一応正装して行った方が良いのかな?たまにはドレスっぽいのも着てみるか、そういや執爺が9時に迎えに来るって言ってたな、今はまだ8時前だからちょいと着替えるか、髪の毛もアップにしてスリムタイプのドレスとか着てみっかな~あんまり着てる人見た事ないけど、いや肌の露出が激しいとなんか言われそうだからスーツスタイルにしよう、前にエリックも見てるはずだし、メイクも軽めにしてさりげなく奥様にアピ……あぁ~アピールしたらあのマシンガントークに捕まるよな、面倒臭いけど仕方ないか。


 スーツスタイルに着替えて髪を後ろに縛った、化粧もしてアクセサリーは着けないで行こう、話題を極力避けるために。


 マリアンヌさんは悪い人じゃないのは分かっている、話が長い事以外は、こっちに注意が来ないようにドレスのデザイン画も30程用意してある、大丈夫だろう、時間も押してきたので地下室からティンダーに飛ぶ。


 屋敷に到着、窓の外を見る限りまだ執爺は来ていないようだ、とりあえず庭園を見るふりをしながら外に出てみるか。


 外に出ると同時に執爺がやって来た、どっかで見てんじゃね?って思うくらいのタイミング、私は執爺の馬車に乗り込みエリック邸に向かった。

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