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前世は大工女子の異世界生活  作者: 森林木林森
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カタストロフ城

1日が27時間あれば良いのになぁ。

「チャミーおはよう、いつもありがとう、凄く気持ちよく眠れるわ、チャミーが窮屈だったら教えてね、すぐ止めるから」


「大丈夫なりよ、チャミーも誰かに抱き着かれて眠るなんて経験無かったなりから、とても新鮮で幸せを感じてるなりよ」


 チャミーごめんね~ライカに連れてこられた貴女を見て、鳥頭とか馬鹿とかビール瓶を投げる可愛がりとか思ってた私を許して~今では最高の癒しだから、もうチャミー無しでは安眠出来ないくらいよ。


「チャミー教会行くの?」


「行ってくるなりよ~」


「行ってらっしゃい」


 チャミーを見送り、今度はノアールを召喚してみる。


「ノアール出て来て」


 景色が歪み小さくなったノアールが出て来た、昨日と同じく頭をスリスリして来たので軽く一撫でして食堂に降りる。


「ほら私の勝ちね」


 降りてきた私達を一目見るなりジューンがマーチに勝ち誇っている。


「ヨーコ、もうちょっと節操のある人だと思ってたのに……」


「何よ朝っぱらから、人をアバズレみたいに言ってなんなの?」


 どうやら昨日の夜に、私が早速召喚するかしないかの賭けをしていたようで、ジューンは好奇心旺盛な私が試さない訳はない方へ、マーチは流石に初日に呼び出す事はしない方へ賭けたらしい。


「試しに呼ぶに決まってるじゃない、イザって時にあたふたするより良いでしょ?」


「それはそうなんだけど、ヨーコは獣の類は嫌いだと思ってたからさ、意外だなって」


「獣じゃなくてノアールね?次に獣って言ったら正座プラス説教だからね」


 こんなに人懐っこい獣なんていませんから!


「お姉ちゃんおはよう、その子が新しい仲間?」


「そうよノアールって名前を付けたの、メイちゃんも可愛がってあげてね」


 ノアールの頭を撫でるメイちゃん、心なしかノアールの動きが固い気がする。


「門番なのです!小さいのです」

「マインは良く覚えてないなのです」


 マインとレーラを見たノアールはカッチカチに固まった、明らかに上位者と見て緊張している、何度も倒された記憶でも残ってるのかな?


「もう仲間だから倒さないのです」

「可愛がってやるのです!安心しろなのです」


 双子もノアールをナデナデ、ネロも顔を覚える為かひょこっと顔を覗かせた。


「ねぇ誰か知ってたら教えて欲しいんだけど、ノアールみたいな幻獣は何を食べるの?」


「ヨーコの魔力を与えれば大丈夫だよ、主人の与える魔力量によって幻獣は強さが変わるから、まぁヨーコの魔力量ならノアールはイービルタイガーの強個体になるだろうね」


「ふーん、どうやれば良いの?」


「ノアールの頭に手を当てて魔力を流し込めば良いんだよ、撫でる時に魔力を込めたら良いんじゃないかな」


 試しにやってみると、明らかに毛艶が良くなり、喜んでいそうに見える。


「そんな感じだね、ずっと召喚していても平気だけど、その分魔力をあげないと直ぐに弱るから気をつけて、今の量だとだいたい2日分くらいかな、十分過ぎるけどね」


「ノアール、私の仲間おぼえるのよ?間違っても引っ掻いたりしちゃダメよ?今から行く所の人達が困っていたら助けるのよ?わかった?」


 頭をコクコク上下に揺らして理解してくれたようだ、中々賢いなこの猫。


 ノアールと教会に行き2人の顔をノアールに覚えさせる為に挨拶をする。


「おはようミライさん、サライちゃん」


「おはようございますヨーコさん」

「おはようございますヨーコお姉さんと……猫ちゃん?」


 サライちゃんがノアールに気付いてくれたのでノアールを紹介する。


「ノアールって言うの、今は猫サイズだけど、もうちょっと大っきいのよ、比較的自由にさせるから、2人の顔を覚えさせにね、人の言葉をある程度理解するから、ノアールこの2人は最優先で護るのよ?」


 コクコク上下に頭を振った、理解したみたいね、私が魔力をあげついでに頭を撫でる。


「私達も撫でて良いですか?」


「苦手じゃ無かったらどうぞどうぞ」


「わぁ柔らかい、可愛いねぇ~ノアールちゃんですね、顔が美人ですから、私はミライです教会にも遊びに来てね」


 へぇ~顔でわかるんだ!猫好きなのかなミライさん。


「本当に美人だねノアールちゃん、毛艶もツヤツヤで綺麗、チャミーちゃんの毛もフワフワだけど、ノアールちゃんはまた少し違うフワフワだね、私はサライだよ、覚えてくれたら嬉しいな」


「ノアールどうする?教会に居る?私出かけるからここにチャミーと居る?って2人に迷惑じゃない?」


「「大歓迎です」」


 どうやらミライさん達は元の世界で猫を飼っていたそうで、猫は大好きらしい。


「チャミー、ノアール教会に預けるけどトラブルがあったら2人をよろしくね」


「大丈夫なりよ~ノアール一緒に任務なり、2人の邪魔にならない所で見守るなり」


 チャミーにコクコクしてるから大丈夫そうだ、ノアールはやっぱり2人の元に居た方が良いんじゃないかな、私はチラッと召喚の指輪を見た、でもなぁ中々どうして可愛いんだよな。


「それと、メトロノームの設計図仕上がってたら貰っていこうかなって思って」


「あ!はい!仕上がってます、今持って来ますね」


 小走りで教会に戻ったミライさん、サライちゃんはノアールに夢中、お腹を撫で回していた。


 戻って来たミライさんから軽く説明を受けてクランハウスに戻ってきた。


「ネロ~しばらく工房に籠るから、何かあったらコールしてね」


「かしこまりました、行ってらっしゃいませ」


 さぁて作りますか!


 まず最初に始めたのはメトロノーム、さっき聞いた説明が頭の中で温かいうちにやっつける、チックタック単純な動きをしているが、その仕組みは思わず唸る様な仕掛けになっていた。


 ゼンマイを回して動かすのだが、オルゴールやゼンマイ式おもちゃと違い、ゼンマイが止まる仕組みになっている、そしてあのカチカチと鳴る音は内部の歯車が止まった時に鳴る音、振り子の重りの位置でテンポが変わるなど知りもしなかった。


 チート能力のおかげであっという間にメトロノームが完成、あとは正常に動くかだが……チックタックチックタック決まったテンポで動いてると思う、その辺はミライさん達に確認してもらうしかない。


 早速届けてあげたいが今頃はサライちゃんの演奏中、1度表に出てネロに届ける様に頼むか。


「ネロ~これ今のピアノ演奏が終わったら教会に届けて欲しいんだけど、勿論手が空いてたらで良いからさ、お願い出来る?」


「はい、かしこまりました、私も流れてくる演奏に耳を傾けておりました、終わり次第向かいます」


「ありがとう、よろしくね」


 再び工房に戻り作業を開始する、まず作ったのはネロ、マインとレーラの普段着と部屋着に寝巻き、双子には少し小さく作った革のリュックランドセル風、ネロにはユグドラシル製のカチューシャ、前にお風呂でネロの髪を洗ってあげた時、おでこ出したら可愛かったから、そうだ!洗顔用のシュシュなんかもあると便利よね、それも作ってみるか、伸縮性のある生地は~コレにしようかな。


「みんなの夏服も作っておこうかな、とりあえず身内の物から、後で必要になってバタバタするなら思い立った時にやっておかないと」


 黙々と作り始める、ハイスピードで仕上がる品々、ヴィラー様の加護は本当に助かるなぁ。


 一通り作り終え、作業台の周りには大量の品、通気性の良い生地で作った洋服や、キャップに大地の教会用の麦わら帽子まで、生活用品もある程度補充出来るように作り置きもした。


「さてと、次はピアノをやりますか」


 まず作るのはピアノのフレーム、鉄骨って言う人もいるがその部分を作る、この前の様な緊張感もなく、ゾーンに入る気配もない、ただ黙々と作業を進める。


 多分私だけじゃないと思うけど、ゾーンに入る時の気配がある、例えばいつもより神経が過敏だったり、目覚めから頭がハッキリしていたり、今朝の私にはそれが全く無かった、もしかしたら緊張感や高揚感が私のトリガーなのかもしれない。


「でも、こういう時って何を作っていてもつまらなくなるんだよね」


 流れ作業のようにやる工程、心が踊らない、やり続けたらスランプに入りそうまである、無我夢中に作るか徹底的に遊ぶか、どうするかな~今何時だ?……よし。


 ブツブツと独り言を喋りながら外に出る。


「ネロ~ちょっと出かけて来るから、帰って来たらまた工房に入るから、夕食はいらないからね。」


 作ってもらったら申し訳ないからさ、んじゃ地下室行きますか、さっき思いついた息抜きにカタストロフ城まで向かう。


「気が乗らない時は、美しい美術品を見てやる気を出さなきゃ」


 一応ダンジョン最下層なので武器も装備しておく、いきなり襲われたら身体に傷はつかなくても心臓バクバクするからね。


 カタストロフ城の外壁を見て回る、外壁はレンガかと思ったけど違う、なんだろ、モルタル?……これ多分コンクリートだ!えっ?なんで?魔族にはコンクリートの知識がある?


 材質的にはコンクリートそっくりだし、もう少しじっくり見てみたいな、前世にもローマンコンクリートって古くて配合不明で再現不可の丈夫なコンクリートがあった、確か火山灰が主成分で瓦礫なんかを骨材にして混ぜているからとても強く、あのコロッセオもそうだってテレビの特集で見たっけ。


 実際にコロッセオとか見てないからローマンコンクリートと同じか分からないけど、どちらにせよそれに似た知識があったのね、異世界の建築材料って、ドワーフの漆喰みたいな謎素材もあるから凄く興味深い。


 何千年って経ってるのにほとんど崩れてない、確かに外気自体あまり当たらないし、海風なんかもダンジョンで遮られてる、ほぼ無風状態だけど状態が良すぎるな、湿気もあまり無いからかな。


 城の内部、玉座の間には所々に戦闘傷があった、あそこでマーチ達が戦ったんだから仕方ない。


「上から見てみたいな、ちょっと探検してみるか。」


 外壁から門をくぐり城の内部に戻る、壁伝いに城壁に登る階段がないか探して歩く、パッと見だけど城と城壁は接してないからどこかにあるはずだ。


「ん~見当たらない、ちょっと匂うのはこの凹凸よね、何となくハシゴみたいになってるから、これを使うのかな、ちょっと恐怖だなぁ」


 私が登って崩れたら悲しいから固定の魔法陣を描いてみる。


「バチッ!!痛っ!なによっ!?」


 魔法陣を描いていたら電気の様な衝撃があった、それはまるで他の人が手を加えるのを拒む様に。


「弄るなって事?それとも登るなって事?」


 ちょっと怖いけどハシゴ風の凹凸を使って登ってみる、垂直でしかも後ろに支えがない、気を抜くと後ろに身体が持っていかれそう、出っ張りを掴む手に力が入る。


「ん~ヨイショ!ハァハァ、登れた」


 カタストロフ城は高さがあまりない、外壁より屋根分だけ背が高いくらい、ちょっと正面側から見てみたいかな、外壁の上を正面に向かって歩くとコーナーに見張り塔があり、木造の扉が見えて来た。


「ここで鍵開けないとダメとか無いよね?……良かった、開いた」


 見張り塔の中は円形の壁に沿って階段が掛かっている、下にも行ってるから外に出れんのかな?上も行ってみたいけど、それよりも正面だ、やっぱり門の上も通路になってる、視点を変えて城を見れるね。


 外壁の上の通路も石畳の様に規則正しく石材が敷かれている、材質はザラザラしていて、まるで滑り止めの様だ。


「そうだよな、籠城とかになったら城壁は要だから上がツルツルじゃ意味ないよね、私の身長で腰より上くらいの壁?って言って良いのか分からないけど、身を隠せるくらいの高さの壁、あれ?外側の方が30センチくらい低い、なんか意味があるのかな?」


 外からの敵に対しての外壁なのになんでだろ、おかげで内側から城が見難い。


「そうでも無いや肘をついてちょうどいい高さかも、はぁ~やっぱり上から見ても良いわぁ~」


 カメラがあれば写真に収めたいな、ピンホールカメラとか小学校の夏休み工作で作った友達居たな、原理は簡単だったから作れそう、でも印画紙やフィルムが無いか……あれ使えるかも8ミリビデオカメラの、いや無理か電源が無いや、磁石とコイルで電気作れるらしいけど原理がわからん、うぅぅ昔現場で熱く語っていた電気工事士君の話ちゃんと聞いとけばよかった。


 仕方ないか、興味無かったんだもん、基本目に見えないものを私には作れないと思う、理解力がイマイチ無かったから見える物しか信じられない、アナログだよね、時代はデジタルだってのに、子供が出来たら絶対に化学の勉強をさせよう、ってこの他力本願な考えは良くないな、自分も少しくらい興味持たないと。


「今はこの目の前にある、最高の建物を堪能しよう」


 しばらく城を眺めて堪能出来た、それじゃ見張り塔の中を探検するか。


 来た道を戻り見張り塔へ、まずは上から、階段と言っても手すりは無く一つ間違えば真っ逆さま、階段も外壁の通路の様に滑り止め仕様、よしっ展望台?に到着!


「うわぁ、凄いや、全部見える」


 見張り塔からの景色はまた特別で、眼下にカタストロフ城が見える、真上ではないが良い角度、城の外も一望出来る。


「しかし不思議よね、この明るさはどこが光ってんだろ、迷路みたいなフロアは暗いのに、フィールドフロアは明るい、なんでだ?帰ったらマーチに聞いてみよう」


 これは本当に不思議、フィールドフロアとゲートキーパーの居る場所は何故か明るい、しかも天井が明るい訳じゃなく、光の出先がわからない、これって研究したら面白そうよね。


 見張り塔からの景色も堪能し、今度は下へ降りてみる。


「え?あ!?えっ?」


 私はヒップバッグからライトを取り出し照らす。


「外壁の間って空洞なんだね、ちょっとドキドキするけど進んでみようかな」


 下まで降りた私の目に見えたのは外壁の中、人が通れるスペースがあり、洞窟のようになっていた。


「内側の加工もしっかりしてる、ただ穴が空いてるんじゃなくてアーチ型にくり抜いてるんだ、こんなの機械でも難しいんじゃないかな」


 壁に触れてみてもスベスベしている、まるで公園にある土管の遊具みたいにツルッとしている。


 子供ならワクワクするんだろうな、探検してる気になるわ、テレビだったら、この先に何が!!ってテロップが出てコマーシャル、そのコマーシャルが長いんだわ、気になって待ってる身にもなって欲しいよ。


 しかし外の明かりが一切入って来ない、どっかに出入り口があるんじゃないかと思ってたけど当てが外れた。


「あ、行き止まりだ、ん?扉かな?」


 目の前は行き止まりになっているが、地面から20センチくらい上に扉みたいな加工がしてある。


「あぁ、ここに手を入れるのか、押しか?引きか?意表をついてスライドとか?」


 結果、全てハズレ、シャッターの様に上に持ち上げるが正解だった。


「門の脇か、なるほど、衛兵とか門番の通路なんだろうな、そこの小さい小屋が詰所的な感じか」


 正直あの凹凸を降りるのは怖かったので助かった。


「次は中を見学、前回は入城してから一直線で玉座の間に行ったから、今回は少し散策してみよう」


 城に入って左右を見渡す、上から見た感じだと2階もある感じだったからどっかに階段があるはずだ、探せ探せ~


「階段がどこにもない、でも天井高みると絶対あるんだよなぁ、あれかななんかのギミックでもあるのかな」


 そうなると疑う場所は1ヶ所だけ、玉座だろ、こういう謎解きも楽しいな。


 玉座の間に行きペタペタと玉座触る、これといってギミックになる様なものは無い。


「ふぅ、考え過ぎだったかな、この玉座も綺麗よね」


 肌触りの良い生地が張られ、程よいクッション、ちょっと座ってみた。


「これが王様の視界か~なんか気分が良いね」


 カチッ


 そんな音が肘掛けからした、後ろの方からズズズっと何か擦れる音がする。


 カチッと鳴ったところを見ると、ちょうど手の位置にスイッチらしき突起を見つけた。


「これか~!通りで分からないわけだ、座らないとスイッチが浮かび上がらないんだ、よく出来てるな~」


 ズズズっと音がした方を見ると壁が開いて通路になっていた、通路の奥には上に行く階段と奥には扉が見える。


「ジュライお邪魔しまっす!」


 階段を上がると両開きの扉、どんな部屋なのか覗いてみる、赤いベッドがあり、その奥の壁には……私はそれを見て静かに扉を閉めた。


「勝手に見ちゃダメだよね、ごめんねジュライ、ジューン、貴女達の大切にしていた……」


 チラッと見えた部屋の壁には、当時のジューン・カタストロフと思われる女性と小さな子供達の絵が飾ってあり、全て額縁に入っていて大切に保管されている感じだった。


 ジューン・カタストロフ時代には子供が沢山いたとジュライから聞いている、受肉した身体に生殖機能が無いと知ってちょっとガッカリしていたから、私は勝手にその行為が好きなアレな女性かと思い、心無い言葉をかけた事を恥じた。


 城を見に来たのに趣旨が変わってしまったと反省する。


「帰ったら謝ろう、怒られるかもしれないけど仕方ない、今日は大人しくお説教されとこう」


 帰ろうと思い玉座の間に向かう、玉座に座りギミックを発動させると壁が閉まった、それと同時にジュライとジューンが転移陣を使ってやって来てしまった。


 突然の出来事に、正直に言うか迷った、隠しておけば今まで通り、でも……。


「ジューン、ジュライ、ごめんなさい、勝手に歩き回って、その……2人が大切にしていた部屋を勝手に見ちゃった、反省してます、ごめんなさい」


 2人は顔を見合せてから


「なんじゃ?罰が必要か?」


「痛いのは嫌だけど、大切な物を黙って見られた2人の心の方が痛いと思うから、死なない程度にお願いします。」


 ジュライが近くに来た、私は目を瞑り歯を食いしばる。


 パチンッ


 おでこに軽い痛み、デコピンだ。


「これで終いじゃ、良いな?ジューン」


「えぇ、私は素直に謝ったから許していたけど、ヨーコは罰を受けて納得したかったでしょうし、良いんじゃないかしら?」


 おでこを擦りながら2人を見るとジュライが


「では行くぞ、カタストロフ城ツアーじゃ、ついてこい」


 訳がわからない私はポケーとしていた、ジューンが私の手を引いてジュライの後に続く。


「妾達が一緒なら構わんじゃろう?」


 ニヤッと笑って私を見るジュライ


「彼女が言ってるんだから平気よ、行きましょ」


 2人の優しさに涙が出そうになる。


「ヨーコはここに来た時から見たがっておったからのぅ、何時でも案内出来るように片付けに来たのじゃ、そしたらほれ、好奇心の塊がおるではないか、びっくりしたが何れ案内する予定じゃった、妾が案内するのは特別じゃぞ?感謝の気持ちとして白ワインを所望する」


「えぇ!勿論!酔い潰れるくらい沢山出してあげる!」


 そして始まったカタストロフ城内見学ツアー、隠し通路の先の扉は宝物庫になっていた、ジューンがゴニョゴョと何かを呟くと扉が勝手に開いた。


「ここにあっても仕方あるまい」


 目の前には金銀財宝は勿論、巻物の様な羊皮紙の束に、見た事の無いアイテム類、そして


「これはな、ダンジョンコアじゃ」


 目の前には台座に乗った、いや浮いてる?黒い玉がフワフワと浮いていた。


「コレが消えると3日後にはダンジョンが崩壊する、所謂心臓部分じゃな、無理に破壊しようとすればダンジョン内の魔物が一斉にやってくるから気をつけるんじゃぞ?」


 後ろではジューンが片っ端から金銀財宝をアイテムバッグに入れていた、そんな荒っぽく扱って平気?


「こっちは完了よ、次は寝室ね」


 綺麗さっぱり無くなった金銀財宝とアイテム、入った時は気づかなかったけどかなり広い部屋だ。


「うむ、念の為結界を張っておくか、ヨーコが間違ってコアを壊さぬ様にな!」


 ジュライによって張られた結界、かなり頑丈そうだ。


「では行くぞ」


 2階に向かう3人、寝室の扉を開くジュライの後にジューンと2人で中に入る。


「妾の寝所じゃ、魔王時代の妾に睡眠なぞ要らんのだが、ほれ、アレをする時用じゃカカカッ!」


「もうっ、ジュライったら、ヨーコに変な事言わないの!」


「大丈夫だよ、ジューン、私大人の女だから……何よ2人して」


 私が大人の女と言ったあたりでニヤニヤしながら私を見る2人。


「大人の女か、クククッ!そうじゃな大人の女じゃな!」


「ふふふっ、大人の女性はもっと落ち着いてると思ってたわ」


「ちょっと!なんなのよ2人して!私も大人だもん!そりゃ貴女達に比べたらアレかも知れないけど」


 あぁ~良く思春期の子供を子供扱いすると、めっちゃ反抗されるのはこういう事か!


 そんな冗談を言っていたら壁に掛かった絵の前に来た。


「妾の子供らだ、どうじゃ?中々イケメンも多かろう?」


「子供達もだけどジュライって綺麗だったのね、勿論今も綺麗だけど、体を作る前に見ておけば良かったかも」


 綺麗?そんな言葉では表せない様な美しさ、誰かな、この雰囲気は……あ!女神様達だ!


「なんか女神様達に雰囲気が似てるね」


「創造主が一緒じゃからな、不思議な事もあるまい?」


「創造主が一緒ってジュライも神様だったの?」


 そういう事だよね?


「少し違うのぅ、妾は言うなれば創造主の失敗作じゃ、神の力を得る前に感情が芽生えてしまった、神としての役割を果たせぬならば地に堕としてしまえと、外見は似ているが、神とは似て非なる存在じゃ」


 ジュライの話だともう1人そんな存在が居たらしい、地に堕とされながらも使命はあって、ジュライの使命は人々に敵対する存在として君臨する事、もう1人は人々を導く存在としてジュライを倒す事、そのもう1人の存在がマーチの先祖に当たるメルギル帝国の初代皇帝。


「じゃから妾は魔王としてマーチに討たれた、ここに来た遭難者に皇帝が死んだと聞いた、次は妾の番じゃと思っておったから悔いは無い、その皇帝はコイツじゃ」


 ジュライが見上げる絵には、ジュライと小さな子供を挟んで立つイケおじ、ってかこの立ち位置だともしかして2人は……


「マーチには絶対に言うでないぞ?」


 やっぱり!マーチはジュライの子孫なんだ!この子の何世代後かは知らないけど、マーチが自分の血族と一目見てわかったそうだ、でもその時マーチはメルギルの名を名乗らなかったって、そう言えばこの前もライカストって名乗っていたし。


 当時タイミングが悪い事に、魔王ジューン・カタストロフのお腹には人族との子供が宿っていて、自分が討たれる覚悟はあったが、簡単に死ぬ訳には行かなかったと、せめて子供だけと思い、当時の使用人だった魔族の子宮に子供を転移させマーチと戦ったそうだ。


「なんなのよそれ、そんなの悲劇じゃないか……」


 日本の戦国時代にも血を分けた兄弟や、親と争ってどちらかが殺される事はあった、現代を生きた私からは想像出来ない事で、なぜ身内で争わなければならないのか、なぜ殺さなければいけなかったのか、多感な時期に日本史の授業が嫌いになったきっかけだった。


「マーチを生かそうとしたが、横槍を入れられてのぅ、蘇生術を消されてな、奴は勇者と言っていたが力無い者だった、どこで手に入れたのか知らぬが、蘇生術だけを阻害する魔道具を使われた、結果生き返させる事が出来ずに妾はマーチを殺してしまったんじゃ」


 その時使った蘇生術は自分の命を対価にする術で、術者は死ぬが確実に対象者を生き返させれる術だったそうだ。


「まるで、そうなると知っていたかの様な感じね」


「言い得て妙じゃの、その通りかもしれん、もう終わった事じゃ」


 凄く引っかかる所が沢山ある、でもそれを聞いてどうなる?ジュライは既に過去の事として消化してる、傷を抉る様な事を聞くのは可哀想だ。


 ジューンが絵を一枚一枚アイテムバッグに入れていく、彼女もなんだか絵を見る度に微笑んでいる様子、今は別々の身体になったけど、元は1人だったんだからジューンにとっても思い出深いんだろう。


「こんなものかのぅ、ベッドはこのままにしておくか、たまに使うかもしれんからのぅ」


「身内同士での行為は禁止よ!もし破ったら私は軽蔑するからね!」


「ふふっ、ヨーコ、それはジュライの冗談よ、ジュライが抱かれる様な魅力があの2人にあると思う?」


 確かに、オクト達には失礼だけど、男性としての魅力は残念ながら全く無い。


「確かに……そろそろ良い時間になって来たから帰ろうか」


「そうじゃな、白ワインも出ることだし、ネロに頼んでツマミを作って貰わねば」


 ツマミか、白ワインなら海の食材があれば良いんだけどな、アサリのワイン蒸しとか最高じゃんね、残ったスープにパスタ絡めて〆まで美味しい、やっぱり近いうちにミルザの街に遊びに行こう、海の近くなら色んな食材もあるはず、でも食材だけならその先の漁村に行った方が良いかな、輸送しない分新鮮だろうから、中には刺身がイケる魚もいるかもしれないなぁ、楽しみになって来た。


 そんな妄想をしてニヤニヤしながら、転移陣でクランハウスに戻った。

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